第八十九話
「僕が欲しい物ですか?やはり、ユーリさんの様な柔軟な発想力が欲しいですね。商人にとっては武器ですから。」
真面目なバートさんらしい意見だ。
「柔軟な発想力かぁ。それは後程何とかしましょう。チェスカさんは?」
「私は、昔から体が弱く寝込んでいる事が多い子供でした。大人になれば丈夫になるかもと言われていたのですが、成人しても体は弱いままで。そんな私が、唯一苦しさを忘れる事が出来る方法が空想でした。思えば、楽しい事を空想している時間が私を救ってくれたのかもしれません。そんな時に、バートが雑貨屋イルミの小説を持って来てくれました。衝撃を受けましたね。空想が形になった物が販売されていると言う事実に感動し、何度も何度も読み返しました。夢に出るくらい何度も。私が作りたいのは、小説の様な、空想を形にした物です。」
チェスカさんが熱く語ってくれた。
「空想を形にした物。小説とは違うアプローチで?イルミどう思う?」
イルミに振ってみる。
「そうね。物語の別の形と言えばやはり舞台劇かしら?」
「空想だから、小説よりも舞台化し辛いんじゃないかな?ユーカは?」
今度はユーカに振る。
「神話なんかも舞台化されているから、ナレーションを上手く入れれば出来なくは無いんじゃない?」
「ナレーション?その手があったか。」
「ユーリがまた何かを思いついたみたいね。」
「うんうん、面白くなりそう。」
イルミとユーカが無責任な事を言っている。
「バート商会の第1号商品は『聞く物語』です。これで行きましょう!」
「聞く物語ですか?」
皆の顔が?マークになっている。
「はい、空想を魔道具で音声にします。」
「新製品は魔道具なんですか?」
「多分実物を見ないと理解できないと思うので明日を楽しみにしていて下さい。とりあえず今日は、もう1つの方、バートさんの願いをかなえます。」
「え?僕の願いって、可能なんですか?」
バートさんが吃驚した顔で聞いて来る。ユーカとイルミは感づいているみたいだ。
「あ、イルミとユーカもやるから覚悟してね。」
「え?私たちも?」
「何をやるんでしょう?」
バートとチェスカは不安げだ。
「バートさんステータスって知ってますか?」
「ああ、教会で測れる個人の能力の事ですね?」
「そうです。では商人に必要なステータスがあるのをご存じですか?」
「いえ、ステータスは冒険者だけが利用する物だと思ってました。」
チェスカさんの方を見ると首を横に振っている。
「じゃあ、自分のステータスを見た事が無いって事ですか?」
「無いですね。」
解りましたと言って4人の前に1枚ずつ紙を置いて行く。
「各自紙を胸のあたりに持ち上げて下さい。これから魔法を掛けますので、紙を見ていて下さい。ステータスが浮かび上がります。」
そう言ってユーリはステータスの魔法を掛ける。本当は反則だがついでに鑑定もかける。
「どうですか自分のステータスは?基本自分の年齢より数値が高ければ問題ありません。ステータスは個人情報なので通常は人に見せない物なのですが、今日は皆のステータスを開示して貰います。理由は後でわかりますので各自ステータスの紙をテーブルの上に置いて下さい。」
4人がそれぞれステータスの紙をテーブルの上に置く。
「まずは皆さん知力に注目して下さい。これは魔法を使うのに必要な数値と言われていますが。実は数値=頭の良さになっています。つまり高ければ高い程頭が良いと言う事になります。」
それを聞いて、4人は自分の数値と他の人の数値を見比べている。
「凄い、イルミさんとユーカさんは1200を超えている。」
バートが思わず声を上げる。
「バートさんの数値も悪く無いですね。何もしてないのに300を超えているのは凄いですよ。チェスカさんも250はかなりの数値です。知力だけなら王宮魔導士にも負けていませんね。」
「そうなんですか?でも・・・」
「まあ、イルミとユーカの数値は納得いかないでしょうね。一旦それは置いて置いて、体力を見て下さい。」
一斉に皆が自分の紙を見る。イルミが45、ユーカが38、バートが42、そしてチェスカが19だ。
「これで判る通り、チェスカさんの数値が一般より低いですよね?これがチェスカさんが体が弱い理由です。これでも薬の影響でかなり上がっては居るんですけどね。多分、薬を飲む前は1桁だったんじゃないかと思います。」
「なるほど。」
「まあ、これは普通に生活して行けば徐々に上がって行くんですけど、今、倒れられても困るので上げちゃいましょう。」
そう言ってユーリが魔法を掛けるとチェスカの体力の数値が徐々に上がって38で止まる。
「とりあえず倍にしておきました。これで一般人と同じ生活が出来ますね。」
「ありがとうございます。って、もしかしたら2人の知力って?」
チェスカが気が付いた様だ。チェスカの言葉でバートも『あっ』と言う顔をする。
「その通りです。これから皆さんの知力を上げたいと思います。ユーカとイルミは魔力量もあげるから、そのつもりで。」
「「はい!」」
ユーカとイルミが返事をし、バートさんとチェスカさんは頷いている。
「じゃあ、いくよ!」
そう言って順番に魔法を掛けて行く。バートとチェスカは知力を1万に、ユーカとイルミは知力を1万に上げ更に魔力量を10万に上げる。
4人は上がった数値を見て驚いている。
「これで皆さんは王国いや世界でも1,2を争う頭の良さになりました。ただ、使わなければ宝の持ち腐れです。更にユーカとイルミは魔法使いとしてもかなりのハイレベルになりました。訓練しないと練習場が爆発するから気を付けてね。」
「うわっ、改めて数値で見ると信じられない数字ね。これで学院に未練が無くなったわ。」
イルミが実質退学を示唆する。
「いきなり頭が良くなりましたって言われても良く解らないわね。」
チェスカがこめかみに指を当てて何やら考えている。
「まあ、確かに頭の良さってすぐには解りづらいよね。でも、こういう商会をやってるとだんだん解って来るから。そうなると楽しくて仕方ない位楽しいよ。だから、バートさんもチェスカさんも頑張ってね!」
「「はい!」」
「じゃあ、僕は帰って新商品の試作品を作るね。ユーカとイルミはどうする?」
2人は顔を見合わせて一呼吸置いてから頷く。
「私たちはもう少し残るわ。それと明日からは迎えは要らないから。」
「そっか、じゃあ、お先に失礼するね。」
そう言ってユーリは店を出て転移で屋敷に帰る。
ユーリが帰ったのを確認してからイルミがバートとチェスカに尋ねる。
「ユーリ君って自分の事何処まで話した?」
「えっと、アトマス商会を立ち上げて、その後雑貨屋イルミを立ち上げたって言うのは聞いてます。あと、魔法学院の生徒だとも言ってましたね。」
「それだけ?相変わらず自分の事は話さない秘密主義者ね。」
「ん?どう言う事ですか?」
「ユーリ君はね伯爵家の3男で自分自身も伯爵の爵位を持つ貴族なのよ。」
「「え~!!」」
バートとチェスカが今日一番の驚きを見せる。
「だって、ユーリさんってまだ未成年じゃ?」
「うん、私たちと同じ今年14歳だよ。」
ユーカが答える。
「でもね、初めて会った12歳の時から彼は天才だったわ。魔法も商売もね。さっきも私たちのステータスを簡単に上げてたでしょ?あんな事普通じゃ出来ないわ、彼が私たちの知力を1万に上げたって事は彼はもっと知力があるって事になるでしょ?」
残りの3人がうんうんと頷いている。
「彼が貴族になったきっかけは王都に現れたドラゴンを1人で倒したかららしいわよ。」
「あのドラゴン騒ぎのブラックドラゴンを1人で?」
「何者なんでしょうね?私の病気も簡単に治しちゃったし。」
バートとチェスカが首を捻っている。
「まあ、悪い人じゃ無いのは保証するわ。彼に付いて行けば人とは違う人生を歩めるわよ。良い意味でね。」
イルミがそう言うと、隣でユーカが大きく頷いている。




