第5話
「はぁ」
今私は自分の部屋のベットで転がっている。
あの後、アイフォンの地図アプリで現在地を確認して、なんとか家についた辺りで、いきなり親に怒鳴られた。良子から、家に来る予定の私が来ない。連絡も取れないと。そこで、サイレントマナーにしてあった携帯に、私はようやく気づいた。……した覚えもないが、あの廃墟辺りが原因だろう。
親に怒られ、電話越しに良子に怒られ、その後気の済むまで話に付き合っていた。あの激戦を終えたばかりなのだから、休みが欲しかったのが正直な所。もちろん、良子を無下にするなんてありえないのだけど。電話越しにこのガマ口財布のことを話す気にもなれず、今日あったこと含め、明日直接話したいと言っておいた。
「ん?」
懐に置いといたガマ口財布に手が当たると、感触に違いがあるような気がした。手に取ると、何やら硬い感触が。顔の前に持ってきて、その口を開けて……飛び起きた。
「ぇ、え?」
中には大量の万札の束が。
「マジ?」
あの廃墟から出た後、ガマ口財布の中身は確認しなかったが、ガマ口財布がある事自体は確かめた。中身に万札の束がれば、ガマ口財布を握ったときに気づいたはずなのだ。
つまり、この万札は廃墟から出てここに帰り着くまでに集まったと見ていい。
いや、集まったと言うか、湧いて出てきた?
とにかく、私はその万札を取り出して、一枚づつ数えだした。
……布団に包まって。
親に見られたらヤバいしね?
そうして取り出してわかったのは、万札は束になっているものの、何かでまとめられているわけではないこと。万札だけでなく、何枚か千円札も混じっていること。
数は万札が26枚、千円札が4枚。
「バイト、やめようかな」
呆然として、そんな言葉が出てきた。取り敢えずやめないけど。週1しか行ってないし。
「はぁ」
パタン、と再び横に転がる。
大金を手にして動揺してしまったが、このガマ口財布、大変素晴らしいものである。どのタイミングで金が増えているのかはまだわからないが、このまま増え続けるなら一生働く必要はないし、良子を養うことも出来る。
……いや、一ヶ月以内に返さなきゃいけないんだっけか。増えたお金を貯金しても、流石に一生生きていけるだけの金は貯まらないだろうなぁ。そもそも、一生二人が行きていけるお金……6億くらい? 高校生の身分じゃ隠し場所すら困る代物だ。
あ、その前にこのお金を隠そうか。
そう思って、再び起き上がると――
「え?」
――そこには何もなかった。
正確には、広げたはずの金がなかった。
反射的に、ガマ口財布を見ると、また膨らんでいる。
「うわぁー……」
ホラーだ。
存在そのものがほもうホラーなんだけど、ホントにホラーだわ。
どうやらこの金、他の場所にしまうことができないらしい。
もしかして、払っても戻ってくるとかないよね?
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あれから、私は何度か検証を重ねた。
と言っても、昨日の今日で良子の家に行かなきゃいけないから殆ど時間なかったけど。
まず、ガマ口財布に入っているお金を何度か数えた。結果、1分に一度、千円札が増えていることがわかった。千円札は10枚集まると一万円札になる。マジで。ちなみに、もとから持っていた千円札を入れても纏まって一万円札にはならないし、その後取り出して放っておいても、ガマ口財布に帰ることもない。
次に、払ったお金が戻ってくることはない。また、小銭はガマ口財布に戻らない。但し、一万円札で払って、バラけた千円札を普通の財布に入れると、目を話した隙に、千円札がガマ口財布の中に戻っている。もらった千円札は、間違ってもガマ口財布から出てきたものではないはずなのに。
「彩花、足どうかしたの?」
「んー……足があるって良いよねー」
「?」
無意識に足をプラプラとさせていたらしい。前の席の香澄に注意されてしまった。はしたなかったね。
学校が終わると、私は良子の家に直行した。
「おじゃましまーす」
良子の家は共働きなので、両親は普段家にはいない。
「はーい」
つまり、良子が出迎えてくれる。
「良子ー!!」
「きゃ」
私は、会うなりぎゅっと抱きついた。んー、生きてるって感じがするねぇ。
「ぅー、そんなに会いたかったなら、ちゃんと昨日も来ればよかったのに」
良子も結構私好きだよね。
これが恋に変わってくれないかなー。
マジで。
「どうしようもなかったの。
私きの……ッ!?」
『話せば死ぬ』
理由がなく、理解だけが先行するこの感じ。一週間後に死ぬ、一ヶ月後に死ぬなんて宣告と同じだ。
本当に死ぬ。
「?」
「…………ごめん、話せない」
私の頭に、昨日の光景が蘇った。
『話せない、話せないのよッ!』
そんな、ヒステリックに叫ぶ彼女の姿が。
話そうとして、話せないなんてわけのわからないことを言って、弁解したくなるが、いい言葉が思いつかない。何を言って良くて、何を言って良くないのか。
とにかく、取り乱すことだけはないように、必死に堪える。
「えーと…………」
私が良子の話を断ったことなんてあったっけ。少なくとも記憶にはない。
「…………」
「とりあえず、中に入って。
それと」
「ん」
「別に怒ってないから、泣き止んで」
涙を拭われて、私は初めて自分が泣いていることに気づいた。