第九十四話
『聞く物語』は順調に売れ続けている。リバーシ以来の娯楽品なのでちょっと人気が過熱しすぎな感がある。まあ、文字が読める者には小説が受けたのである程度は予想していたが、ユーリの計算以上に庶民の娯楽への渇望は大きかったようだ。
第1弾、第2弾合わせて発売から3週間で20万個の売り上げを上げている。王都の人口を考えればこれ以上は売れないはずなのだが、まだ、毎日かなりの個数出ている。これは王都以外の街での需要だろう。ユーリは最近王国内の輸送に関して、改善が必要なのではないかと思い始めた。
通常王都で流行した商品は王国中に行き渡るのに3か月ほどかかる。今回の魔道具についても、他より若干早めに流通しているが、2か月はかかるだろう。出来れば、王都での発売とあまりタイムラグが無く供給したい。ユーリにはその手段があるが、それをすると旅商人が職を失う事になりかねない。
ユーリの目的は文明を上げる事であって、この国の文化を壊す事ではない。旅商人は歴史のある職業だ。これを潰すのは躊躇いがある。しかし、新しい流通も課題の一つだ。旅商人を保護しながらもしくは形を変えて、新しい流通を作る方法をユーリは模索している。
その日ユーリは奇妙な夢を見た。神様の夢だ。創造神様はユーリに、時には我を通して自由にする事も必要だとユーリを諭す。自分がやりたい事出来る事を自由にやりなさいと言う夢だ。文明が上がる事で消えゆく物もあっても良いのではないかと神様は言っていた。
目が覚めた時これが夢なのか天啓なのかユーリには判断出来なかった。確かにユーリが新しい事をする事で、被害と言うか辛い立場になる者は今までに居なかった訳ではない。特に砂糖の件では、多くの商会の仕事を奪っている。
文明を上げるには痛みも必要な事だと神様は教えてくれたのかもしれない。
新しい輸送方法についてはバート商会の皆と協議してみよう。
とりあえず、あと少しで月が変わるので小説の新作を3作書き上げた。
次に『聞く物語』の第3弾の制作に取り掛かる。今回は恋愛物だが、どうも聞く物語は個人で1人で聞くというより、団らん時間に家族で聞くと言うスタイルが多いらしい。現代日本のテレビの様な役割を果たしているのかもしれない。小説では恋愛物は割と際どいシーンなども取り入れていたが、今回は家族で聞いても気まずくならない様に気を付ける事にした。
今まで純愛物や悲恋物を多く書いて来たが、今回挑戦するのはラブコメだ。これはある意味冒険だ。買う側の中には小説のイメージで期待している人も居るだろう。
タイトルは「ときめき魔法学院」と言う学園物の設定にした。平民の女の子が何故か貴族の御曹司たちに次々と告白されると言うラブコメの王道っぽい作品だが、恋愛要素よりコメディ要素の方を強めにシナリオを書いてみた。
受け入れられるかどうか心配だが、第4弾への布石でもあるので、あえてこの路線で行く。パッケージやブックレットもアニメ調で若干年齢層も低めになっているが、ユーリ自身が魔法学院の生徒であると言う事から、結構内部事情に踏み込んだ話なども盛り込んである。
そして、今回最大の問題作品、第4弾の制作に入る。
ユーリが第4弾に選んだジャンルはホラーである。現代日本の大ヒットゾンビゲームをベースに、様々なホラー映画の演出を加味して作成して行く。タイトルは「惨劇の館」一見するとミステリーの様で内容は解らない様になっている。更にパッケージには不気味な館の写真だけを乗せ、裏面も主人公の女性の姿のみ載せている。ブックレットもゾンビは一切登場させずに館の見取り図や登場人物の姿をリアルなCGで表現してみた。パッケージやブックレットからは一切内容が判らないはずだ。更に宣伝用の魔道具も「全く新しいジャンル」「非常に刺激が強いので12歳以下のお子様は聞かないで下さい。」「出来れば、家族で聞いて下さい。」等の煽り文句だけで、内容には触れない。未知のストーリーである事を売りにする方法だ。
完成した魔道具と小説をアイテムボックス内でコピーして各店舗に卸す分をマジックバッグに入れて行く。
翌日、バート商会へ行くと、バートさんとチェスカさんが新製品について協議していた。
「おはようございます。相変わらず早いですね。」
「いや、商売が楽しくて楽して。」
「それは良い事です。新製品のアイデアを考えていたようですが、何か発見はありましたか?」
「アイデアを考えていた訳では無く、ユーリ君の発想法を分析してたのよ。」
チェスカさんが答えてくれた。
「僕の発想法ですか?参考になりますかね?」
「ズバリ聞くけど、ユーリ君はどう言う基準で商品を発想しているの?」
「人間には誰しも欲望ってありますよね?例えば商人の欲望って何でしょう?はい、バートさん!」
わざとバートさんに振ってみる。
「僕ですか?商人の欲望と言えばお金ですよね?」
「そうですね。他にもオリジナルの商品を独占販売したいって言う、独占欲もあります。」
「確かにそうですね。」
「例えば売れる商品は他の商品と何が違うと思いますか?」
「売れる商品は、まず必需品。あとは娯楽品や他に無い独自製品ですかね?」
「他にも便利な物は売れますね。」
チェスカさんがバートさんの発言を補足する。
「まあ、必需品は買わないと生活できないので外すとして、他の商品は全て、欲望に直結しているんですよ。」
「欲望ですか?」
「例えば美味しい物は食欲を満たすだけでなく、自己顕示欲も満たされます。本は知識欲。娯楽は快楽を満たします。欲求を満たすと人は快感を感じます。簡単に言うと嬉しい訳です。人には色々な感情がありますが、嬉しい、楽しい、気持ちいい。等、感情を直接刺激する商品は間違いなく売れます。」
「なるほど、ユーリさんがまず自分の欲しい物を造れって言っていたのはそう言う事ですか?自分が欲しい物は自分の欲求を満たす。それが作れれば嬉しいって訳ですね。」
相変わらず、こういう話の理解が早いバートさんだ。チェスカさんも納得顔で聞いているので理解している様だ。
「例えば、こう言うの嬉しく無いですか?」
そう言って3冊ずつ小説を2人の前に置く。
「来月発売する新作の小説です。誰よりも早く読むことが出来るって言うのは優越感に繋がりませんか?」
「もう書いたんですか?」
「『聞く物語』もあるので早めに作りました。」
「確かに優越感はありますね。純粋に嬉しいです。」
「まあ、僕の場合は人が喜んだり驚いた顔をしたりするのを見るのが快感なんですよ、なので僕の発想の原動力は悪戯心ですかね。悪戯に成功すると楽しいでしょう?」
「あ、なんかわかる気がする。」
チェスカさんが賛同してくれた。バートさんは考え込んでいる。
「まあ、発想法は人それぞれですが、欲と感情を頭に入れて置けばそう失敗はしないと思いますし、自分で売れるか売れないかの判断が出来る様になりますよ。」
そんな話をしていたら、ユーカとイルミがやって来たので話を切り上げておやつの時間になるのであった。
ユーカとイルミにも小説を3冊ずつ渡すと相変わらず仕事が早いと言われた。でも顔は笑顔だ。




