第二十二話
貴族の結婚披露宴での成功に気を良くしたユーリは、大衆食堂の新設に自信を持った。あの披露宴以来、何件か貴族の披露宴のオファーも来ているが全て断っている。父上との派閥の問題だ。
ユーリはアトマスさんを連れて商業ギルドへと行き、既に店舗だけは購入してある。潰れた宿屋の出物があり、立地も悪く無い。アトマス商会からも銀の猫亭からも歩いて20分程度の場所である。若干南寄りだがまだ王都の中心部とギリギリ言える場所であった。
「次は人を雇わないといけませんね。」
「アトマス商会は3人も居れば大丈夫ですよ。」
「では、ルイーゼとサラサは僕が引き受けます。ウエイトレスはこの2人で良いとして、あと料理人が2人、受付が1人、護衛が2人欲しいですね。」
幸い、元宿屋を改装するので部屋数は多い。1階部分にキッチン、食堂、カウンター、宿屋一家が暮らすスペース。厩舎があり、2階部分が部屋になっている。2階部分を改装すれば、10部屋程度の寮になるだろう。厩舎は要らないので風呂に改造予定だ。男湯と女湯を分けても十分広いお風呂になる。1階部分の居住スペースは事務所兼バックヤードにするつもりだ。
「アトマスさんは護衛の手配をお願いします。奴隷商の方は僕は入れませんからね。僕は料理人と受付の手配をします。」
「解りました。条件は前回と一緒で良いですか?」
「構いません。また、金貨40枚渡して置きます。」
料理人はなるべく若い人を雇ってユーリが鍛えるつもりだ、一人は伯爵家から引き抜こうと考えている。若い人の方が考えが柔軟なのでユーリの料理に対して適応力が高いからだ。
まず一旦自宅へ戻り希望者を募る。料理長までが手を挙げていたが、中でも一番年の若いマッシュと言う青年を選んだ、父上に許可を貰い。すぐさま商業ギルドへと向かう。
受付で希望の人材を伝えると、受付嬢が募集を掛けるので2日待ってくれとの事なので、待つことにした。
2日暇が出来たので、店舗へ赴き、まずクリーンを掛けて建物を綺麗にする。更にオールリペアで補修すれば、かなり見栄えが良くなる。風呂や寮の部屋等を作り、キッチンも少し手を入れて置く。魔石を使った冷蔵庫とアイテムボックスを付与した保管庫を設置した。
外観が何となく宿屋のイメージから離れないので、魔法で外壁を白く塗装してみた。清潔感があって良い感じだ。汚れない様にプロテクトの魔法もかけて置く。
『大地の恵亭』と言う看板を設置して、近日オープンと言うポスターを張って置く。アトマス商会の軽食販売でも既に宣伝を掛け始めてる。開店は1週間後、軽食販売は3日後には中止する旨も同時に宣伝している。
2日後商業ギルドへ赴き、志望者の面接をする。料理人にはジョエルと言う成人したての料理店の息子と言う青年を雇った。受付は読み書き計算の出来る19歳のリリスと言う女性を雇う。彼女は他の商会に勤めていたのだが、今回の募集を聞いてその商会を辞めてまで勤めたいと言って来た変わり者だ。
賃金は面倒なので全員住み込みで一律金貨1枚と言う設定をした。アトマスさんからはかなりの破格な条件だと言われた。
次の日から引っ越しや部屋決め等を経て、開店に向けて、一通りの動きやシミュレーションを繰り返す。今度の店は軽食販売と違って料金が一定ではない。更に、ドリンクやアルコールも出すので、営業時間も朝の10時から夜の10時と決めた。カウンターで注文して、先払いでお金を払い料理を受け取るシステムにしてある。お替りなども、先払いだ。お金の計算は全てリリスに任せる事になる。
料理人達には店にいる間中ずっと料理の試作をして貰う事になる。もちろん商品になる物は客に提供するが、基本はキッチン内でユーリが出す料理をウエイトレスの2人が運ぶ事になる。
翌日にはアトマスさんが護衛を2人連れて来た。これで6人体制の『大地の恵亭』は準備万端だ。アトマスさんも来たので食事会にする。そう言えば店で出す料理をまだ新人たちには食べさせていなかった事に気付いたからだ。
牛丼、かつ丼、唐揚げ、エビフライ、ハンバーグ、フライドポテトやハンバーガーなど大衆食堂らしいメニューを並べると、新人4人がゴクリと喉を鳴らす。飲み物は昼間なのでソフトドリンクだ。
「さあ、好きな物を好きなだけ食べてね。お替りは言ってくれればすぐに出します。新人さん達は試食だと思って、色々な物を少しずつ食べてね。」
慣れている人たちは和気藹々と、新人たちは無言で料理の山に挑むのであった。
そこへ、『銀の猫亭』のルーナさんがふらりと現れた。
「敵情視察ですか?」
「違うわよ。激励に来てあげたのよ。って、ここでも甘味出すの?」
「いや、ここは食堂ですので甘味は出しませんよ。『銀の猫亭』の客は奪いませんから安心して下さい。」
ルーネさんはやはり、それが一番気になっていたようである。
「あ、それから、明日からはこの店にケーキを取りに来て下さい。前よりも近いので楽でしょ?」
「そうね、助かるわ。それから、また何か新商品を依頼したくなったらしても良いのかしら?」
「大丈夫ですよ。お互い儲けましょう!」
ルーネさんは味方にしておいた方が何かと助かると考えているユーリなので、『銀の猫亭』を潰す事は考えていない。
「あ、そうそう新しい甘味のアイデアがあるので、今度試してみて下さいね!」
「本当!!」
ルーネさんには笑顔が良く似合った。




