第百二十二話
どうやら異次元マジックバッグは持つ者の魔力量によって容量が変わる様だ。試しにシーネに使わせたら小さな物なら入った。
実質膨大な魔力量を持つリュート専用になりそうだ。
宇宙空間に飛ばすにしても転移は魔力量をかなり消費する。この異次元マジックバッグは魔力量が多ければ魔力そのものは消費しない。どちらが便利かと言われれば後者なのだが、まだ、邪神の子に試していないので、有用性は保留だ。
今日はエリシアたち3人は稽古らしいので、俺は森に行ってみようと思う。魔物が大挙して現れた南西の森が気になったからだ。
陽動だとしても、何故南西の森だったのかが気になる、あそこに何があるんだ?
森を分け入り奥へと進むが、討伐隊の活躍が功を奏したのか魔物の数は少ない。強力な魔物も滅多に出ない。
もうすぐ最深部と言う場所でサーチにかなりの大きさの反応があった。しかし大きさの割に反応が弱い。
何が起こっている?そう思いながらそちらへと向かう。徐々に反応に近づくと巨大な白い魔物が寝ていた。寝ているから反応が弱かったのか?
このまま退治してしまおうか、と思ったら。魔物がこちらを向いた。寝ていたのでは無いのか?
よく見てみると体中が傷だらけだ。どう言う事だ、見るからに強そうな魔物が瀕死の重傷を負っている。銀色の体毛は血と泥で汚れている。息も絶え絶えだ。
何にやられたのか気になったので近くに寄ってみる。近くによっても魔物は反撃する力も残っていない様だ。
しかし、何の魔物だろう?見た事が無い魔物だ。狼系の魔物に見えるが、体毛が銀色だ、グレートウルフと言う魔物は居るが、体毛は灰色だったはずだ。シルバーウルフと言うのは聞いた事が無い。それに狼系にしては体躯が大きすぎる。
近寄って傷口を見るが、これは牙か?ドラゴンとでも戦ったのか?それとも邪神の子?しかし、魔物がドラゴンや邪神の子に逆らう事は考えられない。
「人の子よ。何をしている。」
喋った。魔物が喋れるのか?エンシェントドラゴンは数千年を生きるうちに人間の言語を覚えると聞いたが、この魔物は何だ?
「人語を理解できるのか?」
「かれこれ5千年以上は生きているからな。」
「魔物では無いのか?」
「我はフェンリル。神獣と呼ばれる種族だ。」
「その神獣が何で死にかけているんだ?」
「邪神の影響だな。我ら神獣は世界の魔物の均衡を保つのが仕事だ。増えすぎた魔物や強すぎる魔物を狩って、バランスを維持する。しかし邪神の影響で魔物が強くなり過ぎて狩るのも一苦労だ。しかも邪神の子が現れた。我には止められなかった。」
「ここにも邪神の子が現れたのか?」
「ああ、昨日の夜中の事だ。そうだ人の子よ。この近くに町があるなら、知らせて避難するが良い。」
「お前はどうするんだ?」
「再生が効かない。多分我は一度死ぬだろう。新たな命を貰いまた神獣として世界の均衡を保つさ。」
「ちなみに新たな命を貰ってどの位で神獣の力を取り戻すんだ?」
「300年位かな。」
「待てないな。」
そう言ってパーフェクトヒールをフェンリルに掛ける。
「ほう?人の子にしては強力な魔力だ。しかし、それでは我は治せんぞ。」
「いや、今のは一時的な回復だ。これを飲め。」
そう言って上級エリクサーの蓋を開けて青い液体をフェンリルの口の中に流し込んだ。
「これはエリクサー。お前何者だ?」
フェンリルがむくっと起き上がった。
「神様にはちょっと恩があってね。神獣と聞いては放っておけない。」
「お前、使徒か?」
「そんな大層な物じゃないよ。」
「しかし、その膨大な魔力。ただの人間ではあるまい。」
「ああ、一度亜神になって地上に落とされたからな。」
「ほう?そう言う事か。」
ん?この神獣何か知っているのか?
「邪神の子と対峙した事は?」
「1匹は倒した。1匹は追い払った。」
「そうか。なら我は其方に助力しよう。」
「どう言う事だ?」
「命を救われた。礼をしなければならんだろう?我は其方の力になれると思うぞ。」
神獣フェンリルを味方に出来るのは心強いがでかすぎない?
「ちなみに小さくなったり出来るのか?」
「可能だ。これで良いか?」
するとフェンリルがみるみる小さくなって子犬位の大きさになった。
「もっと小さくもなれるぞ。」
「いや、その位で十分だ。俺の従魔になるって事で良いのか?」
「我は魔物では無い。僕と呼んでくれ。」
「で、どう役に立つんだ?」
「我は邪神の子の波動を感知できる。何処に邪神の子が現れ、それがどの程度の影響をもたらすか、事前に察知出来るぞ。」
「それは、便利だな。気に入ったよ。是非力を貸してくれ。」
「では、名前を付けてくれんか?それで主従の契約となる。」
「そうだな、銀色の狼、牙、シルバーファング、いや『ギンガ』にしよう。俺の国の言葉で銀の牙と言う意味だ。」
「ほう?強そうな名前だな気に入った。我は今日から『ギンガ』だ。よろしく頼むぞ主。」
「ちなみにフェンリルって何を食うんだ?」
「魔素があれば数百年は食事をしなくても生きられるが、美味い物は好きだぞ。基本人が食えるものなら何でも食える。」
おれはギンガを肩に乗せ家に転移した。
「転移魔法まで使うとは、主はやはり使徒?」
「おいおい、人前では喋るなよ。」
(では、直接脳に語り掛けよう、これなら良いだろう?)
「うわっ。そんな事も出来るのか、神獣すげぇな。」
ギンガを連れて家に入ると大変だった。可愛い子犬に3人の女の子たちが喰いついて離れないのだ。ギンガの取り合いで大騒ぎだ。
「おいおい、そんなに乱暴に扱ったらギンガが可哀そうだろう。もっと優しく扱えよ。」
「この子はギンガと言うのか?うちで飼うのか?」
「まあ、そうなるな。可愛がるのは良いが、構い過ぎるなよ。」
「解ったのだ。」
翌日からギンガを連れて狩りに出る事が多くなった。家に居るとギンガと話が出来ないからだ。
「なぁ、ギンガ。今までに邪神の子って何体くらい現れたんだ?」
「世界中に我の仲間が居る。その中で神獣にまで進化した者は25匹。この25匹は念話で会話が出来る。その情報網にかかった数が12匹だ。」
「もう、そんなに現れているのか?人類の数はどうだ?どれだけやられた?」
「この世界には亜人も含めて15億の人類がいる。死者は90万人と言った所だな。」
「既にそんなに犠牲者が出ているのか。あと5か月弱。邪神の子はまだまだ増えるし強くなる。何とかしないとな。」
「何とかなるのか?」
「一応対抗策は幾つか持っている。」
「ギンガが邪神の子の波動を感じたら、そこへ飛びたいのだが、念話で場所のイメージって送れるのか?」
「うむ、可能だぞ。」
「じゃあ、ここから一番近い邪神の子の所へ行ってみたい。行けるか?」
「ちょっと待ってろ。」
ギンガが目をつぶって何やら探っている。
「行けるぞ。今からイメージを送る。飛んでみろ。」
そう言うとリュートの頭の中に膨大なデータが流れ込んで来る。これは地図と座標データ。そのデータを賢者の叡智で解析する。更に映像データも送られてくる。
「この場所か?」
「そうだ。飛べ!」
リュートは思い切って転移を発動する。
次の瞬間イメージした場所に出る。成功だ。
「邪神の子は、こっちか!」
リュートのサーチの大きな反応がある。フライで上から探索するとすぐに見つかる。ん?合成タイプじゃないぞ。なんと言うか形は歪だがツギハギでは無い。人型?
「初めて見るタイプだな。」
「情報によると奴は再生能力に長けているそうだ。どう倒す?」
「倒さないよ。邪神の子は倒すと次に更に強力な奴が生まれるんだ。だから倒さずに封印する。」
「ほう?その情報は初耳だ。仲間と共有して置こう。」
リュートは空中から魔法を重ね掛けして邪神の子を凍結させる。
もしかしたらこれで死んでいるかもしれないが、死んでいないと仮定した方が良いだろう。異次元マジックバッグに収納する。
「これで2度と地上には出て来れない。」
「我があれほど苦戦した邪神の子を呆気なく。やはり使徒?」
「だから違うって。」
そう言いながら我が家に転移する。




