荒野の夕陽
三
その国は長い内乱が続いた。
緑豊かな大地は荒れ果て、人心もそれに続いた。
統治していた者、された者、どちらも血を流し倒れていく。
国を守っていた神は、惨状に呆れたのか、何処かに去った。
神に仕えていた一族だけは、ひそかに生き延びた。
もう一度、神を呼び戻すのだ。
豊かで平和な国を、造り直すために。
その一族に、方法論は伝えられていた。
神は、音と色と形に宿る。
だが、それらを正確に読み取り、神に捧げる能力を持つ者が、一族にはもう、いなかったのである。
一族の長は決意する。
神を呼び戻す能力者を、この世界に招くことを。
…………
芹菜は目を覚ます。
薄暗い。
夕暮れなのか、明け方なのか。今、何時だろう。
身体が痛い。
痛みを感じて、芹菜の意識は覚醒する。
ここは何処だろう。
今まで、寝ていたのか。
芹菜の目の前に、目を閉じた少年の顔があった。
体を起こした芹菜に、キーンという頭痛が走る。
少年。
少年を、見た。
バイクに乗って見た景色だ。
少年は、路上にいた。
「ああああ!!」
芹菜の声に少年の瞼も反応する。
芹菜の悲鳴に近い声は、琉生のまぶたの裏に、強いオレンジ色を与えた。
何回か瞬きを繰り返し、琉生は目を開けた。
薄暗い天井から、オレンジ色の光の筋が、何本か落ちている。
丸みを帯びた天井を眺め、琉生はぼんやりと思う。
自分の部屋と、違う……
自分の部屋ではない?
すると、ココはどこ?
聞こえたのは薄い紅色。
若い女性の声だった。
「君、大丈夫?」
琉生の顔を覗き込む視線。
薄暗い中でも、視線の元の瞳には、強さがあった。
琉生はコクコクと頷く。
頷いて琉生はハッとする。
交差点にいたはずだ!
交差点で、眩暈を起こして
それから……
それから、どうした?
琉生は思い出す。
動けなくなった琉生に向かって、オートバイが走って来ていた。
何かを掴もうとして、琉生は手を伸ばして……
そのあと、どうなった?
女性は琉生を抱きしめた。
「良かった! 生きてる!」
生きてる?
そうか。ぶつかって、倒れて、どこかに運ばれたのか。
「私は芹菜。宗岡芹菜。君は?」
「羽生琉生、です。ここは、どこですか?」
二人は床に座り、周囲を見渡す。
丸い天井と、布に囲まれた、テントのような場所。
床には薄い布が敷かれている。
布の四隅には、ろうそくか何かが置かれ、チロチロと炎が揺れていた。
「わたしも、今、目が覚めたの。どこだろうね、ここ。病院、じゃないのかな……」
テントの隙間から、声が聞こえる。
芹菜と琉生は、恐る恐る、外へ出た。
いきなり目に飛び込んできたのは、杏色の大きな夕陽。
テント前には二人の子どもが、何かで遊んでいた。
「泣き声……」
琉生がぽつりと言った。
「えっ何?」
「あの夕陽から、泣き声がする」
二人の子どもは琉生と芹菜に気付き、一人が駆け出して行った。
残った一人は、小学一年生くらいの背丈の少女だった。
「”#$☆%%!&♪&’‘@」
少女が話しかけてきたが、芹菜には何を言っているのか、全く聞き取れなかった。
琉生は答えた。
「僕はルイ。こっちのお姉さんはセリナさん。ここは、どこなの?」
なんで、この琉生という少年が聞き取れて、自分には聞き取れないのか、芹菜はまだ分かっていなかった。
「そう、ここは、ガルダと言う場所なんだね」
琉生と少女は会話を続けていた。
駆け出して行った子どもが、大人を連れて戻ってきた。