第一章 目標
──クシビ、お前はどんな魔法を使いたい?
──魔法があれば、何でもできる。どんな不可能も、可能にできる。神が与えた奇跡なんだ。
──ぼくは……。
「さて、まずは自己紹介からだな。俺が今日から17班のリーダーになる、オオカ・リョクだ。よろしくな」
3人が集まり、その場で顔を合わせる。一番背の高い術士であるオオカ・リョクは、威勢の良い声でそう言い放った。
こうして顔を合わせるのは、これが初めてとなる。
「私はサキノジ・アヤメ。よろしくね」
「ヤタノハ・クシビだ。よろしく頼む」
お互いに挨拶を交わす三人。
「まあ、まずは自己紹介からだが、俺達のチームの目標なんかを決めていきたいと思っている」
そうリョクが提案する。
「俺のこのチームとしての目標は、皆で怪我なく困難を乗り切れるチームを目指すことだ。それが、俺のチームリーダーとしての志でもある。覚えておいてくれ」
リョクは、そう説明を終えた。
「ああ……。」
「いい目標ね」
いきなりの事にクシビは動じるが、アヤメは動じていないようだった。リーダーとしては、かなり穏やかな雰囲気だ。
笑みを浮かべるリョク。
「では、次にみんなの目標を聞きたい。」
その提案に少し考えるクシビ。あまりこうした事を考えたことがない。
目標、か……。
俺は、今まで何を目標にしてきた……?
魔術も使えず、ただ訓練をこなしていく事に精一杯だった。
他の術士に遅れを取らないように……必死に……。
ただ、その時の訓練を無事にこなすことしか考えていなかった……。
俺に……目標……。
「人間関係は最初が肝心だ。じゃあ、次はお前達の目標を聞かせてくれるか?」
「私の目標は、一流の術士になること。多くの人も守れるような、そんな術士に……。」
「高くて良い目標だな」
笑みを浮かべてリョクが賛同する。
「じゃあ、次はクシビだ」
リョクが求めるが、クシビは俯いたまま静に答えた。
「仲間やチームに支障をきたさず、卒業する……。それが目標だ」
その言葉に、アヤメもリョクも目が点になる。
「ちょっと。それじゃ、まるで自分がお荷物みたいな言い方じゃない」
「いや……。俺は魔術がロクに使えないからな……」
兵装科の人間であるクシビには、術士科の生徒との違いはハッキリとしていた。
「だからって、あなたがお荷物と言う訳じゃ無いでしょう」
「……だが、普通に考えれば俺は……」
そこで食ってかかるアヤメに押されるクシビ。
「まあまあ。アヤメの言うとおりだぞ。クシビ。俺はお前の実力は知っている。評価に値する部分もあるんだ。決してお荷物じゃないさ」
「………。」
頷くこともなく、ただ黙ったままのクシビ。だが、自分の境遇は優しいものじゃない。
俺は、ずっとそれを気にして生きてきた……。
今までどおり、それでいい。
そうして、俺達の訓練は始まったのだ……。
「そこの術士、アヤメが他の男子を圧倒しているぞ!」
「は、はい!」
教官の言葉に、全員が頷く。厳しい魔術訓練の最中だが、全員必死になっていた。同じ班の人間であるアヤメは、魔術の才能にも長けていた。
しかし、その独特な性格からか、周りからは奇異な目で見られることもしばしばある。
訓練を終えると、アヤメの周りに居た他の術士生徒達から声が響く。
「アヤメちゃん、すごかったね。」
「大したこと無いわ。訓練の一環なんだから」
「ううん。私も巫女だけど、アヤメちゃんみたいに精霊魔術にも長けているなんて凄いよ。男子達も圧倒するなんて」
「私は──」
「………。」
そんな様子を、遠目にクシビは見ていた。アヤメの活躍は、まさに羨望の的だ。
クシビも席に座り、食事を進めていく。
「よーう。クシビ。何やってんだ?」
「何か用か?」
隣に座ったのは、同じ兵装科を受けた同僚のユードだ。軽く笑みを浮かべて肩を叩いてくる。
「まあ、そう気を落とすなよ。アヤメは魔術の才能もあるし、家系もいいって話だぜ? 俺達が努力でどうこうなる問題じゃねえよ」
「ああ……わかっているが……」
クシビは頷く。だが、やはりどこかで気負いが残る。同じチームとなったからには、遅れを取ることはできない。
「気楽に行こうぜ。まあ、あのアヤメは問題児なんて言われている部分もあるけどな。教官にも食って掛かるとか」
「………。」
その噂はクシビの耳にも入っていた。魔術の出来はいいが、何かとその尖った性格が目立つ新入生がいるのだと……。
それが、あのサキノジ・アヤメだ。
「まったく、いいよなあ。魔術のエリート様は」
「………。」
クシビは、そのままご飯を食べ終えると、静かにその場を後にした。
確かにエリートだ。自分とはまるで違う、魔術に長けた術士――。
「………。」
このままじゃ俺は……。
必死に練習を繰り返すクシビ。夜、真夜中になってもそれは続いた。
だが、これだけではダメだ……。俺には魔術の才能が無いのだから……。
やっとチームが組み上がったのだ。ここでお荷物でもなれば、俺は足手纏いになる。
チームにとっても最初が肝心。まだ自分だけで足を引っ張るわけには行かない。




