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変化と宣戦布告



ピーンポーン


一波乱あった後、舞香も加わり雪音さんの家の片付けを終わらせ、俺の部屋にまた集まりくつろいでいたらインターホンが鳴った。


おそらく絵梨花ちゃんだろう。

先程のメールに撮影終わったら行っていいかって書いてあったし。


「はーい」


「ただいま!俊くん!」 


「ちょ!?」


玄関を開け、部屋に入ったと同時に抱きついてきた絵梨花ちゃん。抱きしめられることによって柔らかい感触が俺を包む。


「ちょ、当たってるって!」


「いいの!

 今日は会えてなかったから!」


いやどういう事だよ!!!

心の中でツっこんでいたら


「本っ当に油断も隙もないないのね!

 はーなーれーなーさーい!」


玄関の音を聞きつけて舞香がリビングからやってきて、俺たちを離そうとする。いや、だからそうやって引っ付いたら柔らかいところが当たってるって妹よ!


「どうしたの・・・あ、お嬢。

 ・・・お疲れ様です」


「ん・・・?お嬢?

 え!?なんでYukiちゃんがいるの!?」


二人の騒ぎを聞きつけた雪音姉さんがやって来て、絵梨花ちゃんに挨拶をする。さっきの会話からも分かるように、どうやら二人は既に知り合いのようだ。


とりあえず絵梨花ちゃんに雪音姉さんがここにいる経緯を説明する。雪音姉さんって長いな。

頭では雪音って言う練習をするか・・・


「なるほどね。

 まさかYukiちゃんが俊くんの知り合いで義姉になったなんて・・・ちょっと羨ましい」


「・・・お嬢こそ、

 俊と幼馴染とは知りませんでしたよ」


「だーかーらー!

 お嬢はやめてって言ってるでしょ?

 なんか怖い人みたいじゃない!」


「えーと、

 なんで絵梨花ちゃんがお嬢なの?」


独特な呼び名が気になりすぎて雪音に聞いてみる。


「私の入っている事務所がお嬢と一緒のところなんだけど、そこの社長さんがお嬢・・・絵梨花ちゃんのお父さんなの。」


・・・そういうことか

今の話を聞いて林間学校で田村先生が言っていた、絵梨花ちゃんの事務所の社長に俺の名前を出したら一発OKがでたことについて納得がいった。


ちっさい頃、絵梨花ちゃんの家に遊びに行った時によく絵梨花ちゃんのお父さんにも遊んでもらっていた事がある。


自分のよく知らない男より、少しでも知っている俺ならいいよってことね。


ということはあの宿泊施設も絵梨花ちゃんのお父さんが!?

・・・今度お礼のご挨拶に伺わせていただこう。


「むー!だからお嬢は・・・」


「だって昔、

 お嬢にしてって言ってたじゃないですか・・・」


「それはYukiちゃんが社長の娘で年下だからって、

 お嬢にちゃんつけてお嬢ちゃんって呼ぶから、

 それならお嬢にしてって言ったのー!」


あぁ、なんとなくそのやりとりは想像がつく。

俺も今の呼び名になる前に何度も変なあだ名を通過して来た。


いつも小吉と練習してたから『後輩1』とか、

あおいしゅんすけだから『青春』とか・・・


そう、この人はいつも冷静で凛としているが

変なところが抜けている・・・いやおかしいのだ。


あれ?なんか今考えたらこの特徴めちゃくちゃ既視感がある。気のせいか・・・?


「とにかく!

 この際だからお嬢じゃなくて絵梨花にしてよ!」


「わかりましたよ絵梨花・・・ちゃん?」


「タメ口でいいって!

 私も雪音ちゃんって呼ぶね!」


「ん。わかったよ絵梨花」


絵梨花ちゃんが俺と舞香以外にここまで明るく喋ってるところを見るのは初めてだ。

雪音とは随分と仲がいいみたいだな。


絵梨花ちゃんが来て少し経ち四人で話した。

舞香と絵梨花ちゃんはその間も終始いつもの調子で、俺に絡んではその都度口論を繰り広げていた。


初めてこの光景を見た雪音は少し驚き


もしかして二人って俊のこと好きなの? 


と聞いてきた。この質問に対しどう言い訳しようかと考える間もなく、間髪入れずに二人の方が二つ返事で肯定してしまった・・・


この二人はこの関係がばれる危険性なんて、毛ほども考えてはいないのだろうか・・・


そんなこんなで時間も経ち、窓からの景色はすっかり暗くなっていた。


「・・・じゃあ俊、編集もあるし私は帰るよ。

 舞香ちゃんと絵梨花もまたね」


「はい!またね雪音姉さん!」


「雪音お姉ちゃんまたね!」

「雪音ちゃんまたね〜」


そう言って彼女は俺の部屋を出た。


・・・俺の気のせいだろうか。

その時の彼女の顔はどこか悲しげというか、

憂いを帯びたような顔をしていた。





****





私はごちゃごちゃした先程の騒がしい空間とは対照的な、きちんと整頓された静かな空間へと帰ってきた。 


「・・・」


一週間前にこれからお世話になる佳奈美さん・・・お義母(かあ)さんの息子さんに挨拶に行った時、その相手がまさか俊とは思ってもいなかった。



・・・今でも鮮明に思い出せる。



「雪音さん。

 俺、ずっと雪音さんが好きでした!

 俺と付き合ってください!」


放課後に校舎裏に彼に呼び出され、そう言われた。

私はとても嬉しかった。


だって好きな人に告白されたんだもん・・・


私は俊の事が大好きだ。

告白された当時も・・・今も


だけど告白された時タイミングが悪かった。


私は告白の一週間前にお父さんから、お母さんと離婚するという事を聞かされ、私は父さんと一緒に父さんの地元へ引っ越すと告げられていた。


告白自体は本当に嬉しかったが、当時まだ中学二年生だった私はそこで受け入れて彼と遠距離恋愛する自信なんてなかった。


怖かったのだ。


会えなくなって飽きられてしまうかもとか、

彼に別の好きな人ができちゃうかもとか・・・


今思えば私が彼を信じてやれていれば解決した簡単な悩みなのだが、当時の私にしてみれば、そんな一瞬で正しい答えを導き出すことなんて到底出来るはずがなかった。


「ごめん・・・」


私は彼の告白を断った。

その時の彼の悲しそうな顔は今でも忘れない。


その顔は私がつくりだしたはずのに、

その顔を見た時、何故か私は彼の唇を奪っていた。


「・・・え?」


彼は呆気に取られていた。


当たり前だろう、振られた相手が自分からキスしてきたんだもの。私でさえ理解していないのに、理解など出来るはずがない。


自分の突然の行動に焦った私はその場から逃げ出した。そして俊達のもとからまたも逃げるように、何も言わずに引っ越したのだ。



引っ越してからは毎日、あの時の事を反省した。


何で私はあの時断ったんだろう・・・

断らなければ、今頃・・・


けどこんな反省をしたところでとっくに意味なんか失っている。だって、既に彼は逃げ出した私のことなんて嫌ってるだろうから・・・


頭ではそう思いながらも、

俊に会いたい気持ちは日に日に強くなっていった。

そうだよ!うじうじしてたらだめだ。

振られるかもしれないけど次は私から告白しよう!


そう決意して彼と連絡を取ろうと、

携帯をポケットから取り出した時


ドン!


「っ!? あっ・・・」


駅前だったこともあり、急いでいた人とぶつかって携帯を落としてしまい、拾ったら携帯は壊れてしまった。バックアップをとっていなかった私はこの出来事で俊の連絡先を失ってしまった。


神様から、私たちは運命の相手ではないと言われてるようだった。


一縷(いちる)の望みすらたたれたが、

それでも私は諦めることはしなかった。

だって、既に私の心はそんなこと出来ないくらいに俊でいっぱいなんだから。


どうしようか考えた私は、

暇な時に見ていた動画サイトを思い出した。

有名な配信者ならファンも何百万といる。

私も、この人たちみたいに有名な配信者になれば俊に見つけて貰えるかも・・・


そう考えてからはすぐに行動に移した。

配信からコスプレ、テレビ出演まで何でもやった。徐々に知名度がでてきて女優の絵里が所属する事務所にも入る事もできた。


けど、やっぱり俊からの連絡はない・・・


やっぱりこれじゃダメだったか・・・

もしかすると、もう手遅れかも・・・


仕事は成功しているはずなのに、

いつまで経っても満たされる事のないこの想い。


その落ち込んだ心に追い討ちをかけるかのように、

私の家に変な手紙が届くようになった。


事務所に相談したら、引っ越しをした方がいいと言われた。父ももうすぐ再婚するらしいしちょうどいいのかな・・・私がそういった事を考えていると、


「Yukiちゃん、どうしたの?

 元気なさそうだけど・・・」


「あぁ、お嬢。おはようございます・・・」


お嬢・・・絵里が心配して声をかけてくれた。

絵里はいつも本当に優しかった。

元気がなさそうな私を見つけたら話しかけて励ましてくれたりしたし、手紙の事に関しても相談に乗ってくれた。


こんな完璧な人なら、私みたいな悩みもないんだろうな・・・


けど、彼女の雰囲気もここ最近でガラッと変わった。前も今と変わらず優しかったが隙もなく『完璧な美女』という少し硬い印象をもっていた。


だが、今は5分に一回は携帯をみてニヤニヤしたり、

すこし柔らかく話しかけやすい雰囲気を纏っている。何か嬉しい事があったのだろうか、人ってこんなに変わるものなんだな・・・



それから1ヶ月後、私は俊と再会することができた。

その時の私は嬉しくて嬉しくて、普通の会話でも笑いが止まる事はなかった。


だって、俊の部屋の隣に住めるんだよ・・・


あぁ、今お嬢くらいニヤニヤしてるんだろうな。

自分でそう感じれるほど、あの日の私はニヤニヤがとまらなかった。

もしかするとお嬢も誰かに恋していたのかもね。


あの後、俊に彼女はいるのかとお義母さんに一応聞いてみたら、いない筈と言っていた。そこで私はさらに浮かれたのはいうまでもない。


だが問題もあった。

私と俊が義理ではあるが姉弟になるという事だ。

この場合には彼とそういう関係になる事はできるのかな・・・


考えに考えぬいた結果、

高望みはしないようにしようという結論にいたった。


ただでさえ天に見放された恋なのに、これ以上望んだらバチが当たって、また離れ離れになっちゃうかもしれない。そんな事になるならば、やっと得ることの出来た今の立場のまま一緒にいたいと考えたからだ。


だが、ご飯を作るため俊の部屋を訪れた時、問題が起こった。


なぜか歯ブラシは二つあるし、アイドルである斉藤舞香さんが彼の部屋に入ってきて、ただいまと言ったのだ。


え?もしかして二人はそういう・・・

けど、彼女はいないって・・・


私はダメだと分かっていても、

自分を抑える事ができなかった。


だが、話を聞いてみれば彼女も私と同じような関係だった。反応を見るにきっと彼女は兄として俊の事が好きなんだろう。私はそこで改めて俊の姉になる決意を固めた。


だが、俊がお嬢とも幼馴染という事を知り、

私はあの突然のお嬢の変化を思い出した。


お嬢は最近引っ越したと言っていた。

そして今お嬢は俊の部屋の隣に住んでいるという。


誰か好きな人でも出来たのかと思ったたけど、

もしかしてそれって・・・


その疑惑の答えは案外早くわかった。

お嬢が部屋に来たといって、俊が玄関に迎えに行くとなにやら玄関が騒がしくなった。

それを聞いた舞香ちゃんが


「・・・あの乳デカぁ!」


と言って玄関の方に向かい、さらに騒がしくなった。気になり私も玄関へと行くと玄関でお嬢が俊を抱きしめていた。


あぁ、

やっぱりお嬢は、俊の事が好きなのか・・・


私はその時お嬢を心底羨ましく思った。


幼馴染なんて男にとっては大好物のようなものだろう。私はお互いをもう一度引き寄せてくれた義姉という立場を、この時ばかりは憎んだ。


そして、お嬢が来てから舞香ちゃんにも変化が起こった。俊にアピールするお嬢に張り合うように、舞香ちゃんも同じく俊に必死にアピールするようになったのだ。


はじめはその光景も、大好きなお兄ちゃんをとられたくないからだろうと思っていたが、

彼女の顔はまるで本当に彼に恋をしているようにキラキラしたものだった。


私は義妹のそんな顔を見た時にポロッと言葉が口から溢れていた。


「もしかして二人って俊のこと好きなの?」


その私の無意識の問いに間髪入れずに二人は


「「うん!」」


と、はっきりそう答えた。

そこからの記憶はあまり覚えていない・・・



****


「ふぅ・・・」


私は部屋に帰ってからずっとこれまでの事を振り返り、考えていた。


・・・舞香ちゃんも絵梨花も俊のことが異性として好きなのか。


義妹という立場をもろともせずに、あの超絶美人で完璧な幼馴染に立ち向かっていく舞香ちゃん。


離れ離れになったけど、まるで運命のような出会いで再会を果たし積極的にアピールを行う絵梨花。



私は本当にこんな二人に勝つ事ができるの?



「・・・ふふ」


私は気付けば笑っていた。

思い出したんだ、考えるだけ無駄だということに。


義姉だからとか、恋敵が強いからとか、どれだけ理由を取り繕おうと私は既に俊を諦めることなんて出来ないでしょ。


だって私の行動原理は全て、俊なのだから。



もう二度と後悔の残る選択はしない。

運命なんて・・・私がぶち壊してやる!




雪音が帰ってからは、いつものように両腕にしがみつく二人をスルーしながら、テレビを見ていた。


すると、玄関から ガチャ と扉が開いた音がした。

やば、閉めるの忘れてた。誰が入ってきたんだろうと思っていたらリビングのドアが開き、

そこには雪音が立っていた。


「・・・おねーちゃん?」


「雪音?どうしたの?」


「・・・」


二人が雪音にそう聞くが、

彼女から返事はなく、静かに歩いて俺の前まで来た。


・・・本当にどうしたんだ?


「・・・雪音姉さん?」


「・・・ねぇ、俊?」


「ん?」


「やっぱりお姉ちゃんはやめてくれない?」


「え?」


雪音はそう言うと、しゃがんで俺の首へと手を回し

あの日みたいに突然俺の唇を奪った。


「っ!?」


「「え!?」」


横の二人も目を丸くして驚いている。

え?どういうこと?

あまりの突然の出来事に声もでない。


「・・・俊が好き。

 二人じゃなくて私と付き合おうよ」


「「「・・・」」」


そう言って頬をすこし赤く染めニヤッと笑う雪音。

突然の告白に俺も横の二人も固まっている。


「な、なんで!おねーちゃん!?」


「そ、そうよ!何で雪音ちゃんも!?」


「私もずっと俊の事が好きだったの。

 だから貴方達には絶対に渡さないわよ?

 

 俊、これからは覚悟しておいてね」


抱きつきながら 覚悟して と囁く雪音。


な、なんで雪音が俺のことを!?

ていうかずっと!?

これは人間的にって意味じゃないよな!?


やはり雪音の考えている事はよくわからないが、

今の雪音の顔は間違いなくあの頃のようにキラキラしていて楽しそうなものだった。




次回投稿は7/9(金)です。


もし続きが読みたい!面白い!と

感じてくださった方!創作意欲につながりますので

お手数ですが評価、お気に入り、感想など宜しくお願いします!

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