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第28話


「おはよー」


 私は寝ぼけ眼でアパートの一室、美咲の部屋へと入っていった。

 時刻は朝の8時である。日曜日なのだからもう少し寝かせてほしかったけれど、私を守るための戦闘が本当にあったようなので無下にも出来ない。

 正直遥さんが敵だったというのは納得できる。私にとって美味しすぎる相手だったし。……30万もするバッグ買わされたし。値段的に後3回分くらい残ってると思うんだけど、遥さん明日も学校こないかなぁ。

 

 ただ、昨日聞かされた襲撃されるという話は眉唾だった。そもそも提案した本人が妄想でしかないと言っているし、美咲も殺される可能性が少しでもあるなら備えるべきだと言ったから呪いの品を貸し出したけど、その言葉通り美咲も可能性が考えられる、程度にしか思っていなかったようだ。


 ちなみに、私が監視されているとすれば起きていたり、家から出ると怪しまれるのでいつも通りにしてほしい、と言われたので寝ていた。決してサボっていたわけではない。繰り返すがサボっていたわけではないし、遥とシた後の夜だから疲れていて、眠りたかったわけでもないのだ。むしろ私も見張りに入りたかった側だし。皆で深夜の見張り、楽しそうじゃない? 本当に殺し合うのはごめんだけどさ。


「おはよう」

「おはよー!」

「……おめぇが依頼者か」


 美咲と、ギャルと、不良?

 多分不良はこの前話した人だろうね。


「私達も眠いから、早速だけど本題に入らせてもらうわね」


 それから美咲は語った。


 襲ってきた敵は6人。内4人を殺害。二人は逃亡。こちらの被害は0。負傷者すらなし。持っていた呪いの品はやはり貸し出し品だったようで、すべて回収された模様。但し、その後に見つかった頭目と思われる者を殺害し、呪いの品5点の回収に成功。現在玲奈が所有権を持っている。


「何か質問は?」

「えっと……ありがとうございました」


 私は一先ず頭を下げた。

 これ、美咲達がいなかったら多分私死んでたよね。

 

 なんか実感が湧いてきた。

 

 私、死ぬところだったんだ。


 少し涙が出てきたところで、肩を掴まれた。


「そんなことよりよぉー、報酬金はあんのか?」

「あ、はい!」


 そういえば美咲が空振りだろうが戦闘があろうが報酬金を払ってほしいと言ってたっけ。襲撃の可能性が低いと言っても、敵対勢力が居ることは遥の存在がある以上確定している話。これからも護衛が必要になるわけで、その辺り報酬金を用意する必要があるとか。

 

 命を守ってくれたんだから、報酬も弾まなきゃね!

 

 えっと……運営費がまだ400万近く、私のガマ口財布に300万以上入ってるはずだから、大体700万はあるわけだ。


 確か、あの不良にガチ戦闘させて、情報料と呪いの品の合計額が100万だったけ。


「幾らっ!?」


 ギャル子が目を輝かせ、身を乗り出して聞いてくる。

 近いよ。


「戦闘報酬として、1人100万でどうかな?」

「100万っ!」

「一晩で100万。悪かねぇな」

「……これで、私も青春が」

 

 どうやら満足いただけたようだ。正直私の命を守ってくれたんだし、もっと出したい気持ちがなくもないけど、これからの護衛費用もいるという話だし、前例もあるし、私のお金にも限りはある。……前は使い道に困って、限りがないと考えてたくらいなのになぁ。


「それで、なんだけど」

「ん?」

「……今回回収した呪いの品って、買い取らせてくれたりする?」

 

 少し端切れが悪くなったのは、今回は呪いの品を回収する依頼を出していたわけではないからだ。戦闘した際の取得品についても話し合ってなかったし。


 加えて言うなら、今回のことで彼女らもある程度制限解除を受けた。三段目を手にしてないから、呪いの品があるおかしな空間の場所まではわからないはずだけど、少なくとも複数の二段目以降の呪いの品の所有権を手に入れた不良は、呪いの品の使い方が手にとっただけで分かるようになったはずだし、おかしな空間における制限も大分解除されたはず。例えば、呪いの品を2つ以上持ち出そうという発想ができなくなるとか、武器の持ち込みや、複数人での侵入などの発想を封じられる思考制限とか。


 見た目不良にしか見えないし、舎弟に貸し出して、私と似たようなことが出来てしまいそうだ。

 

 不安そうに見つめる私の顔を見て、不良が苛ついたような仕草をした。


「……依頼中に手に入ったモンだぞ?

 てめぇのモンに決まってんじゃねぇか」

「そうなの?」


 思わず聞き返した私に、ギャルが声を上げる。


「そうだよ!

 ……ただ、これ追撃で手に入ったものだし?

 追加報酬くれるっていうならありがたくもらうけど?」


 近い近い!

 ギャル子の可愛い顔が、身を乗り出した状態で更に迫ってくるものだから、ドキドキしてしまう。昨日の午前中シたはずなんだけどなぁ。でも、あくまで昨日の午前だし。それに、やっぱ可愛い子に迫られると昂ぶっちゃうよね!

 

 そんなふうに顔を赤らめる私を、ギャル子は引き続きキラキラした眼で見ていた。……美咲がジト目でこのやり取りを見ていたけど、私は気にしない。


「分かった!

 一つ50万で、計250万だそう!!」

「やたー!」

「ははっ!

 それでこそ、一般人かもしれない相手を殺させたかいがあったっていうものだな?

 美咲」

「ちょ!」

「ん?」

 

 一般人かもしれない?


「あー、追撃戦でね、敵かどうか分からない、怪しい奴がいてさ。

 殺るかどうかっていう所で、美咲が撃つ決断をして、私が撃ったの」

「…………」


 バツが悪そうに、美咲は口を閉じる。

 ……私としては、他人の生き死になんて特に気にしない。というか、気にしないからこそ、平気であのおかしな空間に人を送り込んでいるんだし。実はその人が私の友達、何てことでもない限りは。……いや、友達だったとしても、それが敵である可能性があるというのなら、別に殺っちゃっていい気もする。それが良子じゃないのであれば。


「はっ、今更だろ?」


 自分で言い出して自分でフォローし始める不良。ヤクザの手口かな?


「そうだね。

 私も特に気にしないし、敵かもしれないなら、どんどん殺っちゃっていいよ?」

「……それはそれでどうかと思うけど」


 なんで美咲が反論するのさ!

 理不尽!


「私達の命には変えられないしね!」

 

 ギャル子がそう締めて、一先ず話し合いは終わった。


 その後、私が小さなバッグから300万取り出したのを見て、ギャル子が騒いだり、美咲が運営費を金庫から取り出して、ギャル子が騒いでいた。


 250万を3人で割って83万。合わせて183万円ずつ報酬が支払われたわけだ。

 

「じゃ、私達はこのままここで寝るから、依頼者様は見張りよろしく」

 

 え?

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