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第2話


 落ち着け。

 

 覚悟してきたことじゃないか。

 良子のためにオカルトに手を出し続ければ、いつか事件か何かに巻き込まれることもあるだろうと。それが今日だったというだけだ。


 まさか本物のオカルトが存在するとは思わなかったけど。


「ふー」


 今わかったことを整理しよう。

 先輩さんも、香澄も、このストラップ関連の記憶がない。これは本人達に問いただしただけでなく、あの気弱な委員長さんにも聞いたから間違いない。

 

 先輩がストラップを押し付けようとした事自体がなかったことになってしまっている。

 

 とりあえず、帰ったらこのストラップについて良子に聞こう。もちろん、良子にこれを渡すという選択肢はない。良子が死んだら私はあの先輩とこのストラップに関係した可能性のある人を全員殺して私も死ぬ。


「彩花?」

「ごめん。

 寝不足で頭おかしくなってるのかも」

「…………そうかー。

 とうとう良子に侵されて彩花もあっち側に」

「行ってない」


 いや、こんなものを持っている時点でオカルト側に片足突っ込んでるどころか半身浴してるようなものだけど。

 たぶん、その先にあるのがあの世かな。


=============================


 放課後、私は急ぎ足で良子の家に向かう。


 その間に考えるのはこのストラップのこと。実物を見せずに、どう話せばいいか。そもそもストラップを誰かにわたした時点でストラップの記憶が消えるなら、ストラップの情報は広まらない。だから良子も知らないんじゃないか? だとしたらどうする? 残った情報源は、あの先輩の言葉のみ。確か、呪いについて話せない、だったか。話せない? 話さないじゃなくて? この呪いについて、ちょっと良子以外の人に話してみようか。どう話せないのか、分かるはず。

 ……こんなことは学校が終わる前に気づくべきだったなぁ。親に聞くのも怖いし。死んでも困らない知り合い辺りに話してみるのが一番い――


「ん?」


 ――ここはどこ?


 学校の帰り、わたしは家にも帰らず、直接良子の家に行くため、電車に乗って地元の谷菜駅に降りたはず。なのに、気づけばわたしは廃墟になった団地の一角に来ていた。どうやって来たのかも、覚えがない。

 こんな歳になって迷子とは恥ずかしい限りだが、私の足は迷いなくその団地の中に入っていく。確か、団地に立てかけてあった看板を見るつもりで近寄ったはずなのだけど、近寄ったところで何故か私の体はエレベーターのボタンに手を掛けていた。


 ガコン、という音とともに扉が開く。


「…………」


 ここに来て、ようやく私は微かに正気を取り戻し始めていた。

 

 道がわからないならなぜスマホを開かない? 地図アプリ一つはいってない、なんてことはもちろんない。

 なぜ廃墟のエレベーターが稼働している?

 外から見れば廃墟なのに、なぜこのエレベーターはこんなにも綺麗なのだ?


「…………はぁ」


 時間が経っても、閉じることのないエレベーターを見て、確信を持つ。


 これはさっきのストラップと同種の何かだ。


 ここで正気を取り戻したのではなく、ここまで正気を失わせる。そういうことなのだろう。原因はどう考えてもこのストラップ。


 このままでは一週間以内に死亡する。


 だから、ここに入れということか?

  

 なら、この先で何かがあるのは間違いないのだろう。

 

 そんな思いつきとも言える思考に、私は確信を持っていた。

 

 確信を持たされていたと言ったほうが良いか。

 

「はぁ」


 もう一度ため息を付いて、私は足を踏み出した。

 

 あぁ、良子成分が恋しい。


================================


 エレベーターに入った私は、突き動かされる衝動のまま、13階を選ぶ。一瞬それに逆らって2階とか押してみたくなったが、そうはしなかった。


「…………」


 上昇していくエレベーターの窓ガラスから見えたのは、このエレベーターの前で待っている人達。普通に考えれば下に降りるエレベーターを待っているので、上に上がるこのエレベーターは止まらなかったと見るべきだけど…………ここは廃墟だ。

 未だ残る無駄な反抗心に従わなくて、本当に良かった。


 チン、という音ともに止まった階は、明らかに廃墟前とした階層。


「ふー」

 

 綺麗な階層より、エレベーターが動いてるはずがない廃墟に止まって安堵するというのもおかしな話だ。


「っ!」


 感じる。

 あの時と同じ震えを。

  

 エレベーターから出た瞬間、私は唐突に理解した。


『人形を元の位置に戻さなくてはならない』


 あのときと同じだ。


 そして、これを元の位置に戻せた時、私は呪いから開放される。


「元の位置、ね」


 もともとこの人形はこの廃墟にあったわけだ。それが何らかの方法で持ち出されたのか、この人形自身が歩いたのか、人から人へ渡って、この状態になったということだろう。そして、今の今までこの人形が元の位置に返されていないのは、だれもあのエレベーターに乗ろうとしなかったからだ。今振り返ってみると、エレベーターに乗れるあの瞬間に正気に戻されれば、誰だって帰る。ありえないはずのところへ自分の意思で踏み入れる、なんてそんなバカなやつは、そうはいない。帰ってこれるとは限らないし、入ったところで現状がよくなるとは限らないのだ。そもそも、今もすんなり元の位置に戻せるかは、わからない。どこが元の位置か、なんとなく分かるし、理解るが、それまで無事でいられる保証も、やはり無事に戻れる保証もない。


 それでも私がここに来たのは、今元の位置に戻そうとしているのは、命が惜しいからでは決してない。


 命が惜しいのなら、他の人と同じ様にこの人形を誰かに押し付ければよかった。だれでもいいというのなら、いくらでも方法はあっただろう。この人形は小さなストラップ。良子ちゃんの部屋にあった本格的なものではない。子供に渡してもいいし、適当な男の子にプレゼントだと言ってわたしても良い。きっと微妙な顔をしつつも受け取ってくれる人がいるはずだ。

 

 だから、私にはあった。


 命を賭けてでも欲しい物が。


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