第10話
「あー」
遊んだ遊んだ。
時刻20時過ぎ。
私はゲームセンターで良子と遊んだ後、自転車で自宅に向かっている最中だ。
ピロロー、ピロロー
ん?
この音は美咲からのメッセージかな。
一度自転車を止めて、内容を確認する。
「あー」
どうやら依頼をこなした人物が私と直接会話することを望んでいるらしい。メッセージ、もしくは電話番号が着いているので非通知でかけてくれと。
それにしても昨日の昼以降に契約を交わし、月曜日の夜に依頼をこなし終えるとは仕事が早い。一人目にして、しっかり生き残ってるし。
家に帰ってからかけてもいいが、会話内容を聞かれた時、多分死ぬのは私なのだろう。そしてそれは、こんな道でかけても同じこと。
……公園行くかな。
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私は、彩花からの依頼を渡す人選について、幾つかの条件を設定した。
1つ目は、荒事に対応できそうな人物。寂れた廃墟など、不良のたまり場になっている可能性も考えられる。むしろ不良そのものを送り込む方が良いかもしれない。
2つ目は、頭が切れる人物。なんの情報もないし、対応力が求められるだろうし、頭はいいに越したことはない。
3つ目は、死んでも惜しくない事。なんの情報もなしに向かわせるには報酬50万という条件は怖すぎる。手足の一本や二本どころか命懸けの事態になっても全く驚かない。既に運営費として110万渡していることからその本気度合いが伺えた。
そう考えると、柿崎玲奈は完璧に条件を満たしていた。身長170cmを超え、空手の道場に通っていて、進学校に所属していて、なんの逆恨みか、裕福な家の同級生や後輩をいじめてお金を巻き上げるクズ。ちなみに私は玲奈の家より更に貧乏だからという理由で中学時代に懐かれていた。泣いていいかな?
ピン、ポーン。
「こんな時間に……まさか」
親は24時まで返ってこないので、私が確認する必要がある。ついでに言えばインターホンにはカメラがついてないので外が見えない。
玄関口にチェーンを掛け、ドアを開けてみる。
「はーい」
「よぉ!
入れてくれ!」
「…………うん」
連絡くらい入れようよ。
玲奈を部屋に通した。
「いやー、やばかったわぁ」
玲奈がやばかったというのだから相当なのだろう。
「で、手に入ったの?」
「あぁ!
バッチリだぜ!」
そう言って取り出したのはなんの変哲もない水鉄砲。
これは確認が必要か。
「写真とって依頼主に確認するね」
「おっと、それはちょっと待ってくれ」
そう言って水鉄砲を大事そうに引き上げる。
「何?」
「……相変わらず愛想ないなぁ、お前」
はぐらかすように私の愛想にケチをつける玲奈。
……それはあなたがいじめを率先して行ってるからでしょう。しかもお金を巻き上げるとか、何かの間違いで私に害が及んだらどうしてくれる。
「自業自得よ」
「はは、違いない」
「で、どうしたいの?」
「んー…………ちょっと依頼主と話がしたい」
依頼主が顔を合わせたくないから私が間にいるんですけど。って、玲奈ならそんな事わかりきってるはず。それでも、話さなきゃいけないトラブルが合ったと。
「一応聞いてみるけど、期待はしないで頂戴」
「ああ。
頼む」
私は彩花にメッセージを送る。
まぁ、元々は私に直接交渉してきた彩花だ。メッセージの会話どころか普通に電話も許可してしまうかもしれない。その場合は非通知でかけるように言っておこう。
……間に私が入らなくなってしまったら、私に金が落ちないからね。
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「もしもし、依頼主です」
「おう。
俺が依頼を受けて、お望みの品を持ち帰ったモンだ」
乱暴な言葉遣いだけど、この声質は女性かな。
どうやら美咲はこの不良っぽい人をあの廃墟に送り込んだらしい。
「ありがとうございます」
「んでな…………ッチ」
「?」
「お前、あの廃墟の中がどうなってるか、見てきたことあるか?
「はい」
「そうか。
じゃあ、ちょっと待っててくれ」
何やら美咲と不良が何やら話している。そして、30秒ほどすると、不良が戻ってきた。
「待たせた」
「はい」
「んじゃ、これでようやく話せそうだな」
「?」
「…………二週間以内に死亡する。
これはどうすれば解除できる?」
あー。
そっかそっか。呪いの品を受け渡せば呪いと記憶が消える。それは人形の事例から確かだろう。しかし、この不良はそれを知らない。むしろこの不良からすれば、二週間以内に死亡するという呪いを受けた上で、持って返ってきたものを引き取られると考えているわけだ。……ん? 本当に呪いは解けるのかな? そういえば記憶が消えることは確認したけど、呪いが消えたかどうかは、あれから一週間経ってあの先輩とやらが生きていることを確認しないとわからなくない? ストラップを戻した時は確かに呪いが解除された確信を抱けたけど、私は誰かに渡してないし、そもそも渡したら記憶が消えるからあの妙な確信も抱けない。
……まぁ、大丈夫か。
呪いが残ったまま他の人間が呪われれば、今頃膨大な死者が出ているはず。流石にあんないくらでも祭壇に置いてある呪いの人形で、そんなことにはならないだろう。最悪私や良子が死ぬわけではないし。
「誰かに渡せば、解除できます」
「…………なるほどな」
電話越しにふーっと息をつく声が聞こえてくる。
この話が終わったら、ついでに美咲の家に行く約束を取り付けようかな。あの廃病院について、ベットでじっくりお話を
「なぁ」
「はい?」
「命を賭けて50万はちと安いと思わねぇ?」
……今の手持ちは209万。
別に追加で払えないことはないけど、基準がないからね。
命が懸ってるから、なんて言われればどこまででも釣り上げられそうだし。
「今回の分に関しては50万で約束したからな。
50万で良い。
ただ、今回俺があの廃墟の中で見聞きした情報をお前に話す。それを情報量としてもう少しなんとかならねぇか?」
「……まぁ、価値のある内容なら」
「よしっ!
お前もあの廃墟をクリアしたんだろうからそれでいい。
じゃねぇと祭壇やら二段目やらは知らないはずだからな」
そう言って、不良は何があったかを語り始めた。
不自然に綺麗なエレベーターを出て、奥の祭壇から何かを持ち出さなければならないという確信。何も取らずにエレベーターから脱出することはできなかった。外にいる子どもたちの声が直ぐ側で聞こえた。超酸洗剤、消火器と、放火器、消火器に似た字の何か。時間経過で首のない怪物が出てきた。体は脆く、中身は黒い液体が詰まっている。それは金属すら一瞬で溶かす。倒した方法はベットの収納スペースに合った消火器。祭壇の上には一段目に人形、二段目に小物、三段目には何も祀られていなかった、などなど私が知らなかったあの怪物の、恐らくは正しい倒し方まですべて説明された。
普通にすごいわ。こっちのときのように二体目が現れたりはしなかったみたいだけど、この行動力はヤバい。時間経過で出てくるまであそこを探索するなど、なんてクソ度胸だよ。私には無理だね。
ただ、消火器に入っていたのは一体を倒す分だけ。この人がガマ口財布を手にしていたら、無事に帰れたどうかはわからない。……と自分をフォローしておこう。
「分かるだろ?
この情報は、残り4つの品を簡単に回収できるかもしれない情報だ。
200万といわずとも、150万くらい払ってくれてもいいんじゃないかぁ?」
だとすれば、疑問が残る。
この人はその呪いの品、水鉄砲を渡せば記憶が消えることは知らないはずだ。なら、後四回繰り返して200万回収すればいい。
そうしない理由は?
「ああ、それも分かってるだろ?」
うん。
同じように行くかは誰にも分からない。
この情報通りに行動して、それで本当に生きて帰れるかは分からない。あんなところじゃ、どんなイレギュラーがあってもおかしくはない。
確か、美咲のところには110万あったけ。紹介料、契約料、口止め料で計5万消費してるから、残り105万か。
「情報料は50万。
急な話だしね」
「OK。
十分だ」
了承が速いな。
そもそも、情報が出たところで次に行かせる人へ、この情報が渡せるかがわからない。ただ、この人の様子を見るに、話が美咲に聞こえそうになる度に警告を受けていたようだから、出来る限り非現実的な要素を抜いて試させれば死ぬことなく情報を伝達できそうではある。例えば廃墟の中の奥にあるベッドの収納スペースに消火器がある、とか。それで何をするかまでは伝えられないけど。そして、私自身で行く気がない以上、どの道一つ50万は掛かるのだ。余計な死人と口止め料、契約料の5万を何度も払わなくてよくなるくらいの効果しかない。だから、50万で十分でしょ。
それから美咲に今の話、情報量50万と、水鉄砲が本物らしいことを伝えて、引取と受け渡しをしてもらう。合計100万円の受け渡し、そして水鉄砲の引取だ。
水鉄砲を受け取った美咲が若干錯乱していたけど、必要経費だね。……あれ? これ私に渡す度に美咲の記憶が消えるから、毎回錯乱するの?
……まいっか。
私に被害があるわけでなし。毎回記憶が消えるなら錯乱してたことも忘れるし、問題ないよね。




