第14話
「良子ー!」
「うわ」
私は学校が終わるなり、良子の家に突撃した。というか飛びかかった。
元々今日は美咲の家に行って、話し合いした後絡み会う予定だったのだけれど、次に送り込む相手の予定が今日空いていたとのことで、先に交渉を済ませるというメールが来ていた。要するに、交渉相手が帰ってから来てくれということだ。
よって、予定を繰り上げて先に良子の家に来ている。
「ん?
シャワー浴びた?」
良子に抱きついているので、匂いと熱がよく分かる。
「彩花がシャワー浴びてから来るなら、浴びておこうと思って、そしたら良子から、メールが」
その結果、自分だけシャワーを浴びて会うことになったのが恥ずかしいらしく、うつむきながらボソボソと答えた。
可愛い。
「~~~~」
ボソボソ呟く言葉を鑑みるに、風呂を切り上げてここにいるらしい。乱入させてくれればよかったのに。
あーやばい。
今日は発散前にここに来ているからか、体が火照る。
良子は昨日のスキンシップで大分抱きつかれることに慣れたようで、好きにさせているけれど、顔を見られるとまた文句を言われてしまいそうだ。
私は少しぐらいならと、左手で二の腕やお腹の感触を、そのまま右手を滑らせてお尻や太ももにも走らせる。
「…………彩花?」
「ハァ、ハァ」
だめだ。
良子に訝しまれているのに、止められない。
私はそのまま顔を相手の首筋に埋めて、触れるようにキス。そのまま左手を上ずらせて、右手で太ももを撫でる。
「…………ひっ」
「あ」
ぱっと離れたが遅かったようで、良子の眼が潤んでいた。
「ひっく」
「あ、そ、その……ごめんなさいー!」
私は土下座を敢行した。
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「…………わかってるんだよ」
「……ぇ?」
「彩花にとっては、あれくらいなら良いやって思ったんでしょ?」
「い、いや、あの、その…………はい」
「美咲とはもっとすごいことしてるから、これぐらいなんともないって思っちゃったんだよね?」
「ぅぅ」
「でも、普通に考えて、完全に変態の所業だよ?」
「すいません」
「もうしない?」
「…………はい」
「何その間」
「…………」
同じことがあったら、我慢できる気がしないよぉ。
「はぁ。
こっち来て」
良子が私の手を掴んで、引っ張り出す。
「?」
「ここ!」
良子が私をテレビの正面に座らせる。
「えっと」
これじゃあ良子見にくくない? と口に出そうとした時――
「えい!」
――膝の上に柔らかな感触が。
「り、良子?」
良子が膝の上に座って、私にもたれ掛かってくる。全身に感じる良子の感触と、風呂上がりの匂いで、私はまたどうにかなりそうだった。
しかし、良子は振り向いて、残酷な一言を告げる。
「約束したよね?」
「ぅぅぅ!」
良子は電気を消して、テレビを、ホラー映画を流し始めた。
「彩花と触れ合うのは楽しい。
でも、いやらしいことは……だーめ」
「ぐぅぅぅ!」
生殺しじゃないか!
それから良子は私に体を擦り付けて、それはもう楽しそうに私で楽しんでいた。
「あったかーい」
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「美咲ー!」
「わっ、ちょ」
私は美咲に呼び出されて直行した。
ドアを開いた瞬間、出迎えてくれた美咲に飛びかかる。
「美咲ぃー!」
「やめ、話を」
私は先に良子とやったのと同じように、いや、いつも良子にやっているように体を弄り回し――
「フンッ!」
「――うぐぉぁ!」
膝蹴りが私のお腹をえぐった。
女の子が出しちゃいけないような声が私から漏れる。
「話を聞いて」
「……はい」
うぅ、お腹が痛い。
私は美咲に蹴られても興奮しないんだからね!
Mじゃないんだから!
「今日冴ちゃんと契約したんだけど、そのまま廃墟に行くって話になりました」
「だから?」
冴ちゃん?
「多分、すぐ人形一つとって帰還してくる。
取り敢えず、今日はこれを持って帰ってください」
「…………へ?」
私は何を言われているか、すぐに理解できなかった。
「受け取ってください」
そう言われて、私は無意識で人形を受け取る。死亡期間が35日後から42日後に伸びたなんて確信だか天啓だかを聞き流し、現状の確認に務める。
「えっと」
「では、また。
……さっさと帰ってくださいね。
冴ちゃんと鉢合わせになると私が間にいる意味がなくなりますから」
パタン、っとそれだけ言われてドアを閉められた。
「…………」
この散々昂ぶらせた私のリビドーは何処へ?
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「良子ぉーー!」
「…………」
一度家に帰って、金庫に人形を放り込むと、即座に良子の家へと自転車を飛ばした。
ガチ泣きしながら性欲が発散できずに叩き出されたことを話す私を、良子は同情するような、困ったような目で見下ろしていた。
「ひっく、ひっく」
「ご、ごめんね?
この後美咲とするなら思いっきり煽っても平気かなぁ、なんて思っちゃって」
「良子ぉー!」
「わっ!」
こんな私にも優しい声を掛けてくれる天使の胸元で、私は好きなだけ泣きつくした。結局性欲は昂ぶるばかりだけど、泣いて違う意味でスッキリした私は結局良子と再びいちゃつくことに。
「もう襲ったりしないから!」
「う、うん」
襲わなければ何をしてもいいってわけでは……なんて呟く良子を背後から抱きしめて、ハァハァ言いながら映画の視聴に戻る。暫くしたら、高ぶりすぎた私の欲望が股から流れ出し、何度もトイレ休憩を挟んだ。
ナニをしてるか察した良子が顔をひきつらせていたが、最後まで指摘してくることはなかった。
良子、マジ天使。
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「どうでした?」
私は廃墟から帰ってきた冴ちゃんに問いかける。
「これ、ですよね?」
冴ちゃんは恐る恐る人形をこちらに差し出す。
前髪が目にかかる程度に長く、黒髪でおどおどしていて、大人しそうな見た目で、こういうリスキーなことに手を出したがる少女には、見えない。と言っても身長は私や彩花と同程度で、身体能力も別に低くはない。
そして、その見た目と表面上の性格からは考えられないほど頭のぶっ飛んだ少女だ。
「……あってます」
それを手に取ると、私の頭に一週間以内に死ぬという天啓が響いた。
「よかった」
冴ちゃんが一息つく。
こうしてみると、彩花から伝え聞く良子とやらと似たような人種に見える。
本当に、学校で無差別殺人未遂を起こすような奴には到底見えない。




