第百十九話
王都陥落から1週間、他の街の情報は届いていない。他の街には現れていないのか、あるいは全滅して情報が来ないだけなのか、それともこの大陸とは違う場所に出たのか、とにかく情報が少なすぎる。
王都に出た邪神の子の特徴なども何も詳細が伝わってこない。
リュートは急ぎ邪神の子対策を考えている。まだユーリだった頃、王都の図書館で古代語で書かれた赤い本を読んだ事がある。失われた古代魔法の本だ。その中には帝級や神級の魔法もあったはずだ。
賢者の叡智を駆使して探してみる。どうやら時空魔法の本らしい。今では空間魔法と言われている物だ。
基本空間魔法に攻撃魔法は無い。だが1つだけ『時空斬』と言う魔法がある。これは空間ごと相手を切り裂き、異空間に敵を飛ばすと言う物だ。退治と言うよりは撃退の意味合いが強い魔法だが、これは使えそうだ。1時的にでも邪神の子を異空間に追いやれればかなりの時間が稼げるのではないだろうか?
リュートは創造魔法でこの『時空斬』を会得するのであった。
万全では無いが、戦う準備は出来た。後は戦いの中で見つければ良いとリュートは考える。
問題は邪神の子が何時何処に現れるのか判らない事だ。リュートの索敵範囲はおよそ10キロ程度。この国どころか町が精一杯である。何か邪神の子が生まれる前兆でもあれば良いのだが、今の所それすらも分かっていない。
このまま待つしか方法は無いのだろうか?神様には人類の存亡を任せると言われた。この大陸だけが人類ではない。他の大陸や亜人達も含めての人類だろう。今も何処かで誰かが邪神の子の餌食になっているかもしれない。それなのに自分はここから動く事さえ出来ていない。
フライや転移を駆使すれば多少は行動範囲を広げられるだろうしかし、それは焼け石に水な気がする。正確な世界地図でもあれば何か出来そうな気がするのだが、この世界にそれは求められない。
リュートが悩んでいるうちに時間だけがどんどん過ぎて行く。詳細を知らない冒険者やギルドはこの事態に対応すべく動いている。なのに一番知っているリュートが動けない。
それから2週間ほど経ったある日のことだ。Aランクの冒険者が北西の森で得体のしれない魔物を見たと言う情報をギルドに持ち帰った。
Sランクを中心とした討伐隊が組織されるそうだ。リュートは討伐隊より先にその魔物を見たいとギルドマスターに進言した。
「理由は?」
「それが邪神の子ならSランクが束になっても勝てません。出来れば討伐ではなく防衛に専念して欲しいのですが、無理ですよね?」
「無理では無いぞ、君に何かアイデアがあるのならSランカーを防衛に回しても良い。」
「では、お願いできますか?時空魔法で魔物を異空間に閉じ込めようと考えています。」
「成功の確率は?」
「五分五分と言った所ですね。」
「解った君の作戦に乗ろう。こちらとしても無闇に冒険者を消耗したくないからな。」
「助かります。」
リュートは急ぎ北西の森へ向かう。転移で近くまで飛んでフライで目撃地点まで飛んで、そこからサーチで魔物を探す。
20分程サーチを掛けて飛んでいると、ひときわ大きい魔物の気配がサーチにかかる。ドラゴンよりでかい。
その魔物は現在動きを止めている様だ。リュートは気付かれない様に魔物の姿を見る為近づいて行く。
徐々に近づいて行くとその魔力量の大きさに驚かされるが、ドラゴンの様な威圧感は無い。
どうする?エンシェントドラゴンの時の様に何もさせずに凍らせてみるか?
この状態ならばエンシェントドラゴンと同等位に見える。そう言えばエンシェントドラゴンは1匹で王都を滅亡させると言われていた。
邪神の子がエンシェントドラゴンと同等なら勝ち目はある。だが、現在の状況が普通とは限らない。もしくは邪神の子になり切っていないと言う事も考えられる。
更に近づくと姿が見えて来る。禍々しい姿だ。キメラだったかキマイラだったか忘れたが複数の魔物を合わせた様な姿をしている。
だが不思議だ、あれほど恐れていた邪神の子なのに実際こうして見てみると怖くない。恐怖に感覚がマヒしたのか?それともこの魔物がまだ覚醒していない?
こうなったらやるしかない。フライで飛び上がり魔物の後ろを取る。プロテクトと魔法障壁を重ね掛けして魔物を閉じ込める。障壁をぎゅっと縮小して動けなくしたら永久凍土の魔法を掛ける。
2~3分様子を見る。プロテクトと魔法障壁を解除する。魔物は凍ったままだ。アイテムボックスに仕舞おうとしたら入らなかった。
この状態で生きている?だが動きが止められることは解った。一つ収穫だ。
止めを刺さないとならないが、どうする?ここで時空斬を試して置こう。いざとなった時に役に立たないのでしょうがない。
時空斬と頭の中で唱えると、目の前の空間が魔物事ズレる。まさに空間を切ったのだ。切れた魔物の半身が亜空間へ引っ張られて行く、残りの半分はリュートがアイテムボックスに仕舞った。今度は入った。
どうやら邪神の子を1体は倒せたようだ、ただ、今回は運が良かっただけかもしれない。明確に敵意も無かったし、攻撃もして来なかった。
だが時空斬が有効なのは一筋の光明かもしれない。また、永久凍土で足止めが可能なのも大きい。全く歯が立たない訳では無いらしい。
ギルドに戻り、退治した事を伝えるとギルドマスターが安堵した顔になった。
アイテムボックス内で解凍した魔物をギルドの表に出す。こうしてみるとかなりでかい。半身だがドラゴンと同じくらいのサイズがある。
「これは、凄いな。見た事が無い魔物だ。」
「でも、王都を襲った物と同じとは限りませんよ。警戒は続けて下さい。」
「解った。しかし、このクラスが何匹も出る様じゃこの世の終わりも近いかもな。」
まさに人類滅亡の危機なんですけど、言えないよなぁ。
「ちなみに半分はどうした?」
「ああ、異空間に飲み込まれました。俺の空間魔法です。」
「この町にお前が居てくれて助かったよ。」
心なしかギルドマスターが呆れ気味なのは気のせいか?
その後、冒険者やギルド職員が入れ代わり立ち代わり魔物を見に来るので魔物の死体はギルドに寄付した。どうせ素材にもならないし、買取も不可だろうしね。
さて、帰ろうかと後ろを振り向くと、エリシアたちが居た。
「無茶はするな。」
短い言葉でエリシアが激励をくれる。
「今回は勝てる相手だったから戦ったが勝てない相手なら逃げるよ。エリシアたちも相手を見て勝てないと思ったら逃げるんだぞ。」
皆が頷いている。
「よし良い子だ。腹が減ったから何かおごってやろう。」
馴染みの食堂に行って大いに食べた。久しぶりに大きな魔法を使ったので精神的にかなり疲労している様だ。
アルコールを飲むと寝てしまいそうなのでエールを一杯だけ飲んだ。そう言えば最近エールが美味く感じる。俺もこの世界に馴染んできているのかな?
そう言えば馴染むって言う事を考えていなかった。ユーリの時は現代日本と同じ暮らしをしようとばかり考えていたな。この辺も亜神になった一因かもしれない。覚えて置こう。
家に帰り反省会の様な物をした。と言うか3人に一方的に怒られた。今後の方針として俺の単独行動は無理を通させてもらった。俺なら邪神の子に対抗できると今日の討伐で判った様だ。エリシアたちもそこは否定しなかった。
問題はエリシアたちだ。正直今の3人ではアレには勝てない。見つけたらすぐに逃げて俺に知らせろと言い含める。
3人は納得のいかない様な顔ではいと返事をした。
ようやく邪神の子を1匹討伐した。まだ、5か月以上時間がある。あと何匹現れるか何処に現れるかも判らない。この状況を早く打破しないと死者が増えるばかりだ。今回は幸い死者を出さずに済んだが、次回も同じように行くとは限らない。
どうしても目に入る範囲の人間に感情移入してしまう。正直王都で40万人死んだと言われても実感が湧かないが、知り合いが死ねば落ち込むだろう。この世界にいる亜人まで目が行かない。こんな自己中心的な俺に人類の命運をかけた神様は何を考えているのだろう?




