第十八話
パウンドケーキは我が家で大ヒットした。ユーリが用意した材料を混ぜてオーブンで焼くだけと言う手軽さに、他の料理人達も次々と試作したので、大量のパウンドケーキが出来上がり、使用人にまで振舞われたからだ。ユーリは更に、紅茶の葉やドライフルーツ等を混ぜたり、ジャムを付けて食べると美味しいと言う事を教えた。すると、翌日も大量のパウンドケーキが・・・流石にユーリはそんなに食べられないが、優しい甘さのお菓子は伯爵家の皆に受け入れられたのである。この世界では砂糖は貴重品である。その為貴族の間では砂糖を大量に使った物ほど高価で美味しいとされている。しかし、お菓子技術の発展していないこの国では、砂糖菓子は甘すぎてとても食べられた物では無い。貴族のお茶会では紅茶を飲み、砂糖代わりにお菓子をほんの少し口にすると言うのが作法である。母上の持って行く軽食が喜ばれたのも、この辺の事情からである。
そう言えば国王陛下も美味しい料理が食べたいって言ってたらしいな。何とかならないかな?
庶民の間ではアトマス商会の軽食は美味しい新しい食事の代名詞となり、真似をする料理店も増えて来ている。
一方で、貴族の間ではまだ、オーバルバイン伯爵家以外に新しい料理を取り入れているところは無い。何処かでパーティーでもあれば、父上にお願いして料理を提供できるのだが・・・とりあえず父上に近く派閥のパーティーが無いか聞いて置こう。
娯楽に関してだが、こちらは既に作る物は決まっている。問題は何時何処でそれを披露するかだ。予め特許を取って置くのは当然だとして、国王陛下にも献上しないといけない。貴族用と庶民用の2種類用意すると言うのはユーリの中では既に決まっている。庶民用は大銅貨1枚程度で販売したい。貴族用はあまり安いより若干高めに値付けした方が売れるとアトマスさんが言っていたので、銀貨5枚程度を考えている。
(作るのは簡単だけど、宣伝方法が難しいな・・・。発売イベントでもやるかな。)
この世界の識字率はあまり高くない。ルールを書いた紙を同封するつもりだが、庶民には難しいだろう。ルールを含め教えるイベントが必要になる。
「試作品を作って人の集まる場所に置いてみるのも手だな。『銀の猫亭』とかどうだろう?」
ケーキで人が集まっている『銀の猫亭』なら新しい物に敏感な人が多いはずだ、上手くハマってくれれば宣伝効果も高いだろう。ユーリは律義に神様と約束した文明レベルを上げるを実践している。とりあえず3つばかりリバーシを作成しアイテムボックスにしまっておく。明日にでも『銀の猫亭』に行ってみよう。その日はそのままユーリは眠りに落ちた。
翌日、朝、ケーキを取りに来たルーネさんに軽食販売が終わったら店に行くと伝えて置いた。
今日の軽食はクロワッサン3個とクラムチャウダーである。実はクラムチャウダーは一度出した事があるのだが、海から遠い王都では魚介類が珍しいらしく、また出してくれと言うリクエストが多かった商品だ。ユーリは事前に1000食分マジックバッグに用意し、開店の準備をする。マジックバッグに入った分は、ユーリが何かで手が離せない場合に提供される。残った分は従業員の食事に回したりもする。基本は注文を受けたらその場でテーブルに出すのがアトマス商会のスタイルだ。
軽食は順調に売れ続け。時折、グラスや鏡、バッグの客が訪れて、アトマスさんが対応する。大抵の客はアトマスさん一人で対応出来るので、セレンさんとカレンさんの姉妹は軽食の方の手伝いをしている。列の整理や食べ方の説明等、未だに忙しさは変わらない。また、パンだけ売ってくれと言う客も一定数居るので、計算の出来る姉妹がそれに対応している。パンは1袋3個入りで銅貨2枚で販売している。結構まとめて買っていく客が多く、中には10袋とか買う者も居る。もしかしたら飲食店関係者かもしれない。ユーリは食事を広める事に重点を置いているので転売を咎めたりはしない。
(相談してくれれば安く卸しても良いんだけどね。)
この世界では商売はギルドが仕切っている。なので、問屋は問屋、小売は小売りと明確に分かれていて、小売店から物を仕入れると言う発想が無いらしい。『銀の猫亭』のルーネさんの様な例は珍しいと言える。だが、アトマス商会は商会を名乗っていて、小売店だとは明言していない。店の商品全部、相談してくれれば安価で卸す事も可能だ。だが、あえてそれは宣伝しない。宣伝すれば殺到するのが目に見えているからだ。そう言う事で転売屋を見逃している。
また、もう少し軽食が広まったら、パンのレシピとドライイーストの販売をしようと考えていると言う事情もある。
既にユーリの家では柔らかいパンのレシピは公開されており、ドライイーストも常備されている。料理人達が育ったらレシピを書かせ販売する予定だ。もちろん、レシピは買い取る事にしている。
ユーリは食品に関しては特許を取得していない。これは食品を広く広めたいからである。他の商品はユーリにしか作れない物である。これに関しては特許を取ってある。別に取らなくても良いのだが、トラブルを避けるためにも取って置いた方が良いと周りから言われているのでそうしている。
しかし、食品に関しては、どんどん真似をして食生活を豊かにして欲しいと言うのがユーリの願いだ。その為のレシピ本や材料や調味料の販売も準備を始めている。
そして、次に発売する予定のリバーシだが、これは特別な商品だ。真似しようと思えば簡単に真似が出来る。もちろん特許は取るが、ある程度普及したら、特許を放棄しようと考えている。またOEM供給も考えている。これはある意味勝負の商品である。是非とも成功させなければならない。気合の入るユーリであった。




