先輩と初恋
「あら?あなた達、知り合いだったの?」
母さんが驚いたように聞いてくる。
本当に俺たちが知り合いって知らなかったようだな。
「・・・仮にも隣に住まわせる奴の名前くらい言わなかったの?」
「だって、聞かれないんだもん」
「だもんじゃねーよ。だもんじゃ!」
俺たちのやりとりを見て、
横で雪音さんはクスクスと笑っていた。
「・・・何笑ってるんすか」
「いや、やっぱり佳奈美さんに任せて良かったなって」
「もう、佳奈美さんじゃなくてお母さんでしょ!」
「ふふ。ごめんなさい」
なんか雪音さん楽しそうだな。
そんなに俺に会えたのが・・・って何考えてんだ。
ここのところ夢のような事が続きすぎて
自惚れた事を考えてしまった。
「でもちょっと意外ね。
こんなに可愛い雪音ちゃんが俊介と知り合いって」
「最初は私から彼に興味があって話しかけたんですよ?」
「え!?興味!?
どんなところに!?」
・・・母よ、前のめりになりすぎだ。
それにこの人の興味っていうのは恋愛的にではなく
人間的にという意味だ。
俺はそれを痛いほどしっている。
「俊介くんは当時からとっても優しかったんですよ。みんなが困っていたらすぐ手を差し伸べるし。友達をかばって自分が怪我したのに、愚痴ひとつこぼさないし。」
「え?俊介、あんた怪我したの?」
「あぁ、まぁ中1の頃だから・・・」
「中1・・・
ごめんなさい、私気づかなくって・・・」
母さんは反省したように俯いてしまった。
中1の頃というと、父さんと別れてそんなに経っておらず家族間は結構ギクシャクしてた時で、結構母さんは俺に会うのも躊躇うほど落ち込んでいたらしい。
別に気にしなくてもいいのに、
母親失格みたいに感じているのだろう。
だが、それもこの母親のいいところだ。
「大丈夫!雪音先輩と友達が毎日お見舞いに来てくれたからさ!母さんとはこうしてまた楽しく話せてるんだから、俺は嬉しいよ」
「俊介・・・
やだ、私ったら涙腺弱くなっちゃって。
ちょっと席を外すから、二人で話しててちょうだい」
そう言って、
少し目を潤ませながら母さんは席を立った。
「・・・相変わらず優しいね俊は」
「・・・懐かしいですね、その呼び方。
こんなの優しさでもなんでもないですよ」
「ううん。
佳奈美さんの話にいつも君のことが出てきてた。
とても優しい子だってよ?
あまりにも楽しそうに話すからちょっとだけ興味がでてさ、今回の隣人の話も是非その子でって言ったんだけど、まさかというか、やっぱりというか」
「・・・すみません。
言いにくいなら今からでも俺から断っておきましょうか?
流石に雪音さんも嫌でしょ、振った相手と隣人としてこれからも話さないといけないなんて」
そう、これは小吉すら知らない二人の秘密。
俺は小吉に雪音さんが好きという事は伝えていた。
だが、告白し振られた事に関してはショックすぎて伝えれなかった。
雪音さんは肩まで伸ばした目立つ薄い青髪とその美貌もあって学校中から絶大な人気があり、他校からも告白に来るくらいだった。
そんな中、同じ部活に入った俺は一つ上の彼女に恋をした。
俺の初恋だった。
怪我をした時、毎日病院に通ってくれた事や、
いつも楽しそうに話してくれた事を勘違いしてしまった俺は、彼女に告白した。
だが結果は惨敗。
「・・・ごめん。俊とは付き合えない。
でも、これで許して・・・」
そう言って突然俺のファーストキスを奪って、彼女は何も言わずに転校していった。
それから彼女とは連絡をとることは出来てもする事はなかった。きっと、二人とも気まずくなってしまったからだろう。
だからこそ、雪音さんは優しいから言い出せないだけで、今回の事も本当は別の人に変更して欲しいと思ってるはずだ。
「・・・いや。」
「え・・・?」
「私は嫌よ、隣人は俊でないと。
それにこれまで話してなかったから話したい事も沢山あるし。このまま住ませて貰うから」
少し不満そうな顔をして雪音先輩はそう言った。
あれ?なんか俺、おかしいこと言った?
「ごめんごめん、二人とも!
思い出話でもしてたの?」
「えぇ、楽しかったです。
やっぱり佳奈美さんが言う通り優しい子ですね俊介くん」
「そうよね!よかったぁ。
そう言ってくれて私も嬉しいわ!これからは義弟としても俊介をよろしくね!
じゃあ、雪音ちゃんも気に入ってくれたみたいだし用事もあるから帰るわね!引っ越しは一週間後だからよろしくねー!」
「あーうん。わかったよ」
本当に忙しない人だな。
まぁ、そんなに長居する場所でもないからな
「これからもどうぞ宜しくね俊介くん。
またご挨拶に伺うわ。
それじゃあ俊、またね!」
そう言ってニコッと微笑み、母さんには聞こえないくらいの声量でまたねと言う雪音さん。
知ってはいたけど相変わらずの美貌。
そして、落ち着いて凛とした態度。
色眼鏡なしでもやはりとても素敵な女性だ。
雪音さんが隣に越してくるのか・・・
それにそっか、母さんの義娘なら俺の義理の姉ともなるのか・・・
少し胸が高鳴りながらも、舞香と絵梨花のことを考えると、何か起こりそうで胃がキリキリとしてしまう俊介だった。
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