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第11話


「馬鹿なんですかあなたは」

「ごめんなさい」


 私は美咲に怒られていた。

 どうせ同じクラスで同じ学校だ。家に帰らずそのまま一緒に美咲の家に行こうと、昼休みに思い至ったのだけど、それがだめだったらしい。美咲が窓口になっていることを知っているのは元から美咲と面識があり、ある程度信用が置ける相手のみだが、依頼者、つまりお金の供給元を知られる可能性は出来る限り避けるべきだと。私とはクラスで会話することは殆どない仲だ。そんな二人がこの時期に急接近すれば誰でも怪しむ。

 一応声掛け事態は美咲が一人になった所を見計らって話しかけに行ったが、言い訳にもならない。美咲の帰宅についていくなんて話をしに行ったのだから。


「それで、追加の運営費と追加の依頼ですか」

「そう!」


 運営費300万を渡し、廃病院の調査依頼を取り付ける。入る場所は必ず裏口から。調査してほしい場所はそのガラス扉の奥。


「つまり、そこもあの廃墟と同じ場所、ということですね」

「そうそう……ん?」


 同じ?

 いや、同じ祭壇があるかどうかは私も知らないんだけど、謎空間になってるという意味では同じだ。

 ただ、謎空間になっているという話は美咲にはしていないし、できなかった。今は呪いの品、水鉄砲を持っているのでできそうだけど。


 つまり、美咲は廃病院にも祭壇があるのかと聞いてるのかな。


「どうしました?」

「祭壇があるかどうかはまだわからないけど……」

「そうではなく、あの廃墟と同じく、非現実的なモノや怪物が出てくる場所なのか、ということです」


 !?


「……水鉄砲をもらった不良から、話を聞けたの?」

「不良、といえば不良かもしれませんが……。

 はい。水鉄砲を預かった際、二週間後に死亡する、なんて嫌な天啓が降りてきまして、その説明を頼んだ際に」

「え?」


 そんなバカな。

 呪いの品を受け渡したら、渡した側の記憶は消えるはずじゃ……。


「どうしました?」


 まだ美咲から水鉄砲を回収していないから美咲の記憶があるのは良いのだけど。……もしかしたらあの不良、もう一つ、呪いの品を持っていった? いや、不良も言っていたけど、次無事で済むかわからないのに、本当に行くか? そもそも、もう一度行ったなら水鉄砲を返せばその時点で呪いが解けることは不良本人にも分かるはず。ということは、もう一度行ったという線はない。元々持っていたとか? なら尚の事呪いの解き方を知らないのはおかしい。それならとっくに不良は死んでいるはず。


「……なんでもない。

 水鉄砲、もらっていい?」

「あ、はい」


 だとすれば、呪いの人形の場合のみ記憶が消える。もしくは、直接あの祭壇から取ったものの記憶は消えない。あるいはその両方か。


「これです」


 前者なら、美咲の記憶も消えないはず。


「うん」


 受け取った瞬間、見に覚えのある体の震えを感じた。

 そろそろこれにも慣れてきた、なんて考えた瞬間、脳内に頭を抱えたくなるほどの情報量が流れ込んできた。


「うぁっ!?」

「え?

 …………大丈夫ですかっ!?」


 痛いっ!

 頭が、割れる。


「ぐぅぅぅ」

 

 あぁ、そういうことか。

 今まで私には何も見えてなかったわけだ。

 正確には、私を含めた全員が。


「あの、死んだらこれもらっていいですか!?」


 三百万を手に抱えてボケる美咲。


「ぅぅぅ…………くはぁ!

 何言っとんねん!」

「あ、復活しましたか」


 びっくりして頭真っ白になったわ。


「はー…………つらぁ」

「えっと、二週間後に死亡するの話ではないんですよね?」

「違う違う、それはもちろん知ってたし」


 あー、手に入った情報を消化してのが吹き飛んだわ。まー、記憶には残ってるみたいだから、後で消化するとして……さっきの宣言冗談だよね?

 いや、聞いたりしないけどさ。


「……私に言えることですか?」


 そういえば、水鉄砲を渡した後に二週間以内に死亡する話を出したということは、美咲の記憶も消えてないということだ。つまり、あの呪いの人形ではなく、二段目の以降のアイテムであれば記憶は消えないということなのだろう。


「……幾つかはね」

 

 しかし、今日は疲れた。

 まさか、半径50km内の謎空間すべてを頭に叩き込まれるとは思ってもいなかったよ。

 電車で軽く移動しただけで何箇所か見つかるくらいその辺にあるのに、50kmて。


「じゃあ、後で聞きます。

 お茶取ってきますね」

「はーい」


 最初に招かれたときはお出迎えすらしてくれなかったというのに。この進歩よ。

 私はそのままベッドに倒れ込む。


「あぁ、いい匂い」


 これはだめだ。昨日良子で溜まったものを発散せねば。

 スンスン、ごそごそ。


「これでも飲んで……って何してるんですかっ!?」


 お茶を置いて、引き剥がそうとしてくる美咲に不意打ちで顔を押し付ける。


「むぐぅ!」

「んー……」


 しばらく下がろうとしていたが、ぎゅっと抱きつくと美咲も諦めたのかそのまま力を抜いてくれた。


 ぷはぁ。


「……ホントに何してるんですか」 

「しよ」

「……………………5万で」


 私は美咲に飛びかかった。


「せめて、ベットで、ぁ」


===============================


『それで、今日は来れなかったんだ』

「ごめんなさい」

 

 元々長引いたら行けないかもしれないとは言っておいたが、結局3時間も盛ってしまうとは。まぁ、正直今度の休みとか一日中致したいという願望が無きにしもあらずだったりするけど。

 

『用事は進んだの?』

「うん!

 大収穫だったよ!」


 特に呪いの品2つ目以降を手に入れた際、死亡期間の延長が行われるのが素晴らしい。元々一ヶ月後に死亡で5日経っていた所から、2週間追加で37日後に死亡まで延長された。 


 つまり、あのガマ口財布を、下手すれば一生手放さなくても済むわけだ!


 まぁ、呪いの品を永遠に集め続けるのはどうかと思うので、いつか切り上げる時が来るだろうけど。呪いの品と関わること自体がリスクだし。ただ、少なくとも良子を心変わりさせる時までは手放せないね。


『それはよかった』

「ははは……」


 声が冷たいよぉ。

 長引いたのが本題のせいではなく、ベットで発散していたからというのがまずかったようだ。うーん、この嫉妬パワーで私の体を受け入れてくれれば万々歳なんだけど。


『明日はどうなんだっけ?』

「それは大丈夫!

 結局バイトはやめられたから、明日は行けるよ!」

 

 週に一回のバイトが水曜日に入っていたけど、ガマ口財布を手にしてから即日退職を願い出たからね。なんか文句言ってたけど。


『よかった』

「うん」

 

 それから、夜遅くまで良子のオカルトトークを聞き続けた。

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