第0話 バーチャル・スーパー・リアリティ
(私もVRモノが書きたくなってしまったので、11月に出る新刊の宣伝を兼ねて新作を投稿します!
というわけで、『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで』の14巻&コミカライズ4巻が11月25日に発売です、よろしくお願いします!
メロブとかとらとかゲマとかアニメイトとかで予約はじまってるそうです)
――最も厄介な問題とは、その問題が認識されていない事だ。
ルーカス・D・シュナイダー
「お料理していいんだ!」
加古――アバター名:ナクラは、文字通り飛び跳ねて喜んだ。
思わず喜びを全身で表してしまったが、ここでそれを咎めるものは誰もいない。とはいえ、元の加古ならともかくナクラであれば相応に似合うアクションである。ぽよんぽよんと盛りに盛った胸も揺れた。
『オリジンスターオンライン』、それがこの世界の名前だ。
オンライン、とは言うものの、この世界にナクラ以外のプレイヤーは居ない。他のプレイヤーとは『基底世界』という共有ワールドでのみ交流でき、それ以外は通常のフルダイブ型ファンタジーRPGのようなゲーム。その最初の町にある食事処『オルタンシア』にて。
所持金が5Gの状態で、ナクラはもう一度NPCの料理人に話しかける。
「あの、あの! 手持ちのお金で買えるご飯をください!」
「あん? 金がないなら食材を用意して自分で作るこったね、お嬢ちゃん」
AIの入っていない低級NPCの料理人は、ナクラの質問に定型文を返す。
「5Gで買えるご飯はありますか!」
「あん? 金がないなら食材を用意して自分で作るこったね、お嬢ちゃん」
その定型文に、ニヤニヤと笑顔が止まらない。
そう。ナクラは見つけた――見つけてしまったのだ。『料理機能』を。
勿論、ゲームの料理機能なので、作成した料理は満腹度を回復させる『アイテム』になる。そして、モノによってはちょっとした効果もついたりするのだ。
「料理はどうすればいいですか!?」
「なんだい、厨房の隅を貸してほしいのか? 10Gで貸してやろう」
「~~ッ!」
定型文が変わった。どうやら、お金を払えば厨房を借りられるらしい!
生憎手持ちのお金は5Gしかない。ここに来る前に使ってしまったからだ。食材だって持っていない。なので、今すぐには料理することはできない。
しかし。この事実は、ナクラを飛び上がらせるほどに嬉しい代物だった。
「そっか、ここでならいくらでもお料理していいんだ!」
ナクラは心からの笑顔を浮かべ、喜んだ。
なぜなら、現実世界では料理をしようとしても絶対に止められるからだ。
包丁は危ない、火に近づくな、そんな過保護な言葉で。……確かに昔、指をシチューに入れかけたことはあるし、自慢だった長髪が燃えてショートカットになったこともあるけれど。
「まったく、昔の事なのに母さんも心配性なのよ。そもそも料理ってのは、やらなきゃ覚えないんだから! 突撃あるのみだってのに!」
とはいえゲームだ。料理機能だってタイミングを合わせて入力を行う、みたいな簡略的なものという可能性もある。が――
「鍛冶屋で聞いた『スーパー・リアリティモード』……絶対料理にもあるはず!」
そう。
この世界には、特殊なモードが存在する。
それこそが生産をやり込みたいプレイヤーが最高位の結果を求めた末に行きつくためのモード、『スーパーリアリティモード』である。
超高性能な物理演算により、難易度は文字通り『現実級』。その代わり、ちゃんとした知識でちゃんとした手順をこなせばそれが反映されるという代物だった。
もちろん、上手くいくとも限らない。ミニゲームで作った方が早いし簡単だし良い結果になるかもしれない。
―――だが、むしろそれが良い。ナクラには、それが良かった。
「そうときまれば、早速具材を狩ってこなきゃ!」
早速お金を稼ぎに、そして具材を『獲り』にナクラは町の外へと向かった。
しかしナクラ――加古は理解していなかった。
何故、一人暮らしするにあたって『キッチンなし、食事付き』という学生寮の如き物件を紹介されたのか。
何故、母が「食事無しの日はお弁当を買って食べるように」と念を押してきたのか。
そして何故、自分が料理しようとすると、周りの人間が青ざめて止めるのかを。
――地獄の鍋の蓋が開く時は、もうすぐそこまで来ていた。
( 本日は初回特典であと3話投稿 )