札
四
芹菜は混乱していた。
ここは、本当に、どこなのだろうか。
聞き取れない言語。
見慣れない景色。
ガルダ、という単語は聞こえた。
日本、ではないのか。
ガルダというのは、この辺りの、町の名前か何かだろうか。
子どもに連れられてやって来た大人の男性は、長いローブのような布を身にまとっている。
服装からして、そもそも違う。
まるで、歴史の教科書に載っている、ギリシャ時代とか、あるいはそれよりも、もっと前の時代の人たちのようだ。
男性は、芹菜と琉生の前で、地面に跪いた。
多分、彼は挨拶をした。
聞き取れなくても、芹菜にも分かった。
琉生がしゃがんで答えている。
「……はい。デフナさん? ですね。 ぼくはルイ。あの人はセリナ。どうか顔を上げてください」
デフナという男性はローブの裾から腕を出し、琉生の手を握りしめた。
日に焼けた顔には皺が刻まれており、瞳の色は灰色だった。
芹菜と琉生は、デフナに案内されて、夕陽の沈む方へと進む。
歩きながら、芹菜は琉生に訊いた。
「なんで、君はあの人たちと喋れるの? わたしには、彼らが何を言っているのか、さっぱり分からないんだけど」
琉生は、不思議そうな顔で答えた。
なんで分からないの? そんな表情だった。
「言葉に付いて出てくる色で、なんとなく」
言葉に、色が付いている?
瞬時には、芹菜は理解出来なかった。
歩きながら、芹菜は琉生から話を聞いた。
ここはガルダという国だという。
「聞いたことない国だね。アジアとか中近東の国かな」
ハッとして、芹菜は上着のポケットを探る。
「あ、あったあった」
スマホでいつものように、検索してみようとした。
だが。
スマホにいったんは電源が入ったが、画面にはエラーメッセージが出て、すぐに暗転した。
芹菜は意識が戻ってから初めて、背筋に冷たいものを感じた。
琉生は、伏し目がちに、噛みしめるように言う。
「あのね、よく分からないんだけど、ここって多分、地球じゃない、と思う」
案内しているデフナが立ち止まる。
目的地らしい。
大きな木を背に、十数人の人たちが、地面に座っていた。
皆、長いローブを着ている。
芹菜たちを認めると、一斉に立ち上がった。
真ん中にいる、薄い緑色のローブを身に付けた、小柄な女性が喋る。
老女である。
老婆の声を聞き取った琉生が、合唱の練習の時のような、音階をつけて声を出す。
あ、あ、あ、あ、あ――
老婆の指は、空中であやとりをするかのような動きをする。
そして頷いて、座った。
「ようこそおいでくださいました。我が国を救う、旅のお方」
今度は、芹菜にもはっきり聞き取れた。
聞き取れたのはいいが、意味は分からなかった。
国を救う?
促されて二人も腰を下ろす。
老婆は懐から、包みを取り出した。
包みから、うっすらと細い光が漏れていた。
老女はイナノと名乗る。
「この中には、神聖な札が七枚入っております。お二人に受け取っていただきたい。
この国を救うために」