第二十七話
翌朝、何時もより早めに家を出てアトマス商会にやって来た。まだだいぶ早い時間だったが、アトマスさんは既に来ていた。最近商会は任せっきりなので自分の店と言う自覚が出てきたのかもしれない。早速会議室で昨日の話の続きをする。店員達はまだ自室の様だ。
「まず、冷蔵庫の件ですが、相手側にサイズを決めて貰ってから値段を決めては如何でしょう?業務用でも店によって入れるスペースが違いますので、大きさも違うでしょう。また、職種によってもサイズが変わってくると思います。」
流石にアトマスさんは、商売になると頭が回る。ユーリはサイズは一定の方が売りやすと考えていたが、言われてみれば確かにそうだ。
「そうですね、完全オーダーメイドにしましょう。とりあえずサンプルとして1台商会に設置して置くので、その方向で販売してみて下さい。価格設定はアトマスさんに任せます。」
「解りました、お任せください。商いが成立しましたら、2人で設置に行きましょう。」
「ですね、で次の件なんですが。新人はどうなりましたか?」
「はい、現在商業ギルドが探してくれています。多分明日か明後日には面談出来るのではないかと。場合によってはセレンかカレンを食堂へ行かせて、新人はこちらで教育する事も考えています。」
「それは助かります。」
確かに新人にこれから食堂の仕事を教えるのは大変だ、であれば、慣れているセレンかカレンを食堂に移動させた方が早い。新人にはどちらで働くにせよ両方の仕事を教えて置いて損は無い。
「あと、もう一件。実は貴族用の食堂を作って欲しいと言う要望が来ているんですが、どうしたら良いかと。」
「貴族向けの食事処ですか、それは是非やってみたいですね。実は、商会に見える貴族のお客様からも同様の要望が来てるんですよ。特に男爵様の結婚披露宴の後からが多いですね。」
「確かに魅力的ではあるんですけどね。料理人がまだ育ってないのがネックで。」
「ユーリ様が2人居れば良いんですけどね。」
料理人を育てるのは難しい、特にユーリの作る食事は異世界の調味料や材料を使っているので、そう簡単には行かない。
となると、メニューを限定する。材料はユーリが用意する、料理人は半完成品の料理を混ぜて温めるだけと言うシステムを作らないといけない。もしくはコース料理のみにして、あらかじめ作って置いたものをマジックバッグから提供するか。いずれにしろユーリの負担が大きい。
伯爵家の料理長ですら、まだ、柔らかいパンとパスタ位しか作れない。他の料理はユーリが材料を用意して、最後の仕上げだけしてる感じだ。焼く、煮る以外の調理法、揚げる、蒸す等は教えてあるが、まだ応用が利かない。
「まず、商会で調味料を販売しましょう。そして、料理人を育てる場所も用意して、僕の料理を再現できる人間を最低でも10人は育てないと、この話は難しいですね。」
「調味料販売ですか。冷蔵庫も販売するんですよね?これはもう一人くらい従業員が必要かもしれませんね。」
「そうですね。食堂は6人体制で何とかなりますので、商会は人材育成も考えて、あと3人位雇っても良いのでは?」
「ん~、確かにこのクラスの商会ならその位の人数が居てもおかしくないかもしれませんね。誰かが倒れた時に交代も利きますし。」
「では、そう言う事で、追加で3人補充して鍛えて下さい。」
「解りました。そちらはお任せください。」
話を終えるとユーリは『銀の猫亭』へと向かった。時間が早いので一旦食堂へ行くより、そっちの方が早いからだ。
『銀の猫亭』へ着くと、丁度ルーネさんが出かける支度をしてる所だった。
「間に合って良かったです。今日の分のケーキとアイスクリーム持って来ましたよ。」
「あら、ユーリ君今日はどうしたの?」
「今日は商会の方へ顔を出してまして。食堂へ戻るより、ここへ来る方が近かったので。それにパスタの様子も気になりますので。」
旦那さんは、調理場で黙々と調理をしている。匂いからしてナポリタンだろう。
「コールさんおはようございます。調子はどうですか?」
「一応店に出せるレベルにはなった。だが、どうも納得がいかない。」
「じゃあ、味見をさせて貰えますか?」
「う~ん。これなんだが。」
そう言ってコールさんはナポリタンを皿に盛って出してくれた。一口食べてみる。立派にナポリタンだ。だが、物足りないと言う。トマト感、酸味が若干強いかな?
「これは甘みが足りないのかもしれません。ソースを作る時に甘い果物の汁を隠し味程度に加えてみて下さい。」
「なるほど、甘みか・・・」
「そうですね。でも、これでも十分お金を取れる味になってますよ。この短期間で凄いです。」
「解った。店に出しながら徐々に完成品にして行くよ。ありがとなユーリ君。」
「いえいえ、パスタには無限の可能性があります。完成したら次の味も模索してみて下さい。」
そう言ってユーリは『銀の猫亭』を後にし『大地の恵亭』へと向かうのであった。朝の空気は気持ち良い。しかし、これからどんどん熱くなって行くだろう、今日はアイスクリームが沢山出る事だろう。
(うちの店でも何か冷たい物を出すかな?)
「そうだ!あれだ!!」
ユーリはニマニマしながら道を歩いて行くのであった。




