第17話
「…………」
「どうしたの?」
眠いわけではなさそうだけど、と香澄が続ける。
「不完全燃焼」
また馬鹿な話だな、とでも言いたげな香澄の視線を受けつつ、私は昨日の出来事に思いを馳せる。良子の家に行って、美咲の家に行って、人形を私の家の金庫に放り込んで、また良子の家に行って、21時から美咲の家に行って、シて、22時には風呂入って、また家へ。あっちこっち走り回って、散々良子で溜め込んだものを1時間にも満たない時間で発散できるわけないんだよねぇ。
しかも窓口の仕事が忙しくなるから今日明日、土曜もまるまる会えそうにないって。そんなのある!? また良子襲っちゃったら美咲のせいだぞ!! ……まぁ、窓口頼んだ上に、バイト辞めてもらってまで窓口専念させてるのは私なんだけども。
「あー、話は変わるんだけどさ」
「ん?」
何かな?
「佐々木遥って知ってる?
C組の」
「知らない」
同じクラスの人すら名前覚えてなかったりするのに、知るわけない。
「私と同じ部活で、彩花の噂を聞いて、一度話がしてみたくなったんだって」
「?
私の噂?」
香澄は声を小さく絞って呟く。
「彩花が同性愛者って噂」
「……」
まぁ、良子の所に通い詰めている事は、クラスでは周知の事実ではある。
「それと、彩花が良子に高価なアクセサリーを貢いでいたって噂」
「ぬ」
ぬ、だ。
確かにあの日はガマ口財布がいっぱいにならないように消費する必要があった。いっぱいになって、財布が壊れでもしたら大変だし。
しかし、これも見られていたとは。
「つまり、遥はそっちの趣味があって、金持ちでフリーのあんたと、あわよくば付き合おうってこと」
「わ、私は良子一筋だし……」
最近美咲と絡み合って入るけど、あくまで肉体的な関係でしかないんだからね!
「そ。
なら、今日の昼休みに彩花と話したいって言ってたから、断ってくることね」
「うん。
……って今日!?」
「らしいよ?」
「こ、心の準備が……」
「断るだけでしょ」
何いってんの? みたいな目で見ないでよぉ!
女性からの告白なんて初めてだし、お金目的なら美咲と似たような関係になれないかとか、色々考えちゃうんだよっ!
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「…………はぁ」
結局、4限終わるまで全然授業が手につかなかった。
「佐藤さん」
「はい?」
誰だろこの人?
「呼ばれてますよ」
「へ?」
そう言って教室の入り口を見ると、そこには金髪碧眼のグラマス美少女が。
奇襲……だと。
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「こんにちは」
「こ、こんにちは」
笑顔で挨拶をするその少女は身長はそう変わらないにもかかわらず、お姉さんといった感じの雰囲気が出ている。佐々木遥、だっけ。完全に日本語名だし、ハーフってことかな?
「美咲から話は聞いてますか?」
「あ、はい」
「じゃあ話しやすいように少し移動しましょうか」
そう言って連れられたのは…………ここどこ?
見たことない部屋だった。
「将棋部の部室です」
「うん?」
確か美咲は運動部だった気がするけど。
「兼任してるんです」
「あー」
確かに文化部は兼任可能だった気がする。
中に入ると、後ろで音がした。
カチャ
鍵?
「聞かれたくない話になりますから」
「あー」
そうだね。
告白みたいなもんだしね。
「さて、お昼時間も短いですし、事前にある程度話を聞いているということですから、いきなり本題に入らせていただきます」
「はい」
お昼ごはん食べる時間なくなっちゃうし。
「明日、私とデートしてくださいませんか?」
……なるほど、そう来るのか。
いきなり付き合ってくださいじゃない訳だ。
……それでも、いらない期待をもたせるのはよくないよね。
はっきりと断ってくれる良子が脳裏によぎる。
「ごめんなさい。
私、好きな人がいるので……」
「その良子さんは、貴方と付き合っているわけじゃあ、ないんですよね?」
ぬ?
私と良子の関係、美咲から聞き出したのかな?
「そうだけど」
「やっぱりそうなんですね!」
「あ」
カマ掛けられたらしい。
「なら、別に浮気にはならないでしょう?」
「でも」
「一緒に遊ぶだけですよ!
午前中だけでも」
それはなぁ。
良子と遊ぶ時間を削ってまで、この人と遊んでもなぁ。
ちらっと視線が相手のたわわに実ったソレに向かう。体は素晴らしいけど、別にこの人自身には興味ないし。
「やっぱり」
「じゃあ、その前に副題の話をしましょう!」
遮られた。
「副題?」
「さっきのが本題。
もう一つは、私達共通の悩みについてです!」
「はぁ」
私は良子が振り向いてくれない以外に悩みなんてないけども。
「それは、妄想の対象です!」
「……うん?」
「一人でする時、貴方は誰を思い浮かべますか?」
「…………」
「私は、昔友達に気持ち悪いって言われてから、可愛い友達を相手に一人でするのに罪悪感を感じるようになってしまって、それから――」
私は何を相談されているんだ?
AVでも見れば? とでも言えば良いのか?
「――つまり、ですね」
「え?」
ち、近い近い近い!
「私と、しませんか?」
佐々木さんが私の懐に入る。
私は思わず後ずさるが、そこは小さな部室で、中央には大きな机。それに腰がぶつかって、もう下がれない。
「えっと、佐々木さん、流石に急過ぎて」
「遥、とお呼びください」
「え、その」
「遥」
「……遥さん」
「彩花さん」
そのまま、遥は私の太ももに手を伸ばし、片手で私の背中から、頭に手を回す。
「あ、あ、ぁ……」
「嫌ですか?」
唇がもう目の前にあって、いい匂いがした。
「嫌じゃ、ないです」
私の唇と重なった。
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「……はぁ」
「どうしたの?
遅かったけど」
「昼ごはん食べそこねた」
「は?」
「土曜日会うことになった」
「…………良子は諦めるの?」
「んなわけないじゃん!」
なんのために私が命をかけてまでアレに挑んだと。
「二股?」
あれで二股というなら、多分美咲いれて三股かな。




