第百三十話
食堂を始めて3週間ほど経つが評判は上々だ。当初の予定を上回り1日平均100人以上の客が安定して来るようになった。
今の所小麦粉の値段が安定しないので麺類だのは出せないが、ご飯物の人気は割と高い。パンが高いと言う理由もあるが、ご飯は腹持ちが良いので、労働者や冒険者には受けが良い。
また、通常こう言う店は定休日を持たない所が多いのだが、リュートは週に1日は休みを取っている。これは料理の研究や関連施設の見回りの為だ。
実際、リュートの持つ調味料のレシピなどは耳の早い商会などが聞きつけて買いに来ていたりするのだが、リュート自身がまだ納得できていないので販売はもう少し先になるだろう。
安価な卵が手に入る事になってマヨネーズが作成できるようになった。今の所サラダにしか使って居ないが、タルタルソースが出来れば色々と使用頻度が高くなるだろう。今度ミックスフライ定食でも作ってみるか。
朝市には3日に一度くらいのペースで通って居る。リュートは気に入った素材があると買い占めるので客にも店主にも顔を覚えられてしまった。
海には週に1度のペースで通って居る。海の魚は卸が居ないので自分で獲るしかない。また、出汁に使う昆布も定期的に確保している。
ちなみに小魚の煮干しは味がイマイチだった。やはり、カツオ、サバ、トビウオに似た魚が欲しい所だ。
店は朝7~9時、夕方6~9時と言う2部制なので朝の9時から夕方の6時までは空いている。その間に仕込みなどもするが、リュートは良く商店街に顔を出す。
商店街で面白い食材が見つかるとメニューに加わったりする事が多い。
今日は肉屋でグレートボアが大量に入荷したらしい。
「グレートボアか。普通はどうやって食うんだ?」
「やはりステーキだろうな。グレートボアは若干固いが、味がしっかりしていて噛めば噛むほど旨味が出るぜ。」
「ふむ、若干固いのか?お年寄りでも食える位の固さか?」
「肉が締まってるからな。オークに比べると若干固いって程度だ。」
「解った。100キロ貰おう。」
「そうこなくちゃ。」
グレートボアの肉は100キロで銀貨3枚だった。かなりの高級肉だな。
若干固いってのが引っかかるが、あの料理法なら問題無いだろう。そうなるとソースが必要だな。
八百屋に行ってトマトと玉ねぎを大量購入した。
店に帰り、仕込みを始める。大量のトマトでトマトソースを作る。そこへとんかつソースを少しづつ加えて、デミグラスソースもどきを作る。赤ワインと調味料で味を調えて完成だ。
次にグレートボアの肉を粗目のひき肉にしていく。ミンサーが無いので包丁でひたすら叩く。
ひき肉が出来たら次は玉ねぎをみじん切りにして炒める。炒めなくても良いと言う人も居るが、俺は炒める派だ。玉ねぎが透き通って来たら一度ボールに上げて粗熱を取る。つなぎのパン粉は少なめにする。ヤギのミルクでパン粉を湿らせる。
準備はOKだ。この世界の住人は良く食うから普通は150グラム位で作るのだが、180グラムで形を作って行く。バットに並べて50個位作った。残ったタネはアイテムボックスに入れて置く。リロルが興味深そうに見てたので、1個焼いてみる。店が始まったら食べる時間が無いからな。
両面に綺麗な焼き目が付いたら。火を弱めて蓋をして蒸し焼きにして行く。竹串を刺して、濁った脂が出て来なければ完成だ。完成したハンバーグにフライドポテトを添えてソースをたっぷりとかける。
「これはハンバーグと言う料理だ。パンにもご飯にも合うぞ。今日はおにぎりにした。」
「食べて良いんですか?」
「ああ、賄いだから問題無い。おまけにこれも付けよう。」
そう言ってプリン改をだす。今回のはカラメルソース付きだ。
リロルは作る過程を見ていたので、グレートボアの肉だと言う事は解っている。それなのに一口食べて驚いた顔をした。
「これ?グレートボアですよね?こんなに柔らかくてジューシーでしたっけ?」
「味はどうだ?ちゃんとグレートボアの味が出てるか?」
「はい、とても美味しいです。」
「良かった。今日のおすすめは、これにしようと思う。おすすめを聞かれたら『グレートボアのハンバーグ』と答えてくれ。」
「解りました。でも半日だとあまり出ないかもしれませんね。夕方は呑みに来る客も多いし。」
「構わないさ、明日もお勧めにすればよい。」
「ところで、このプルプルのは販売しないのですか?」
「それは甘味だからね。食堂で甘味は売らないでしょ?」
「大将、まだ美味しい物隠してるでしょ?」
「隠している訳では無いんだよ、材料の問題で再現出来て無い物が多いんだ。」
これは本当だ。材料さえこの世界で揃えられれば作りたい物は沢山ある。
夕方からの営業でハンバーグは20個近く出た。常連さんが気にしていたので明日もおすすめで出しますよと言って置いた。
7時を過ぎるとエリシアたちがやって来る。最近の3人はここで食事を取る事が多い。思い思いのメニューを注文するスタイルが良いのだそうだ。最近ハマってる日本酒もあるしね。最後にプリン改を3人に出すと周りの常連が騒ぎ出す。
「これは商品じゃないんですよ。この子たちのデザートです。」
と言ったが金は払うと言う客が何人か居た。どうやら甘味に飢えているのは皆一緒の様だ。もう少し砂糖が量産出来たら、何か考えよう。
帰り際エリシアが後で話があると言って居た。何だろう?
9時まで営業して、店を閉める。リロルに明日も頼むよと言って別れる。家に入ると既にミントとシーネは寝てるそうだ。エリシアも寝てても良かったのに。
「で、話って何だ?」
「今日で冒険者を止める事にした。リュートには苦労を掛けるかもしれないが、暫くはのんびりするつもりだ。」
「良いと思うよ。お金はあるし、時間があれば俺が狩りに出るしね。」
「実はな、子が出来た様だ。」
「え?」
「まだ、調べた訳では無いが、多分間違いない。」
「避妊の魔法を掛けてたのでは?」
「あれは半年前から使ってない。」
この世界には避妊の魔法と言うのがある。これは冒険者が覚えるスキルの様な物で、他人や魔物に犯される危険のある女冒険者には必須の魔法だ。
「本当に本当?」
「本当に本当だ。」
「鑑定掛けても良い?」
「構わんぞ。」
エリシアに鑑定を掛ける。確かに状態が妊娠中になっている。
「本当だ。妊娠している。」
「だろう?20歳になる前に子供が欲しかったんだ。」
「そっか、おめでとう。」
「リュートは私に女の幸せを色々とくれた感謝してもし切れない。」
「はは、夫婦間で水臭いぞ。」
「しかし、2人して引退すると収入がかなり減るのでは無いか?」
「確かに1時的には減るが、10年位は遊んで暮らせるだけの蓄えはある。心配するな。それに俺の仕事も軌道に乗りつつあるしな。」
「それにミントとシーネをどうするか決めかねている。」
「あの2人もああ見えてSランクだ。俺は弟子を取らせたらどうかと考えている。」
「あの2人に弟子を?」
「ああ、弟子を取ると色々と判る事も多い。話してみたらどうだ?」
「そうだな、何時までも甘やかすばかりが師では無いか。」
と言う事で翌朝、3人で家の中であれこれと話し合いをした様だ。ミントとシーネは独立しこの近くに家を借りるそうだ。それから弟子を取る事も決めた様で有望そうな新人が居たら声を掛けると言って居た。まあ、これは後からエリシアから聞いたんだけどね。
俺は3人がまだ寝ている時間に朝市に来ていた。運よく卵売りが来ていたので全部買った。少し歩くとヤギの乳売りも居たので全部買う。
「毎朝来てるのか?」
「ああ、ヤギは毎日乳を搾らないと病気になるんだ。」
そういうものなのか?
更に歩いていると。チーズとヨーグルトの中間の様な物を売ってるのを見つけた。
「これは何に使うんだ?」
「これは酪と言って、パンに混ぜると美味いんだ。」
「ほう?ちなみにチーズは無いのか?」
「チーズと言うと粉にして肉に掛ける奴か?」
「良く解らんが多分それだ。」
「それなら家に帰ればあるぞ。」
「どの位ある?」
「100キロ近くはあると思うぞ。」
「全部買うから家に案内してくれないか?」
「構わんが40分くらい掛かるぞ。」
「問題無い。」
こうして俺はこの世界で初めてチーズを手に入れた。ヤギの乳のチーズだが若干癖がある物の色々な用途に使えそうだ。
この日、エリシアの懐妊記念として店の客全員にプリンを振舞った。




