第二十五話
遂に『大地の恵亭』オープンの日がやって来た。スタッフもユーリも気合が入っている。開店の10時まではまだ40分位あるが、みな緊張気味だ。ルーナさんは先程店を訪れて、仕入れをして帰って行った。帰り際に「頑張ってね!」と声を掛けてくれた。ありがたい。
この店のターゲットはお昼と夕飯なので、開店、即忙しいとはならないだろうとユーリは考えている。忙しくなるのはお昼を迎える11時半頃からだろう。今回は何がどれだけ出るのか読めないので作り置きはしていない。カウンターのリリスが注文を受けてからユーリが料理を用意して、料理人のマッシュとジョエルが客に提供すると言うスタイルだ。店の広さは元々宿屋だったのでそれ程大きくは無い、それでもユーリの魔法で多少拡大してある。満員で40人は座れる筈だ。
メニューは丼物、定食、麺類、単品料理、そしてドリンクだ。大衆食堂を謳っているのであえて、軽食は外した。また、あえて外したメニューもある刺身とカレーだ、この世界では生の魚は食べないし、カレーは香辛料の塊なので高価だと敬遠されるからだ。
それから、この世界に無いサービスとして、無料の氷水を採用した。日本の食堂なら店に入り席に着くと、自然と水が出て来る。しかし、この世界でそれをやってる店は無い。水もまた商品なのだ。水を配るのはウエイトレスのルイーゼとサラサだ。アイテムボックスを付与したストッカーに大量の氷を用意してある。水もピッチャーに入れて冷やしてあるので、常に冷たい氷水が提供出来るのだ。
最終チェックを終え。若干早いが、開店する事にする。店の前にあるクローズの板をひっくり返してオープンにする。今回は呼び込みはしない。軽食販売やポスターなどで宣伝はしてあるので客を待つばかりである。
と思ったら、既に10人程度の人が並んでいた。軽食販売の常連さん達だ、どうやら異世界の味の虜になったらしい。
「「いらっしゃいませ!」」
早速店に入って貰いシステムを説明する。他の食堂と大して変わりは無いので、皆問題なく注文して行く。
まだ、早い時間帯なので丼物や麺類が多く出る。特に新しもの好きな連中なので、知らないメニューから注文して行く様だ。写真の載ったメニューも分かり易いと好評だ。
最初の10人を捌き終わらない内に、次の客がやって来た。この分だと昼には行列になるかもしれない。
麺類の特にラーメンが好調だ。野菜たっぷりの味噌ラーメンとあっさりした醤油ラーメンがあるが、味噌ラーメンの人気が高い様だ。
丼物は牛丼、かつ丼、天丼を用意したのだが、かつ丼の人気が高い様だ、やはり肉が多いのが良いのだろうか?
定食はライスとパンを選べるようにしてある。これはライスが苦手な人が少なからずいるからだ。
無料の水を提供してるせいかドリンクの注文は少ない。ただ、あえてメニューに加えたコーヒー牛乳は珍しさからちょこちょこと出ている。
そうこうしているうちに店内は一杯になり。外で待つ客が出て来る。この時点で10時40分。お昼は確実に大行列になるだろう。軽食販売と違ってゆっくりと腰を据えて食べる客が多く。一人当たり30~40分位かかる。これは店の外にもテーブルが必要になるかもしれないとユーリは考える。
11時を超えると本格的に忙しくなって来た。この分では昼ごはんは食べられそうにない、もしかしたら夕飯も食べられないかも。料理人とウエイトレスの4人は交代で何とか食べる時間を作れる、ユーリは基本隠れているので問題無い、問題はカウンターで一人で頑張ってるリリスだ。とりあえずマッシュにストッカーにハンバーガーが入っているのでタイミングを見て、皆に食べさせるように指示を出す。
なんとか、4人は食事が出来た様だ。しかし、リリスをどうしよう、そう考えていた時にアトマスさんが様子を見に来てくれた。
「アトマスさん!良い所に来てくれました。20分だけカウンターをお願いします。リリスさんを休ませないと倒れてしまいます。」
「わ、分かりました。練習を見てたので大丈夫です。任せて下さい。」
すぐにリリスをバックヤードで休ませて、食事を取らせる。
「すみませんリリスさん。初日からこんなに混雑するとは予想外で。」
「私は解ってましたよ。覚悟の上でちゃんとペース配分してました。」
「え?」
「実は私もアトマス商会の軽食販売のファンでして。この店は絶対流行ると、そして、今日もこうなると予測してました。」
「そうだったんですか、でも食事抜きじゃ毎日は無理ですよ。もう一人人を雇いましょう!」
こうして、行列は途切れる事無く、夕飯時の地獄を切り抜ける為に急遽アトマス商会を早めに閉めて、アトマスさん、セレンとカレンの3人が助っ人に入るのであった。
『大地の恵亭』初日はこうして、アトマス商会全員、9名の力でなんとか乗り切ったのである。閉店の夜10時過ぎユーリはみんなに今日一番人気のあった味噌ラーメンを振舞い。ジュースで乾杯した。
「ところで明日はどうするんですか?」
アトマスさんが聞いて来る。確かに6人体制では厳しい。人を雇うにしても今日の明日では難しいだろう。
「アトマスさんはギルドへ行って店員の補充をお願いします。計算の出来る人って条件で。あと、セレンさんかカレンさんを貸して下さい。2人ならカウンターの交代要員として立派に務まりますから。」
「解りました、では新しい人材が来るまでセレンとカレンを交代で勤務させます。」
「助かります。」




