第23話
「暇だなぁ」
「スマホゲーが出来るじゃないか」
「俺はお前ほどスマホゲー信者じゃねぇんだよ」
確かに。山田は空いた時間にスマホゲーをやるが、僕はスマホゲーのために時間を空けている。大学の講義時間は出席しつつもすべてスマホゲーの時間に当て、ここに雇われているのも、時給千円の監視をしつつ、スマホゲーが出来るからだ。そのお金は当然すべてスマホゲーに回す。もちろん、ガチャだけでなく、倉庫などの枠を増やし、時には資源やスタミナに課金する。
僕のスマホゲーへの入れ込みようを聞いた人は、頭がおかしいんじゃないかとか、人生一度の大学生活を、などという。しかし、これだけスマホゲーにお金と時間を費やせる時期は今しかないと思わないか? 高校生であれば授業中にスマホを弄るのは難しいし、自由にできるお金も少ない。社会人になってしまえば、お金は増えるが仕事中にスマホを弄るのはやはり難しい。つまり、大学生活とはスマホゲーをやるためにあったのだ! となれば、スマホゲーのために命を張るのもやむなし。そうだろ?
「よし、3体目が出た!」
「なんでそんなに同じキャラがいるんだよ……」
凸は他のアイテムで出来るんだろ? と、山田は続けるが、分かっていないな。
「ランキングで一桁を目指すなら、強いキャラクターは3~5体必須なのだよ」
別の部隊なら同じキャラが入れられるからな!
「お、向こうで動きがあったらしい」
俺そっちいくわ、と続けて山田は車から降りた。
…………さて、周回しながらレポートやるか。
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「あ?
無理に決まってんだろ」
馬鹿か、あのババア。
今俺は一人目の廃墟挑戦者の帰宅を尾行している最中。今日二人目の挑戦者と思われるものが中島の家に来たから尾行だ? そんなもの、あのスマホゲー中毒の中村か、ババア本人にやらせときゃいいんだよ。川崎の方を動かしてもいいしな。ここ一週間は殆ど同じような動きのみ。これがルーチン化されてんなら、監視が1人抜けたところで問題にはならねぇだろうに。
『田中と佐藤と中島は絶対に目を離すなって言うのがリーダーの命令なのよ!』
へぇー。現場を見てない命令ねぇ。まぁ? 超常の品については? 俺達よりリーダーの方が多くの情報を持っているし? その命令を遵守したくなる気持ちはわからないでもない。ただ、それならそれで俺に当たり散らすのはおかしいんだろ。
もう、日曜の襲撃戦で事故に見せかけて殺してやろうか? ……まっ、恐らく現場指揮官の一人になるであろうババアが死ねば俺に責任追及が来るかもしれねぇから出来ねぇけどよ。
「どうしてもって言うなら、休暇の1人を呼び出して廃墟を任せればどうだ?
尾行は監視員がやればいい」
『は、廃墟の監視を辞められるわけ無いでしょっ!?』
死のリスクを犯したくないだけだろうが。
「んじゃ人数不足だ」
『あんた、リーダーの指示が間違ってるっていうの!?』
めんどくせぇ。
「いや、こうなることは予想できた。
はなから下っ端の家を全員突き止めようなんて、リーダーも思ってなかったってこったろ」
『そ、そうよね!
できればって言ってたし!』
はぁ。
こんなんが指揮官の1人とか、本当に大丈夫かねえ。
恐らく、リーダーにとって俺たちは所詮死んでもいい駒で、このババアも一日中暇してる上に給金渡さずに済むから使ってるだけ。別に素質をがあるから役割を振られてるわけじゃあねぇはずだ。流石に日曜の襲撃は奇襲で、失敗するってことはねぇだろうが、その後の身の振り方は考えておいたほうが良さそうだな。
例えば、組織が中堅になるために必要な超常の品が、俺の手に転がり込んだら? そうでなくとも、日曜の襲撃でこの組織が中堅に成長した時、俺のポジションがババアの手下その1なんていう捨て駒になるなら?
どうするべきかは本当に、考えておくべきだろうな。
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「今日は廃墟への挑戦者2名。
気づかれることなく、1名の家を突き止めた」
まぁ、上出来だろう。
とにかく気づかれていないと言うならそれでいい。
あいつら、特に山田辺りは功名心が強すぎる。わざわざ万全の準備で向かわずともなんとでもなりそうな子供の集団に見えるが、だとしても山田に三段目の品を拾われでもすれば、裏切られる可能性は十分ある。その程度の餌しかちらつかせていないし、これはある意味他の誰でも有り得る話だ。襲撃は、私自ら指揮を取るべきだろう。確実に超常の品を回収できる立ち位置で。
……それに、私が実働部隊を大学生以下の年齢の子供に押し付けているように、相手方も案外大人が仕切っている可能性はある。にしてもあの廃病院の一件はお粗末に見えるが。超常の品を知っていそうな人物と遭遇した可能性があったなら、次の日にでも総力を上げて確かめるべきだろう。もちろん、死んでもいい斥候を使って。
特に、最初に来た人物が三段目保有者というのが信じられない。三段目を保持しておきながら、自身の命を危険に晒す? もし、その三段目が大してお金や権力、武力を作り出せない、いわばハズレの一つだったとしても、組織を作れたというのなら、実際に命を懸けるバカどもを手下に出来たというのなら、命を賭けるような真似は忌避するはずなのだ。私とて、今回のように命を賭ける事が本当に必要だというのなら賭けてやる。だから、これは臆病ではなく、必要かどうかという問題だ。
命を賭けている自覚のないバカか、分かっていて尚無意味に命を危険に晒すバカか、どんなバカにせよ、あれがリーダーだというのなら、迂闊としか言いようがなかった。
別にリーダーがいたとしても、やはり三段目を保持させた上で命の危険がある未知の領域に行かせるのは、バカとしかいいようがない。独断専行で勝手に廃病院に来たとすれば、そんなやつに三段目をもたせたやつは大バカだ。
「ふー」
なんにしろ、そんなバカな集団でも、私は全力を持って潰そう。土曜日を使って万全の状態を整え、完璧な計画を練って、日曜日に実行する。最悪でも三段目を保持している者の殺害と、その超常の品だけは奪い取る。
この組織、Aのリーダーとして。




