12話 覚醒
薄暗い空間。俺は一度ここにきたことがある。ただ、思い出せない。
辺りを見渡しても誰もいない。何もない。自分だけが漂っている感じがする。
“また力が必要になったか。主よ。”
「誰だ!」
暗がりの奥から声が聞こえる。声の主は徐々に姿を表し、出てきたのは漆黒の獅子だった。
漆黒の獅子を見た瞬間今混ぜなぜ忘れていたのかはわからないが全て思い出した。
「お前は獅子宮のレオ。なんで忘れてたんだ。オークキングを倒した時もあっていたのに。」
“それはここが主人の精神世界だからだ。ここで見聞きしたことは覚えてはおるまい。夢の中のようなものだからな。”
「夢...。そうだ!ステラ!ステラたちが!」
夢の中というなら今現実の世界ではどうなっている!?ステラがドラゴンに襲われて、冒険者たちもボロボロだ。早く言ってなんとかしないと!
“まあ落ち着け主よ。今お前の体は瀕死で戻ったところで役には立たないだろ”
「それでも!俺には守りたいものがあるんだ!」
“では私に力を見せてみろ。さすれば主が求める力をやろう“
すると、トオルの右手に漆黒の長剣が表れた。
「そんなことをしている暇はない!今は早く戻ってみんなの...。」
”たわけ!今の貴様にあのトカゲを狩る力などどこにある!“
「けど...。」
レオの一喝に動揺を見せたトオル。ブラックアーマードラゴンの一撃で瀕死になった自分を思い返す。
”案ずるな主よ。時期に時は来る。それより、今必要なのはなんだ?“
「力...力が欲しい!大切な人を守れるだけの力が!」
”では、来るがいい!私が力を与えるだけの資格があるか試してやろう!“
「ああああ!!!!」
トオルはその勢いで目の前の漆黒の獅子へと走り出した。
ー現実ー
「トオル様!」
トオルが倒れたことにより、気が動転してか向かってくるドラゴンから動けずにいた。そして、目の前の獣人の少女目掛けて腕を振り下ろす。
その時、ステラの前にカインと二人の男たちが大盾でドラゴンの一撃をギリギリで防いだ。
「獣人の娘よ。早くあの少年のところへ!」
Aランクパーティーたちは体勢を整えて、再び戦闘に参戦し始めた。
「ありがとうございます!」
ステラは正気に戻るとすぐに立ち上がり、倒れるトオルの元へと駆けて行った。
「諸君!あの少年の努力を無駄にするな!いくぞ!」
フレンダの掛け声により冒険者パーティーたちに勢いがつく。
「トオル様!トオル様!」
トオルの元へとたどり着いたステラはトオルを抱えなんとか起こそうとするが脈は短く呼吸も弱くなっているのがわかった。
「トオル様!死なないでください!こんなところでお別れなんて。恩返もまだできてません!こんな私を助けてくれて、必要だと言ってくれたトオル様に!これからいっぱいいっぱいあなたの側で私...。だから、戻ってきて!トオル様!」
ー精神世界ー
声が聞こえる。聴き慣れた声。どこか安心する声だ。
レオとの戦闘の手が止まり聞こえる声に耳を傾ける。
“時間のようだ。”
「けど、まだお前に勝っていない!力がないとあいつには!」
“案ずるな主よ。時は満ちた。依代の命により、今より私の力の一端を主に譲渡する。全てやるにはまだ主は力不足のようだからな。“
「依代?なんのことだ。」
”今はわからずとも良い。いずれそも時が来ればわかる。それより今の力を使いこなしてみせよ”
「わかった。次はお前を屈服させて力と知っている全てを話してもらうからな。」
“傲慢な主だ。次に会える時を楽しみに待つとしよう”
その言葉と共にトオルの意識が精神世界世界から消えていった。
ー現実ー
必死で声をかけるステラの瞳から大粒の涙が溢れ出し、一粒の涙がトオルの頬へと落ちた。
次の瞬間、トオルの体が発光し始めた。ステラはその光から目を覆い、光が弱まるとそっと顔を隠していた手をどかすとそこには立ち上がるトオルの姿があった。
「トオル様...。」
「お待たせ。心配かけて悪かった。」
ボロボロな顔でニコリとステラにその表情を向けるとステラは嬉しさのあまり抱きついた。
「私...私、トオル様がもう...。」
「もう大丈夫だから。それより、あいつをなんとかしないと。」
今も戦っているブラックアーマードラゴンへ視線を向ける。
「いけません!そんなお体ではまた!」
「大丈夫だよ。」
すると、トオルは抱きつくステラをゆっくり離すとドラゴンの方へ体を向け、詠唱を始めた。
「我求めるは刃。汝その強靭な爪で悉くを切り裂け。『獅子宮 黒獣王刃』」
その言葉と共に漆黒の長剣が表れた。そして、もう一度詠唱を始める。
「汝その強靭な肉体で我が身を守りたまえ。『獅子宮 漆黒の鎧』」
すると、トオルの体が発光し始め光が収まると漆黒の鎧を身に纏っていた。
「その姿は...。」
驚きの光景に呆然と立ち尽くすステラ。
「じゃあ行ってくる。」
その言葉と共に勢いよく走り出した。重たいはずの鎧を着ているとは思えない速度でドラゴンへ猛進する。
「次の攻撃が来るぞ!魔法士は回復と防御の魔法を急げ!」
冒険者パーティーたちは防戦一方でジリ貧の状態を強いられていた。なんとか、攻撃を当てたいが暴れるブラックアーマードラゴンの隙を突くことができない。
「フレンダ!危ない!」
消耗しきった体をなんとか動かし、擦り切れた清新で戦闘を行っているせいで一瞬気が抜けたフレンダに見逃さずドラゴンは攻撃を仕掛けてきた。
(やられる!)
全てを察し、目を瞑る。しかし、一向に来ない攻撃に違和感を覚えるゆっくりと目を開くとそこには漆黒の鎧を着た自分物がいた。鎧の男は攻撃を弾き返し、その衝撃でドラゴンは体勢を崩し転倒する。
「大丈夫ですか?」
「その声はトオルくんか?」
漆黒の鎧から聴き慣れた声がし、目を疑うフレンダ。
「第二ラウンドだ。トカゲやろう。」
ドラゴンが体を起こし、対峙する漆黒の鎧を着た少年との戦闘が始まった。
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