第五十六話
店舗でのお菓子販売開始と共に学院内でも口コミをかける。興味がある生徒は店舗へ訪れるだろう。出来れば家族で行ってくれると宣伝になるのだが、そこまでは望めない。
また、店舗の方も徐々に口コミが広がり、日々来店数が増えている。来店数が上がれば売り上げも上がる、そして更に口コミが広まる。良いスパイラルに乗った様だ。
ユーリとイルミはたまに店舗に顔を出し。ユーリは商品の補充と昼食や食材の差し入れ、イルミは売り上げの回収を行っている。
店舗は暫くこのままで良いだろう。問題は学院の方だ。そろそろ新製品を出さないと生徒達がうるさい。本は月に1回のペースで新作を出す事が決定している。出来ればもう一品位売りに出来る商品が欲しい所だ。
毎日忙しい時間を縫っての会議は続けているが、新製品のアイデアや希望はこれと言った物が出ていない。買う側もこの世界に無い物の希望を求められても答えに窮するだろう。ユーリは単純に『こんな物があったら良いのに』程度の希望を求めているのだが、メンバーや購買者は具体的なアイデアを出さなければと勝手にハードルを上げてるように思える。
ユーリが勝手に向こうの世界の物を再現して、『こんなのどう?』って言うのは簡単だが、それではメンバーが育たない。ユーリはメンバーを育てて、行く行くは中から自分の右腕になる人物が現れるのを期待している。
「誰か新製品のアイデア思いついた人居ないの?」
放課後の会議でユーリは久しぶりに口にしてみた。ここ数日は相手から何か言って来るのを待っていたのだが、ついに焦れてしまった。
「あの、学院と言う枠で販売しても良いか判断が付かない物なら1つあるのですが、それでも良いですか?」
キルケがおずおずと手を上げ発言して来た。
「ん?とりあえず何でも良いよ。売れるかどうか、何処で売れるかは皆で考えればよい事だから、気にせずに言いたい事があったらどんどん言ってね。」
「これは上級生に尋ねられたのですが、アクセサリーの類は販売しないのかみたいな事を何度も言ってくる人が数名居るんです。貴族は結構アクセサリーを付けていますが、庶民には値段が高くて・・・」
確かにアクセサリーと言えば貴族の物と言う風潮はある。しかし、それは値段が高いだけで、お金持ちの平民ならアクセサリーをしている者も居る。現代日本なら百円ショップでもアクセサリーが売っていて、小学生でも付けている子は居る。
値段の安いアクセサリーを作ったら付けてくれるだろうか?チープだと売れない物も存在する。学院は未成年と成人が混在する特殊空間だ。試してみるのも悪く無いかもしれない。
「女性陣でこの後予定の無い子は居る?」
「私は空いてるわよ。」
「あ、私も!」
「すみません私はちょっと用事が。」
「ああ、構わないよ。じゃあイルミとユーカ、ちょっとこの後付き合ってくれない?アクセサリーショップを偵察に行きたいんだ。」
イルミとユーカは問題無いと引き受けてくれた。これを機に、今日の会議を終わりにする。
「何処か知ってるアクセサリーショップある?」
「中央通りに若者に人気のショップがありますよ。そこはどうでしょう?」
ユーカが提案して来たのでそれに乗る事にする。イルミも不満は無い様だ。
「じゃあ、そこへ行こうか、案内頼むよ。」
3人で連れ立って中央通りに向かう。中央通りは学院からだと30分くらい掛かる。この世界の住人は良く歩く、これは移動手段が徒歩か馬車くらいしか無いからだ。1時間くらいなら休みなしで平気で歩く。
ユーリは毎朝家から馬車で出る。アトマス商会までは馬車、そこからは徒歩だ。自然と学院へは徒歩で行く事が多くなる。その為か、知らない物はユーリの事を平民だと思っている様だ。ちなみに馬車はサスペンションが無く椅子も木製。車輪も木製なので慣れていないと尻が痛くなる。ユーリも初めて馬車に乗った時家に帰ってから大変だった記憶がある。今では伯爵家の馬車には15センチほどの低反発マットレスの様なクッションが引いてあるが、ユーリはこれでも尻が痛くなるので馬車は嫌いだ。伯爵家には2台の馬車があるが、父上や兄上達にはクッションは好評だ。毎日登城するのに使用するので慣れていると言うのもあるだろう。いずれはサスペンションを装備し、ゴムタイヤに替えて、座席もスプリング製の馬車を作成するつもりだ。
中央通りに近づくと商店と商会の数が半々位になって来る。人通りも多い。中央通りまで出ると今度は馬車が多くなる。地方へ向かう馬車と地方から来た馬車だ。王都はこの国最大の都市なので交易も盛んだ。流行の発信も王都が一番多いし、地方の流行もすぐに集まって来る。
中高通りを王城方面に少し歩いた所に目的のアクセサリーショップはあった。2階建てで1階は宝石商で2階部分がアクセサリーショップらしい。外階段があるのでそれを登って店に入る。
店はかなりの広さがある。売り場面積は雑貨屋イルミの5倍くらいありそうだ。その割に商品数はあまり多くない。一つ一つの展示に力を入れている様だ。おそらくこれがこの世界の高級店って奴なのだろう。ざっと端から商品を見てみるが、最低でも金貨5枚はする様だ。ユーカとイルミは雰囲気に呑まれている。
店に入るとすぐにホテルの支配人の様な格好をした店員が現れる。
「ご来店いただきありがとうございます。今日はどういった物をお探しでしょうか?」
「この店が若い子に人気だって聞いてね。この2人に似合いそうな物があるかなと思い寄らせてもらった。」
ユーリが珍しく貴族モードになっている。ユーカとイルミはますます緊張している。
「見た所、未成年のご様子。でしたら、右側のシンプルなデザインの物が人気でございます。アクセサリーは年齢が増すごとに派手にするのが良いでしょう。」
流石に繁盛店。客に高い物を売りつけようとはしないのは好感が持てる。
「ユーカ、イルミ、値段は気にせずに自分の気に入った物を教えてくれるかな?」
「解った見てみる。」
かろうじてイルミが反応する。ユーカは黙ったままだ。まだ、店の雰囲気に慣れないのであろう。




