第九十一話
翌日は学院が休みなので早めに来るとイルミとユーカが去り際に言っていた。多分10時には商会に皆集まるだろう。
ユーリは家に帰ると久しぶりに厨房へ入り新しい料理とレシピを料理人達へ渡し、細かいアドバイスなどもする。まだ、料理人を雇って間が無いので『大地の恵亭』の料理人程飲み込みが早くない。質問も多いので苦労する。しかし、成人すればパーティーなども主催する事があるだろう、今のうちに鍛えておかないと大変な事になる。
味見でお腹がいっぱいになり夕食は抜きにした。合格点には程遠いが、他の使用人には評判が良い様だ。
翌日10時にバート商会へ行くと既に4人揃っていた。
「おはよう!ミステリーはどうだった?」
応接室の空いてる席に座り。紅茶を全員分出してから聞いてみた。
「面白かったよ~。痛快だった。あのお婆ちゃんが最高!」
「ですね、喫茶店の常連で何時も紅茶を飲んでるお婆ちゃんが、甥っ子の警備隊長の話を聞くだけで事件をどんどん解決して行くのは圧巻ですね。」
「僕はパッケージが怖そうだったのに裏面の登場人物の絵が何故か可愛らしいのを不思議に思って居たのですが、聞いてみて納得しました。」
「だよね。タイトルも『切り裂き魔の影』って怖そうだったし。」
「でも、後半で、バラバラの事件がどんどん繋がって行って最後に1つになる所はスリリングでしたね。」
「うんうん、そして意外な真犯人。私は家族3人で聞いてたんですけど、思わずえ~って声が出ちゃいました。」
「小説の時も思ったけど、ユーリ君の頭ってどうなってるのかしらね?」
どうやらミステリーは好評の様だ。
「ミステリーは自分で書いてみれば判るけど、先に犯人を決めて書いてる訳だから、実際はそう難しい事では無いよ。」
「いや、あのお婆ちゃんのキャラクターを考えただけで尊敬するわ。」
チェスカさんが物語に出て来るお婆ちゃんの様に紅茶を飲みながら言った。体力を上げたせいかだいぶ元気そうだ。
「まあ、評価はその辺で。価格なんですが、大銅貨1枚を考えています。今回は僕が制作なので30%の銅貨3枚。販売して貰う商会に30%の銅貨3枚を、残りの銅貨4枚を4人で分けるので1人銅貨1枚だね。販売先はベンマック商会、アトマス商会、雑貨屋イルミの3か所を予定しています。」
1人銅貨1枚と聞いて2人がそんな物と言う顔をし、2人がそんなにと言う顔をした。経験者と未経験者の違いだろう。
「銅貨1枚と聞いて少ないと思った人も居るでしょうが、この魔道具、どの位売れると思いますか?」
「小説はどの位売れているんですか?」
バートさんが聞いて来る。
「小説は月に3冊で、5千冊位出ますね。」
「魔道具は月に2個ですよね?だとすると2千個位でしょうか?」
「この魔道具は字を読めない人をターゲットにしています。この王都では識字率が30%だと聞いてます。つまり7割の人が小説を読めない訳です。それで5千冊も売れる訳ですから、どれだけ娯楽に飢えているか判ると思います。僕はこの魔道具、月に1万は確実に売れると思います。」
銅貨1枚は日本円で100円だ、それが1万台売れれば1人100万円の歩合給になる。商会を始めていきなり給料が金貨10枚とか普通ではありえない。
バートさんとチェスカさんは驚いて固まっている。対照的にユーカとイルミはニコニコと微笑んでいる。
「まあ、明日から販売を掛けますので、初日の売り上げを見れば皆さん納得すると思いますよ。」
そう言った後ユーリは皆の昼食を用意し商会を出て、販売予定の3つの店舗を回る。バートさんに言われた宣伝用の魔道具も用意して来た。ナレーションを多めにし、名場面のセリフを散りばめ映画の予告編の様に仕上げた。1分程の長さで、無限にリピートする様に作ってある。ポスターも作ってある。こちらはアニメ調で思いっきり派手にして置いた。各店の店主に魔道具の説明をして、販売方法も教える。ポスターも目立つ位置に張らせて貰い。第2弾が1週間後に発売する事も伝えて置く。値段と取り分の説明もし、各店舗に5000個ずつ卸して行く。無くなったら通信機で連絡する様にお願いする。雑貨屋イルミの店員2人にもスマホを渡して使い方を教えた。
明日の10時に一斉に販売開始と決めた。ユーカとイルミにも通信機で学院で宣伝する様に伝える。
そう言えばユーカがこの前14歳になったと言って居た。ユーリも来月で14歳だ。その10日後にはイルミも14歳になる。挨拶に行かないとな。そう思ったら緊張して来た。
3つの店舗で色々説明していたら結構良い時間になっていたので家に帰る事にする。転移で戻ると、フロッシュさんが使用人の面接をしていた。住み込みで金貨1枚は破格の条件らしく応募が殺到しているらしく、フロッシュさんは毎日50人位の人を面接しているらしい。迷惑かけてごめんよフロッシュさん。あと早めに庭の手入れする人雇ってね。
こっそり自室に転移し、お腹が空いたので久しぶりにラーメンをすする。たまに無性に食べたくなるんだよね。
翌日10時、ベンマック商会、アトマス商会、雑貨屋イルミで一斉に魔道具が起動し、この世界で初めての『聞く物語』が販売開始された。初めて聞く音楽や音に道行く人や店を訪れた人たちが興味を惹かれ、しばし聞き入っている。やがて、人だかりが出来、徐々に商品が売れ出す。お昼を過ぎた頃にはどの店にも100人単位の人だかりが常に出来ていて、皆が口々に新しい娯楽に対する意見を述べている。1人が買うと釣られて数人が買って行く、このサイクルが続いている。予告編は1分なので2.3回聞くと皆その場を離れる、また次の客が来る、その繰り返しだ。新しい娯楽が発売された事はすぐに王都中の噂になる。店員たちはまた来週に新しい話が発売される事を購入者に伝える。するとざわめきが起きる。
3時を回ると魔法学院生達が、各店舗にやって来て、人だかりに吃驚しながらも購入して行ってくれる。学院生が買うと他の何人かも買ってくれる。
そんなこんなでなんと初日だけで各店舗合わせて5000台が売れた。明日は更に噂が広まり人が集まるだろう。ユーリの予想は良い意味で外れた。それだけ王都の人達が娯楽に飢えていると言う事だろう。
各店舗は閉まる時間が違うので、その都度ユーリに通信が入る。ユーリはバート商会で集計の為待機していた。他のメンバーも一緒だ。通信が入りユーリが数字を言う度に4人から歓声が上がる。
「最初の1台だけでこんなに売れるなんて、第2弾が出たらどうなるんでしょうか?」
バートさんが全ての集計が終わった後にユーリに尋ねる。
「思った以上に売れましたね。これは嬉しい誤算です。多分、王都だけじゃなく他の町からも購入希望が来るかもしれませんね。」
「大丈夫ですか?」
「問題ありません。ベンマック商会とアトマス商会は王都外への販売ルートも持っています。流石に輸出になると違う商会に頼みますけど、まずは国内で10万台を目指しましょう。」
「月に10万台ですか?」
「大金持ちになれますね。でもこれだけに頼らず、新製品の開発も考えて下さいね。」
「ユーリ君は相変わらずスパルタだね。」
イルミが呆れたように呟いた。




