3話 冒険者の試練
「俺はここのギルドマスターのガウマンだ。それで、どこでこいつを?」
奥の応接室に通されたトオルは目の前に置かれたゴブリンキングについて聴取を取られていた。
「これはここに来るまでに倒したものです。」
「占星術師のお前がか?」
疑いの目を向けるガウマンのその表情は大の大人でも震えるような顔つきだった。
「いいか。他の冒険者から奪ったり盗むことは重罪だ。最悪死刑もあり得る。調べればすぐわかることだ。本当にお前が倒したんだな?」
「はい。」
ガウマンの尋問に内心凄い怯えているがここではっきり言わないと逆に疑われてしまうと思ったトオルは臆することなく応えた。
「そうか!なら問題ないな。」
「え?」
先程までの重たい空気から一変したガウマンの表情と口調に驚きを隠せないず変な声が出てしまった。
「とはいえ、なんらかの証拠が欲しい。そこでだ。今から俺と模擬戦をしてもらう。」
「なんでそうなるんだよ!証拠ならその時助けた商人に....。」
「いいじゃないか!最近暇してたんだ。軽い運動の相手ぐらいしてくれよ。」
とうとう私情を挟んで話し始めたガウマン。トオルの言葉を遮り腕をブンブン振り回す。
「ギルマス!いけませんよ。あなたは引退したとはいえ元Aランク冒険者。相手は一方戦闘能力を持たない先生術師なんですから!」
扉の近くに立っていた先ほどの受付嬢が割って入ってきた。
「リーシャ。お前そんな小せえこと言ってると彼氏できねえぞ?」
その言葉にリーシャはガウマンにすごく怖い表情で睨みつける。ガウマンは目を逸らし、トオルへと視線を向ける。
「それじゃあついてこい。訓練場に移動する。」
「いや、俺まだやるなんて言ってな...」
トオルのことをお構いなしにそそくさと移動し始めるガウマン。
あの野郎。絶対に泣かしてやる!
♢
おい、ギルマスが新人と模擬戦やるらしいぜ。
あの新人ってゴブリンキング倒したっていうやつだろ?
占星術師らしいぜ。そんなやつが勝てるのか?
訓練場に到着し、準備をしていると次から次へと野次馬が集まってきた。どこで聞きつけたはわからないがあっという間に冒険者だらけになった。
「それじゃあそろそろ始めるか。俺に一本でも当てることができたらお前の実力を認めて冒険者登録をしてやろう。」
「わかりました。」
お互い模擬戦用の刃を潰した武器を用意され、ガウマンは身長ほどある大剣、トオルは片手剣を選択した。
「それでははじめ!」
受付嬢リーシャの掛け声の元模擬戦が始まった。
掛け声とともにガウマンは体格に見合わないスピードで直進してくる。そのまま大きく大剣を振りかぶりそのままトオルへ勢いよく振り下ろした。
トオルはそのまま剣で大剣を防ぐが凄まじい威力で足が地面へとめり込んだ。
「まさか、真正面から受け止めるとは思わなかったぜ。」
「あんた、これ間違いなく殺すきだっただろ。」
「大丈夫だ。刃はついちゃいねえから簡単に死にゃあしねえよ!」
振り下ろした大剣を持ち上げ再度横からの大振りを繰り出すがトオルは攻撃を交わし、後方へと勢い良く後退し一度距離を取る。
(たく、あのおっさん何が模擬戦だよ。こうなったらとっとと終わらせよう。)
苛立つ気持ちを一度落ち着かせて中段で剣を構えると一つ深呼吸する。そして、顔つきが変わった。
(来るか。)
トオルの先程までと違う表情と空気感に戦闘経験豊富なガウマンはそれを肌で感じ武器を構える。
そして予想が的中した。
トオルは10m近い距離を一瞬にして縮め、ガウマンの懐へと潜り込んだ。焦ったガウマンは大剣を振りかぶり目の前の透目掛けて振り下ろすがトオルは下段から剣を振り上げ大剣を弾き返した。そして、弾き返された勢いで体制を崩しのけぞるガウマン目掛けて追撃を繰り出す。打ち上げた剣をその勢いで振り下ろすと攻撃がガウマンに命中し、後方の壁へ勢いよく吹き飛んでいった。
おい、ギルマスを吹っ飛ばしたぞ。
おいつ一体何者なんだよ?
占星術師じゃなかったのか?
周りの野次馬が理解できない現状を目の当たりにしてこそこそと話しだした。
(やりすたかなあ。)
しかし、杞憂だった。
激突した勢いで砂埃が上がっていた場所から大きな笑い声が聞こえてきた。
「まさかここまでとはなあ。ここまで楽しませてもらったのはいつ以来だ。」
砂埃が徐々に消えていきガウマンの姿があらわになってきた。そして、一番初めに目についたのは赤く光るガウマンの瞳だ。
(なんだ、あの目。)
「もう一本取ったんだしいいだろ?」
「悪いなあ。俺の職業は『狂戦士』。ここまで熱い戦いをされちゃあ最後までやりたくなった!」
トオルの静止の言葉も止むなくガウマンが再び戦闘を開始した。
そこからは本物の斬り合いが始まった。やるかやられるかの勝負。圧倒的なパワーで力押しするガウマンに対して力で劣るトオルは技術で勝負した。剣を受け流し体捌きを生かして攻撃を交わしながらカウンターを仕掛ける。
野次馬たちはレベルの高い戦いを目の当たりにし呆然とその光景を眺めていた。
そして、とうとう決着の時間がやってきた。お互い握っている武器がボロボロになり、最後の一合でとうとう武器が砕けてしまった。
「そ、そこまで!両者戦闘続行不可と判断し、引き分けとします!」
おおお!!!!!
あの新人やるじゃねえか!
リーシャの宣言により試合が終わると冒険者たちが試合の熱に当てられ興奮の声をあげる。
「楽しかったぜ。また今度やろうや。」
「絶対お断りだ。」
ニコニコと微笑みながら手を差し出すガウマンにもう懲り懲りだと言わんばかりに疲れた表情をしながら差し出された手をそっと掴み握手をして模擬戦は幕を下ろした。
♢
「いやあ楽しかったぜ。それにしてもお前本当に占星術しか?レベル7の俺とあそこまでやりあえるなんてなあ。ちなみにレベルはいくつだ?」
模擬戦が終わった後再び応接へと移動したトオル。
「本当に占星術師だよ。レベルはゴブリンたちと戦った後上がったからレベル2かな?」
「え!?」
トオルの言葉にガウマンではなくその場に一緒にいたリーシャが驚きの声を上げた。
「レベル2がレベル7と対等に戦いができるなんて聞いたことありません!」
そんなにおかしなことなおか?
「いいかトオル。レベルというのはこの世界において絶対のルールだ。ただ、それを唯一覆すのが職業やスキルによる恩恵だ。」
「ただ、トオルさんが本当に占星術師であるのでしたらそれも不可能なはずです。占星術師には戦闘に役立つスキルが備わってないからです。占星術師のスキルは占い系のもので実用性が少ないことから『最弱職』とまで言われているんです。」
「まあ、俺みたいな狂戦士であれば『狂化』というスキルで一時的に能力を向上できたりするがな。まあ稀に職業に関わらずスキルのギフトを授かるものがいるがそうでない限り不可能だな。」
リーシャとガウマンの話を聞いていくつか思い当たるものが浮かんだトオル。
「確か、スキル欄に<武術S>があったぞ。(まあこれは過去の自分の能力らしいけどこれは言わないでおこう。)」
その言葉に驚きの表情を浮かべるリーシャ、そして何かを察したのか笑い声をあげるガウマン。
「<武術>スキルのSランクなんてギフトを持っているんじゃあレベル差なんて関係ないな。」
「それで俺は冒険者として認め手もらえるのか?」
「ああ、ここまで見せつけられたら認めるしかないな。おめでとう。今日からお前は冒険者だ。詳しい話はリーシャから聞いてくれ。」
そして長い長い冒険者登録が終わった。
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