第30話
「良子ー!」
「わっ」
昨日の今日だけど、なんだか長い間良子に会えなかったような気がして、私は良子に抱きついた。
「あー、暖かい」
あれから適当に話をまとめて、昼過ぎには解散。良子の家に直行してきた次第である。
「また危ないことしてきたの?」
「んー、今回は仕方なかったんだよ」
私のせいじゃないし。いや、廃病院に行ったせいといえば私が原因だけども。
「そっか」
そう言って、良子は私のことをハグしかえす。
あー、安心したら眠くなってきた。
「……眠い」
「寝る?」
「寝る」
そういえば、今日は日曜だというのに朝早く起こされて、美咲の家に行ったんだっけ。
「いいよー」
良子に手を引かれて、一緒にベッドへ飛び込む。また暇になった良子に十分やそこらで起こされるのだろうけど、幸せだからそれでいい。
「ん」
「っ!」
私は触れるように良子の頬に口づけし、そのまま眠りについた。
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もう。
彩花は不意打ちでこういうことをするんだから。
そんなふうに私は前回の自分を棚上げし、良子に理不尽な怒りを抱く。
私は彩花を愛している。しかし、それは同じ同性として、愛する親友として、だ。良子の欲望に応えることは出来ない。……そして、答えることが出来ないことを、私も心苦しく思っていたりする。
彩花が私の認識を弄るようなことが出来る何かを手に入れたのなら、私は――
『流石にそれは献身的過ぎません?』
――遥ちゃん……。
『ちゃんはやめてください』
そっちも、彩花と一緒にいるときは話しかけないでって言ってるでしょ。
『寝ていますし、問題ないでしょう』
私は彩花の寝顔を見るのに忙しいの!
『また10分で飽きて起こすでしょうに』
……で、何?
『私が超常の品を使って学校に潜入していたことが、中島美咲にバレているようです。それが原因で、組織Aの連中の奇襲があることを予想したとか』
で?
『……もう護衛はとりやめても?』
だめ。
『潜入は続行するということで?』
どっちでもいいよ。
守れるなら好きにして。
『……本当に、私に興味がないんですね。
こんなにも愛しているというのに』
……私を殺しに来た貴方に、どう愛情を抱けと。
『あぁ、その殺意が心地良い』
変態。
『では、また後ほど』
「……はぁ」
あの子の相手は疲れる。
「ぎゅー」
寝ている彩花を愛でて癒やされよう。
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「良子の認識を弄るようななにか、ですか」
良子も無茶を言う。
日本における最高位、七段目保有者である良子に干渉できる超常の品など、日本にどれだけ存在することか。
彩花がそれにたどり着けると、本気で思っているわけでもないでしょうに。
良子は現状に満足している。
彩花も性欲の解消相手を見つけて、現状にある程度満足するようになった。少なくとも以前のように、抑えきれない性欲と振り向いてくれない良子への焦燥感で暴走するような状態ではなくなった。
超常の品を持つものとして、ある程度安定した立場も築き上げたようですし、案外生涯を終えるまでこのままということも。
「そうなったら私も出ていくことになりますか」
良子の力を奪える算段は立たず、かと言って戦えるような場もなし。
しかし、彩花がそれでも上を目指すなら、その時は――
「ふふ」
――同じ良子を愛するものとして、手伝ってやるのも悪くない。
私も、正真正銘百合の端くれなのだから。




