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X.en.トリガー 罰と交錯の引鉄  作者: そうのく
X.en.トリガーⅡ カゴの苑の円舞曲
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第三章



「おめでとう、アヤメ隊員。表彰状だ」

 一礼をして、それを受け取るアヤメ。自分は事件の功績者として表彰されていた。


 周りから拍手が起こる。自分は頭を下げて、ただその場からゆっくりと背を向ける。

 しかし、自分が犯人を捕まえたのは、ほとんどクシビのお陰なのだ……。


「………。」

 サナがこちらに向けて笑みを向けて拍手を送っているのが目に入る。


 表彰式を終えると、一緒にアヤメとサナは廊下を歩いて兵団本部へと戻っていた。


「ふうー、終わったわね。これでアヤメも昇格間違い無しだし、一件落着ね」

「うん。でも、私が捕まえた訳じゃないのに……」

「まあ、彼がいないんだから仕方ないわよ。それにアヤメも十分に犯人逮捕に貢献したんだから、表彰されても悪くないと思うわよ?」

 その言葉に黙り込むアヤメ。本当に頑張ったのは自分ではなく、クシビだ。

 クシビの色々な誤解を解かなくてはならないはずなのに……。


「それに、彼が無事に生きていて良かったじゃない」

「それは、そうだけど……」

 頷くアヤメ。クシビには、二度も助けられた……。

 一度目は、自分の不注意で人殺しになる手前だったのに……。


 あれだけ傷付いて、なのに庇ってくれて……。


 あの後、一体どうなったのかと思っていたが、それは無用な心配だった……。

 そして最後には、またどこかに逃げられる始末だ。


 本当は謝りたかったのに……。まだ聞いていない事は沢山あるのに……。

 








「主。これはどう言うことですか?」

「仕方ないだろう。護衛には必要なんだ。お前は彼女のサポートだ。仕事中でも見張れるようにな」

「ふふ、私が新しい相棒よ。よろしくね」

 手の中でOSを撫でるユヒカ。


 街中を歩くユヒカとクシビは、人通りの多い商店街に来ていた。


「でもすごいですね。クシビさんのポケットの中にもOSさんがいるのに、私の手の中にもあるなんて」ユヒカはその便利さに驚きっぱなしだ。

「私にはリモートアシスタント機能が付いているのです。えっへん」

 誇るように胸を張る機械。図体は無いのだが……。


「端末があれば、主への支援は常にどこからでも行えます。誉めてもいいんですよ」

「口数の多いサポートだ」

「偉いわね。主人思いなのね」代わりにユヒカがOSを褒め称える。

「ええ、そうなのです。私は常に賢い機械として存在しなくてはなりませんからね」

 自慢にも聞こえるような台詞をペラペラと喋る……。まったく大人しくない機械だ。


 そのまま街を歩くユヒカとクシビ。


「へえー、すごいですね。やっぱり王国なだけあります」

 街を歩きながら、あたりを見渡したユヒカが驚いている。


「都市外でも有名ですよ。外部からの侵入を絶対に許さない都市だって。やっぱりあの英装術士兵団がありますから。世界的に有名な術士兵団ですものね」

「そうだな……」

 短く返すクシビ。英装術士は世界的に有名なのだ。


「治安もいいし……すごいです……。私もこんな場所に生まれたかったなあ……。」悲しげな表情を浮かべるユヒカ。

「……だが、君のおかげであの国は存在している。君がいなければ、あの国は存在していなかったかもしれない」

 クシビがそう答える。あの国が存続しているのも、ルノダ・ユヒカの存在があってこそだ。先ほど、ユヒカの国についてデータを参照していた。


「そうかもしれません……。でも……私は嫌です……。あんな所……。」

「………。」

 その言葉に、多くを言わないクシビ。いっそのこと全てが無くなればいいとさえ思ったのだろう。

 それほどに、多くの自由を奪われた事が想像できる。


「治安がいいと、人々も穏やかですもんね……。今は多少は良くなりましたけど……私達のいる場所は、とても寂しい物でした……。食べ物も少なくて、あまり人も寄り付かない……。それに命を狙う術士だっていました……。」

 歩きながら表情が暗くなるユヒカ。


「でも、ここは違います……。やっぱり王国はすごいです……。」

「この王国都市が反映したのは、統地精霊の影響が大きい。あの巨大バリケードも、都市を守護する結界も、統地精霊無しでは成り立たなかった。」

「そうなんですか? あの巨大バリケード、とても有名ですよね。難攻不落の結界だって」

「そうだな……。」

 その事はクシビもよく知っている。この都市を象徴する城壁……。絶対的な守護の象徴……。昔からそう呼ばれていた。外の世界とを隔てる、絶対の壁だ。


 平和な世界と、断絶された世界――。



 




 

 日が暮れた後にも、クシビはユヒカの護衛に付き添っていた。この町の食べ物を食べたいと、意気込んで街に出ていた。

「ほらほら、クシビさん。今度はこっちに来てください。」

「ああ……」

 付いていくクシビ。本当は人目の多い所は避けたいが……。

 食べ物を食べる途中、寄り道として遊具施設へと足を踏み入れいてた。


「うわあ、すごいですね。これ、どうやって遊ぶんですか?」

 景品を眺めていくクシビ。手本になるように見本を見せるクシビ。


「上手ですね。クシビさん!」

「簡単なゲームだ」

 そうして、釣り上げた景品を差し出すクシビ。


「わあ、くれるんですか?」

「俺には必要ないからな。似合わないだろう」

 どうみても女の子に向けた景品だ。かわいい縫いぐるみなど、自分には不釣り合いだ。


「ふふ、そんな事無いです。クシビさんにも似合うと思いますよ」

「冗談は止せ」釘を刺すクシビ。妙な誤解を生む。

 そして、その遊戯施設を回るクシビとユヒカ。今度は的当てのゲームに目が止まった。


「私もクシビさんのように、私も銃を扱えれば……!」

 的を狙うユヒカ。しかし、それでも上手くいかず、的から外れる。


「うう、当たりません……。悔しいです……」

 何度も的当てを外すユヒカ。しかし、それでもまだ続けている。

 とうとう自棄になるユヒカ。


「これが上手く行くまで、今日は帰りませんよ! 」

「何をそんなにムキになっているんだ……?」

 クシビが言う。挑戦はこれで何度目か。


「私も、クシビさんみたいに銃を扱いたいです!」

「……前にも言ったが、それは一国のお姫様が物騒になるだけだ……」

 何度も忠告するクシビだが、頬を膨らませたユヒカは聞き入れない。


「………。」

 なぜこうもやる気になっているのか。まさかマフィアかギャングにでもなるつもりなのでは……。

 いけない。何か悪い影響を与えたか……。やはり教育に悪い……。


「えっと……こうやって……こう、構えて……」

「………。」

 自分の撃ち方を真似しながら構えを取るユヒカ。しかし、真似しただけでは的に当たるはずもなく……またしても大きく外れる。


「もう少し腕を上げる。狙いは銃身から見て図るんだ。」

「え? は、はい……」

 見かねたクシビは、そう指示を出すと、ユヒカは言う通りに構える。


「こうして……」

 クシビの言う通りねらいを定める。引き金を引くと、玉は見事に的に命中した。


「わあ、惜しいです! すごい!」

 的の近くに当たり、ユヒカが驚く。

「………」

 だが、今度はクシビが横に立ち、的を狙う。


 銃は玩具だ。客が楽しめるように作られた、模造品に過ぎない……。

 そのままクシビが引き金を引くと、見事に的の中心に命中した。

 そして、景品が落ちてくる。


「ほら」

「わあ、ありがとうございます!」

 景品を貰い、喜ぶユヒカ。


「やっぱり上手いですね、クシビさんは……。それに格好良かったですし……何だか悔しい気もします。私ももっと上手くなりたいのに……」

「何やら悪い影響を受けているな……」

 さらに銃を使うことに執着させてしまった……。


「俺なんかに憧れても、いい事なんて無い」

「ええ、どうしてですか?」

 疑問を返すユヒカに、クシビは玩具の銃を指差す。


「これは世間一般では違法術士の道具だ。玩具だからこうして警護術士隊の使う物に似せているが、本来は忌み嫌われている。古くからの魔術が受け継がれるこの都市では」

 玩具の銃は、警護術士隊の使用する物を模している。本来の銃は、野蛮で危険な人間が使うものとして認識される。


 クシビが、そう説明するが、ユヒカはあまり気にしていないようだった。

「でもクシビさんは優しいですし、私は別に気にしませんよ。私にとっては、かっこいい英雄です」

「間違った認識だ。それは……」

 そう訂正するクシビ。大物のお姫様はどこか世間一般と違っている。


「私の国じゃ、こうした玩具よりも、本物の方が多く見られましたから……」

「………。」

 ユヒカの言葉に、クシビが考える。確かに、そうした常識の世界も存在するのだ。


「まあ、何にせよ。お姫様が違法術士の真似事なんて、あまりいい話じゃない」

「とにかく、ありがとうございました。ぬいぐるみ。これをクシビさんだと思って大事にしますからね」

 忠告を無視し、貰ったぬいぐるみを見せながらユヒカは礼を述べた。

 話を無視され、何も言えないクシビ。


「それを俺だと思うのはよしてくれ。似てないだろう」

「ふふ、いいお土産になりそうです」

 まるで聞き耳を持たないユヒカだった。そのまま、二人はその場を後にする。

「一生の宝物にしますね」

 満々の笑みでそう答えるユヒカ。本当に楽しそうに笑うのだった。


 それは、純粋に子供のような――。


「………。」

 その時、クシビはあることに気づく。

 まるで、子供の時代だけを置き去りにしたような……。この違和感は……。

 子供の時代だけを、抜き取ったかのような感覚……。 


「………。」

 そこで、ユヒカの笑みが脳裏に浮かぶクシビ。一つの線が繋がる。

 まともに子供の時を過ごすことが出来なかった人間が、今それを体験しているかのような……。











 用事を終えてクシビが家に帰ると、さっそくヒマリが出迎えた。

「クシビ。お主、警護の最中に何か悪い影響を与えているのではないか? お前を正義の英雄か何かと勘違いしておるぞ。持て成しの仕方にも色々とあるのだぞ?」

「俺にはどうも苦手だ……お守りみたいでどうもな……」せっせと荷物を下ろすクシビ。

「お守り? お主なら容易じゃろう?」


「俺が子供をあやせる人間に見えるか……?」

 クシビが突っ込む。能面なのはもはや自覚しているのだ。


「何を言っておる。わしの扱いはあれだけ手慣れておるではないか。お守りはお主の得意分野じゃろう」

「何が得意分野だ」クシビが反論する。俺は違法術士だ。


「くくく、子供をあやすのが大得意な癖に」

「変な想像を押し付けるな」

 ピシャリと言うクシビだった。


「まあよい。とにかく、お姫様に悪影響があるわけではない。この調子で警護を続けてくれ。出来れば親密になればなるほど良いからのう。その辺の調子をとることも心掛けよ」

「それじゃ詐欺師みたいだろう」クシビが答える。

「あほう、これは接待じゃ。目上の人間に対する礼儀作法と言うものじゃ」

 ヒマリがやれやれと息を吐く。


 そこで――意味ありげな目を向けてくる。


「高位の人間、姫様のご機嫌の取り方くらい覚えるのじゃな。これも大事な事じゃ」 

「………。」

 裏の世界では、繋がりはとても重要になる。

 時と場合では、それは命より重い物になる。

 裏には裏の決まりや掟は……確かに存在する。


「この世界を生き抜くには、こうしたことも重要なのじゃ。お主も術士なら、それをしかと心得よ、クシビ」

「………。」

 その言葉を聞きながら、クシビはその部屋を後にした。










 部屋を出ると、ユヒカがクシビの様子に気づく。

「どうしたんですか? クシビさん……何だか様子が変わったような……」

「いや……。何でもない……。」

 意外に鋭く、クシビは内心で焦る。僅かな態度を顔に出していただろうか――。


「……何かあったんですか?」

 表情を見て、ユヒカは心配そうにクシビに尋ねる。笑みを浮かべるクシビが、それに正直に答えらえるはずも無く――。


「何でもない、仕事の話だ。君は何も気にしてくていい。そうだ……君は何も気にするな……」

「……?」

 呟くように繰り返すクシビだが、ユヒカはわからなかった。

 取り繕った表情だけが残っていた。


 内心で溜息を吐くクシビ。相変わらず、人を欺く事に関しては上手だ。俺は昔から……。









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