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第20話


「中村さんー?」


 私が声を出すと、廃病院への侵入者は数秒ほど逡巡した後、裏口から走り去っていった。


「…………ふー」

 

 私は構えていた、マラカスを下ろす。木で出来た、一対のマラカス。これが私に与えられた侵入者を排除する武器である。


「最も、私達も不法占拠してる側だけど」


 既にスマホで連絡は飛ばした。中村さんが侵入者の後を追っているはず。私はドアを開けて、ポケットに入れていた小さな丸形磁石を侵入者の足跡に下ろす。


 廃病院の祭壇二段目に祀られていた品だけど、制限解除されたリーダーが説明するまで、使い方が分からなかった品の一つ。 


「これで……」


 足跡に10秒置いて、引き上げれば、次の足跡に乗せるまで、僅かながら足跡を残したものと引き合う効果を持つ。追跡が成功していれば殆ど意味がないのだけど、これは相手の脅威度を測るのにも使える。

 用意しておいた水面に磁石を落とし、方角を確かめるが――


「反応…………なし!」


 ――当たりだ。


 祭壇二段目の品が効かない相手。恐らく三段目を手に入れて、制限解除された者。しかも、この廃病院が私達の管理下にあるということを知らない反応だった。私が声を上げただけで逃げ出したのだから。

 つまり、相手は私達と同じか、それ以下の小集団。更に言えば私達を含め、他のどの集団とも交流がない相手だ。

 

「なら、狩れる!」


 私は笑みを浮かべて、リーダーに連絡を入れた。


=========================


「で、私達が駆り出されたわけですか」

「そういうこと」


 どうやら廃墟を見張っていたおばさんが、裏口への侵入者を発見。中村さんに追跡させて、侵入者Aさんと、その友達と思われるBさん、及びそれぞれの家を突き止めたらしい。途中から山田さんも追跡に加わったとか。本当はAさんとBさんが別れて帰宅するところをそれぞれ尾行する予定だったけど、一緒になってBさんの家に帰ってから、Aさんは公園で電話し、それからAさんも家に帰ったという話だ。


 それにしても――


「あのおばさんが廃墟で仕留めていれば、三段目が手に入ったかもしれないのに」

「おばさんじゃなくて監視員な」


 ――三段目持ちの監視か。


「名前すら伏せる年増は、おばさんで十分ですよ」


 危険な役回りだねぇ。

 

「おばさんの前じゃ言うなよ?」


 あぁ、帰りたい。


「竹内も言ってんじゃん」


 あ、思わずタメ口に。


=======================


「どう思います?」

「どうって……」


 アパートの外で張っている私達のところまで聞こえる喘ぎ声。

 この家に入っていったのはAさん。出迎えた人をCさんとしよう。Cさんは声からして女性。入っていったAさんも女性。じゃあ誰か男が最初から一人いたのかはこれからここを張っていないければ分からないけど、外で音を拾う限りはいないように思えた。つまり、この声はあの二人がシているというわけで。


「リアルレズ、始めて見ました」

「……聞いた、が正しいな」


 私達はそれから3時間もの間、レズエッチを聞き続けることになった。なんの罰ゲームだよ……。


「やっと終わりましたか……」

「これを聞きながら出来たら、まだ楽だったんだけどな」


 そう言いながら、何度かテントを作っていたズボンをポンポンと示唆する。


「……同性の喘ぎ声を3時間聞かされ続けるのと、どっちが辛いか試してみます?」

 

 そう言って、私は暇つぶしに見ていたスマホを指し示す。

 

「ははっ、悪かったよ」

「それに、いくらコケシで一般人からの視線をシャットアウト出来るからといって、匂いや音が消えるわけじゃないですしね」

 

 二段目の品、コケシ。10センチほどで、一段目の人形と比べれば大分大きいそれは、呪いの品を持ったことがない人、もしくは一段目の品しか持ったことがない相手から透明に成れる品。とはいえ、これは制約が大きく、使い勝手が難しい品だ。発動させた側が一定以上動いたり、誰かに触れられたり、大きな音を立てたりと、様々な方法で簡単に解除されてしまう。


 それでも、絶大な力を発揮する品であることは間違いない。


 多分一番大きな欠点は、同じく二段目以降の超常の品を持った事がある相手には一律で効果がないことでしょう。今回のように後を付ける、見張る、といった際は大助かりな品だけど、狩り本番には殆ど役には立たないはず。

 

「だな。 

 ……で、どうする?」


 この後はAさんが帰宅して終わりだろう。問題は、見張るべき人が、Aさん、Bさん、Cさんの三人に増えたことだ。どうせこの人達も昼間は学校に言っているだろうから、見張るのは学校終わりからでいいとしても、人数が厳しい。

 

「3チーム2人編成じゃ追いつかないし、2チーム3人編成にするしか」

「だよなぁ」


 うちの実働部隊はたったの6人。これは死んだり、新たに雇ったりで増えたり減ったりするけれど、リーダーの収入で維持できる限界がこの人数とのことで、基本は6人。

 尚、あのおばさんは別にお金をもらったりはしていないらしい。


「それでも、後1日終わるまでの辛抱ですよ」


 今日が火曜日。

 明日の水曜は、私と竹内は呼ばれないでしょうから、明後日の木曜が恐らく私達の監視任務最後……いや、襲撃決行が日曜だとすれば、土曜日も監視任務っ!?


 目を剥いた私に、竹内がようやく気づいたか、とバカにするような目線を送る。


「これ、下手すりゃ土曜日丸ごと喘ぎ声聞くはめになるんじゃね?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 小声で絶叫する器用な私を見て、竹内が笑っていた。

 

 笑い事ちゃうわッ!

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