第21話
「お、落ちた」
「ちっ」
中村がスマホゲー、ネギパズルの周回でイベントドロップを落としやがったか。俺もさっさと落ちねぇかなぁ……あ。
「どうした?」
「Cさん、もとい中島って奴の方で動きがあったらしい」
表札からして、Aさんが佐藤。佐藤とレズってたらしい奴が中島。中島がいるアパートを張ってた川崎によると、ギャルっぽい子が中島の部屋に入っていったと。できればその仮称ギャル子の家も突き止めていおきたいって話だ。
「じゃあ、ここは俺が見張ってるわ」
俺達は今二人してBさん、田中の家を見張っている。今日はここに佐藤が来ているからだ。今日は佐藤が田中とヤルんじゃないかと期待していたが、随分と静かで、どうやら今日はそういう日じゃないらしい。せっかくこの3人チーム唯一の女性を中島のほうに振ったていうのに。もしくは、田中と佐藤が友達で、佐藤と中島が恋仲なのか。だとすれば佐藤と田中が二人っきりで家にいるのは浮気じゃないのか。いや、同性だから浮気には……いやいや、同性が恋愛対象ならむしろ同性と一緒にいるのが浮気だ。だとしたら三角関係……もしくはハーレム!
「了解ー」
そんな世界一どうでもいいことを考えながら、川崎と合流するために車から出て、自転車で移動し始めた。
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「ん?」
移動中、追加でメッセージが送られてきた。どうやら、中島の部屋に入っていったギャル子がもう出ていったから追いかけるらしい。俺は中島のアパートを見張っていろと。
……見張ってろって言われても、こけしは川崎が持ってるし、車から見張っているのが中村。俺が素でアパート見張ってたら怪しすぎるだろ。あそこ住宅街だし。どうしたものか。
結局何も思いつかなかったので、そのまま中島のいるアパートを通り過ぎ、川崎のいる場所に向かうことにした。お仕事中は全員GPSで位置共有してるからな。
理由は一応拉致られたりした時の対策との事だが、超常の品を使った抗争は殺すのが基本だと聞く。どちらかというと、リーダー側が情報を得るための策だろうな。
「で、そいつはこの廃墟に入っていったのか?」
「ええ」
川崎が見張っていたのは廃墟だった。
明らかに超常の空間がありそうな廃墟だ。
「どうする?」
「どうするとは?」
川崎は俺達より年下で、高校生ではあるが、そんな察しの悪いやつじゃない。手をだすことを躊躇っているのだろう。
「決まってんだろ?
出てきたところを殺るかって聞いてんだよ」
超常の空間は見つかった。
ここで出てくるやつを殺しても、奴らから見れば、超常の空間に挑戦して失敗したようにしか見えん。
日曜に襲撃を掛けるにしても、戦力は減らしておいたほうが良いし、ここで戦力が不増強されるところをみすみす見逃す必要もあるまい。
「……辞めておきましょう」
「なぜ?」
この不用心さを鑑みれば、あっちは超常の品を用いて三段目に挑戦しに来た、って感じじゃあねぇ。奴は死んでも構わねぇ下っ端だろう。それでも、相手の組織の小ささを考えれば、日曜までに補充されるとも思えん。絶好の好機ってやつだ。
「向こうもGPSで位置を共有していた場合、外で死んだか、中で死んだかが知られてしまうでしょうから」
「……なるほどな」
超常の空間に入った際、GPSの情報はそこで途切れる。しかし、その後外で死んだ場合はGPSの情報が再び復活する。
それで殺したことがバレてしまえば、休日の襲撃は当然警戒されるだろう。加えて、情報を求めた奴らが他の穏健派の組織に接触されてしまえば、俺達のように保護下に置かれてしまうかもしれない。
「なら!」
「あぁ。
ここで襲撃はしない」
家さえ把握してしまえば、どうとでもなる。日曜の襲撃で組織を壊滅させて、後日個々人を襲撃していけばいい。三段目を保持していると思われる者が既に割れている以上、本拠点や中心人物らは必ずその周辺にいるはずだ。
超常の品を中心とした組織は、中心人物数人の死が、組織の終わりに直結する。超常の品を保持していながら、決して超常の空間に立ち入らないもの。恐らくそいつがあいつらのリーダーだ。今回の事例を見るに、あの中島ってやつが俺たちで言うババアの役割を担ってやがると見た。そして、中島や田中の所に入り浸っている佐藤がリーダーってことか。もしくは田中がリーダーで、その佐藤を田中がパシらせてるっていう線もあるな。
「ふー」
……ここで安心してるコイツは当日躊躇なく殺せるんだろうな?
まぁ、実際に超常の武器を持たされるのは数の関係で俺、中村、竹内3人だけになるだろうが。他の3人は囮役くらいか。
「お」
「あ、出てきましたね」
早いな。
一段目の補充をさせたってとこか。どちらにしろ、殺さなくて正解かもな。二段目なら戦力になるだろうし、失敗すれば死ぬこともあるだろうが、一段目の難易度は低い。警戒されるのは避けたいからな。
それからギャル子を追跡し、着いた先は中島のアパートだった。
「やはり、か」
中の話は聞こえる程大きくなかったが、十中八九超常の品を届けに行ったのだろう。やはり中島が取りまとめているわけだ。
「これは、いい報告ができそうですね」
「あぁ」
後はギャル子の家を突き止めるだけ。
川崎が引き続きコケシを使って中島の家を見張るなら、その役目は俺、か。
スマホゲーする暇がねぇな、こりゃ。




