第百二十八話
町の復興もだいぶ進み、町の人々も落ち着いて来た。俺は18歳になりエリシアは19歳になった。
ミントとシーネはSランクまで上り詰めていた。俺は正式に引退を表明したが、エリシアはまだ、冒険者としての地位は残してある。これは、俺が狩った獲物をギルドに売る時の為と、エリシアは暫くミントとシーネの面倒を見たいと言う2つの理由からだ。
店の準備は着々と進んでいる。当初は新しい家を購入する予定だったのだがエリシアがこの家を離れるのを嫌がるので、練習場だった広い庭に店舗を増築した。
実は隣の家も買い取り、そこは酒や味噌、醤油の醸造用に使って居る。味噌と醤油に関しては完璧では無い物のある程度満足のいく物が出来たので、商売を開始する運びとなった。
ライスウィードは人を雇い、畑を広げ、かなりの収穫高を上げている。まだ、町の全員を賄うまでには行ってないが、パンもそろそろ値段が下がってきているので、十分な量だと思って居る。
ここへ来て一つ問題が持ち上がった。それは砂糖だ。砂糖は貴重品、しかも、王都が壊滅したので更に値段が上がっている。みりんと出汁があればある程度はカバー出来るがやはり砂糖は必要だ。どうにかならないか考えている。
先日、丸1日かけて海へ行ってきた。フライを使って行ってみたのだが、砂浜が無く、断崖絶壁が延々と続いていたのに驚いた。昆布は簡単に採れた。問題は魚だが、日本の魚とは似ても似つかないものばかりで困った。とりあえず、鑑定で食べられる物を選んで数十種類捕まえて来て。家で試食パーティーを開いた。
エリシアたち3人には好評だったが、俺は困惑していた。なんか魚と言うより肉の味がするんだよね。とりあえず小魚を大量に採って来たのでこれで煮干しもどきを作る予定だ。昆布は干してある。
まあ、昆布とキノコだけでも初めは大丈夫だろう。最悪干し肉からだって出汁は取れるしね。
そんなわけで、最近の我が家は試食ラッシュである。3人と1匹が、凄い勢いで試食をしている。あれ?試食ってこういう感じだったか?
「店で出すメニューを決めるのが目的だからな。解ってるよな?」
「うるさい!」
いや、試食なんだけど?
「そう言えばギンガ。甘い植物って知らないか?」
「甘い植物?果物ではなく?」
「ああ、樹液が甘い木とか、根っこが甘い草とか、茎が甘い植物とか知らないか?」
「ふむ、ちょっと仲間に聞いてみよう。待っておれ。」
暫く待つと思っても居ない情報が手に入った。
「南の大陸に甘い大根があるそうだ。」
それってテンサイじゃね?砂糖大根だよね?
「そこに連れて行ってもらえるか?」
「構わんぞ。ただ、南の大陸は亜人、特に獣人が多いので気を付けろよ。」
「獣人って危険なのか?」
「危険では無いが、人族とは相性が良く無いな。なるべくなら接触するな。」
「解った、じゃあイメージを頼む。」
そう言うとギンガからイメージが送られてくるので転移する。最近では慣れたのか、エリシアたちは驚きもせず、試食に夢中だ。
転移した先は野原だった。
「こんな所にあるのか?」
「らしいぞ、辺りを鑑定してみろ。」
鑑定するとすぐにテンサイが見つかった。サイズは小ぶりだが、ニンジンと大根のハーフの様なフォルムは間違いない。
鑑定しまくって100本近くのテンサイを掘り、アイテムボックスに放り込んだ。
これをあちらの大陸でも栽培できれば面白いんだが、試す価値はあるはずだ。
幸い獣人に会わずに1時間位で家へ戻った。
あれ?テンサイって寒い所で取れるんじゃなかったかな?でも、南に行ったのに暑くなかったな、この世界の気候ってどうなってるんだ?
とりあえずライスの畑の近くに畑を開墾し。テンサイを植えてみた。種が欲しいからだ。このテンサイもこの世界では雑草扱いの様だから、上手くいけば早い段階で増やせるかもしれない。
家に帰り残りの半分のテンサイを魔法で圧縮して絞ってみた。汁が寸胴に半分程溜まったところで火を点けじっくりと煮詰めていく。
焦げ付かない様にヘラでかき混ぜながら煮詰めていくと徐々に甘い香りが立って来る。間違いなく砂糖の香りだ。本来ならここで結晶化させて分離するのだが、そんな器具は無いので、ろ過した液体を魔法で乾燥させてみた。
なんだろう、砂糖の板が出来た。舐めると甘いが雑味も多い。一度砂糖の板をお湯で溶かして、上澄みだけを乾燥させてみる。だいぶ雑味は消えたが、量がかなり減った。これは少し研究が必要だな。なるべく無駄にせずに砂糖を取り出す方法を考えねば。
研究と言えば、ラーメンだ。スープの再現は出来たのだが、麺が再現出来ていない。まあ、小麦粉が高いと言う理由もあるのだが、中華麺独特のコシを出すための『かん水』が手に入らないので代用品を探している。一番近いのが『灰』なのだが、これを使うと麺の見た目が悪くなる。
また、パスタはほぼ完成しているが、これも小麦粉の値段がネックになっていて暫くは出せない。
現状で商品になるのはライスと肉の組み合わせだ。丼物が多くなるが、それはそれでありだろう。
儲けは二の次だ。まずはライスの普及と調味料の周知だな。あと、卵料理も普及させたいがこれは「殺菌」の魔法を覚えないと危険だと言う事も知らせていかないといけない。
本来ならカレーライスを再現したいのだが、この世界でスパイスは高い上に種類が少ない。カレー風味の再現は出来たのだが、カレーライスの再現はまだまだ時間が掛かるだろう。
それから、ジャガイモから片栗粉を取り出す方法を覚えたので、小麦粉が少なくても唐揚げが作れるようになった。まあ、基本揚げ物に使う小麦粉は少ないのだが、片栗粉が入るとサクッとした食感が良い感じだ。問題はとんかつに使うパン粉なのだが、これもパン屋に交渉して古いパンを安価で譲って貰うと言う事で解決した。
他にも試験的に焼き魚を提供する事も考えている。この世界の住人は海の魚を食べた事が無い者が多いので、どう言う反応になるかは分からないが、エリシアたちを見る限りでは大丈夫だろう。それから、ウナギが居るのを発見したので、これも行く行くは出して行きたい。
そんな感じで、店が完成するのが近づくにつれ、あれも出したいこれも出したいとなり、店のメニューが決まらない。と言うか、この世界は識字率が低いのだから、メニューは無くても良いのかもしれない。今までに行った食堂にはメニューなんてなかったな。
メニューが無くても食堂は成り立つのか?考え始めるとキリが無いので聞くのが早いな。
こう言う時に俺はぶらりと商店街に行く。商店街では常連なのであちこちから声が掛かる。
「おう、兄ちゃん。店はどうだい?」
「店は形になったんだけど、メニューで迷っててね。食堂に行く時、おやっさんはどうやって食べる物を決める?」
「そうだな、基本『おすすめ』を聞くかな。で、美味そうならそれを、苦手なら何時もの奴だな。」
「ほう?ちなみに、おやっさんの何時ものって?」
「煮込みだな。」
そんな感じで何人かに聞き込みをしたが、似た様な答えだった。仕方が無いので食堂に偵察に行ってみた。
初めて入る食堂だ。
「いらっしゃいませ。」
若い娘さんが店員の様だ、この店の娘かもしれない。
「始めて来たんだが、メニューってある?」
壁を見てもテーブルの上を見てもメニューらしきものが無かったので聞いてみた。
「特に決まったメニューはありませんね。おすすめか、あとは定番の物になります。」
「今日のおすすめって何?」
「今日のおすすめはオーク肉のハーブ焼きですね。」
お、ハーブだいぶ普及してるみたいだな。
「じゃあ、それを5人前と、定番メニューを一通り貰おうかな。」
「え?お一人ですよね?」
「いや、持って帰って家族で食べるんだ。アイテムボックス持ちだから熱いまま持ち帰れるしね。」
そう言うと店員さんは納得したように頷いた。
少し待つと料理がやって来るので、どんどんアイテムボックスに仕舞って行く。20分程でこれで最後です、と最後の皿を持って来た。全部で25皿位だ。と言う事は定番メニューが20品あると言う事になる。清算してもらうと銀貨1枚と大銅貨2枚だった。
家に帰って調べてみると焼き物と煮物が半々だった。味は塩味が多い。素材は基本肉だな。もっと野菜摂ろうよ。
こうなると俺の店にはメニューが必要だと分かる。でも客は字が読めない、どうする?写真は不味い。暫くはおすすめで浸透するのを待つか?
開店前に試食会をやるかな。




