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第11話大丈夫、怖くないよ（？）

　フェンリルを前にナクラはたじろいだ。

　理由はさっぱりわからないが、凄く気が立っているようであったからだ。

　ナクラはフェンリルと対峙しつつ考える。

　……『ははぁん、さてはこれイベントだな！？』と。

　だって、明らかに勝てそうにない。こんな序盤も序盤、最初の森に、普通こんなモンスターが徘徊しているはずがない。であれば、これはゲームのイベントに相違ない。

「どうしてこんなに怒っているの……？」

　そう尋ねたナクラは、『きっと適切な対応をすれば見逃してくれる。あるいは、仲間になってくれるかもしれない！』などと、見当違いなことを考えていた。

　実際は、その姿を顧みれば狼の王フェンリルが怒っている理由は自明の理。

　なにせ、錬金術でウルフの死骸を冒涜した肉巻きメイスを作った上、あまつさえ作業中に返り血まで浴びた服や靴もそのままなのである。

　仮に行ったのが『料理』であったのならば、それらの汚れは消えていただろう。

　しかし、『錬金術』にはモンスターをおびき寄せる『臭い袋』というアイテムが存在していた！　そして、最悪すぎることにウルフの血――さらにはそれだけでなく、この森の諸々素材――で汚れた服と靴は、なんと『森のヌシが激怒する臭い袋』としてのデメリット効果を遺憾なく発現していたのである！

　おまけに錬金釜を使用せず適当に作ったのも悪かった。ヌシのＡＴＫが＋２２５％という通常ならあり得ない程のデメリットが乗っていた。

　もっとも、その強化がなくともＬｖ８０の一撃が掠ってもナクラは死ぬが。

　そんな舐め腐った『臭い袋』を所持しているのが１体の人間。Ｌｖ８のルーキー。

　ＡＩ搭載のボスモンスター、フェンリルが激高し、恐怖を与えるためにあえて姿を現し、どのように殺しつくしてくれようかと威圧して睨みつけてくるのも当然の事なのだ！！

　そしてナクラは気が付いた。

「……分かった！　おなかが空いてるんだね！」

　違う、そうじゃない。その服から怨嗟に満ちた同胞の声と臭いがするからだ。フェンリルが喋れるのであればきっとそう答えたであろう。

　ナクラはメイスを構えた。……丁度、食べ物（？）がそれしかなかったのである。

「ささ、おたべー？」

　ナクラはそっと『つくね』……毒ミンチ肉メイスを突き付けた。その肉はこの森のウルフのモノ。スライムやらキノコと混ぜ合わせて火にかけた、森そのものを凌辱したかのような気味の悪い物体。

　フェンリル相手に、完全に完璧で満点回答すぎる挑発であった！

「グルァアアアアアアオオオオオオオオ！！！！！！！！」

　フェンリルは怒り狂った。当然の権利だ！　むしろもっと怒って、ナクラをハンバーグにしてもいい！

「大丈夫、怖くない……ね？　これは（きっと）美味しいつくねだよ」

　そう言ってナクラは、メイスにこびりついた肉片をひとつまみし、自身の口に運んでみせた。……猛毒無効。ナクラにはノーダメージ！　ただしデバフがどんと乗る。ナクラはＡＧＩががくーんと下がった！　ＩＮＴが最低まで下がった！　ＤＥＸとＬＵＫもこれ以上ないくらいに下がり切った！　メイスの耐久度が１減った。　どうだ、フェンリルよ、これがナクラの料理だ！

「さぁ、おあがりよ！　あ、スクリーンショット撮っとこ」

　ナクラはメイスをそっと森の木に立てかけ、両手の指でフレームを作った。……ぱしゃっ！　うん、良い絵が撮れたぞ。ナクラは満足げに頷いた。

　そんな武器を手放す暴挙を行うナクラを前に、フェンリルは出せるはずのない炎を口から吐きそうになった。そんなに要らないならその武器をもっと遠くへ捨ててやる。

　フェンリルは、メイスを咥えて放り投げようとし――噛んでしまった。『毒ミンチ肉メイス』を。

　その直後。フェンリルは目の前が真っ暗になった。

　体が冷える。手足が動かない。一体何が起きたというのか。フェンリルは混乱した。

　Ｌｖ８０のフェンリル。それは確かに恐ろしい。

　しかし……所詮はゲームのボス。弱点が存在する。してしまった。

　『イチスト』のメインクエスト終盤に町を襲う魔の森のヌシ――フェンリルには、ダメージのある『毒』だけでなく、様々な効果を併発する『猛毒』に対する耐性が、Ｌｖにして……たったの５しか無かったのである……無念……錬金術Ｌｖを上げまくったプレイヤーの作る毒であれば効くように、とサービスされていたせいで……

　フェンリルは、猛毒に侵され動けなくなった……！

【現在のナクラのステータス】

　名前　：　ナクラ

　職業　：　ヒーラー（Ｌｖ８）

　ＨＰ　：１７５／１７５

　ＭＰ　：　　６／　４４　　　備考：ファイヤーボールで一度使い果たした

　ＳＴＲ：　１５

　ＡＧＩ：　　４　（　－８０）→　１

　ＶＩＴ：　８０

　ＩＮＴ：　１１　（－１００）→　１

　ＤＥＸ：　　３　（　－５０）→　１

　ＬＵＫ：　　４　（　－５０）→　１