第百九話
明日は朝食を食べたらすぐに出発すると言うので、夕食後、荷造りをした。荷造りと言ってもアイテムボックスがあるので確認作業の様な物だ。
「領都までは2日半の行程だそうですが、魔物は出るのでしょうか?」
「基本出ると考えた方が良いな。行商人も護衛を必ず雇うし、盗賊が出る可能性もある。」
「盗賊ですか?」
「盗賊と言っても食い詰めた農民の集団だがな。」
それはそれで嫌だな。悪党なら殺しても罪悪感は少ないが、農民って一般人じゃん。
「君は人を殺した経験が無いのか?」
「いや、それも判らないんですよ。」
「ああ、記憶喪失だったな。厄介だな。」
「そうですね。いっその事記憶が戻らない方が良いのかもしれません。」
「確かにレベルやスキルの事を考えると只者じゃ無さそうだしな。」
ん~、それは心当たりがあり過ぎるんですけどね。でもなるべく早く元の大陸に戻りたい気持ちはあるんだよね。だが、この姿で戻って何が出来るんだろうか?
「明日は早い、早めに寝るぞ。」
「解りました。」
ベッドに入るがやはり考え事をしてしまいなかなか眠れなかった。
翌朝、寝不足なのに6時に起きてしまう。習慣とは恐ろしい。エリシアを起こしては申し訳ないのでベッドの中で考え事の続きだ。
今頃王都はどうなっているだろう?ユーカとイルミは?商会は?考えれば考える程最悪の事態を想像してしまう。問題はユーリが既にこの世に居ない事だ。今の自分はリュートだし、何か干渉してユーリが生きていると思われては不味い。こんな時の為に情報を知る手段を作って置かなかったのは不味かったな。
7時になるとエリシアが目を覚ます。2人にクリーンの魔法を掛け、ベッドにもそれぞれ掛けて置く。着替えをして、忘れ物が無いことを確認してから下へ降りる。まだ早い時間だが、それなりの人数が食事をしている。この宿最後の朝食を取り、おばちゃんに礼を言って宿を後にする。
「さて、行くとしようか?」
「ちなみに歩いて行くんですか?」
「うむ。乗合馬車もあるが、それだと君が色々と不都合だろう?」
一応は考えている様だ。
「乗合馬車なんて物があるんですね?」
「ああ、冒険者が護衛に着くので安全だが、その分スペースが狭くてな窮屈なんだよ。」
「なるほど、荷物とかもありますしね。」
「その通りだ。商人の護衛依頼を受けると言う手もあるが、これも善し悪しだ。荷物が無い我々には恩恵が少ない。襲われる危険性も増えるしな。」
そう言えば、エリシアがBランクなので忘れていたがDランク以上は護衛依頼が儲かるって受付嬢が言ってたな。
「解りました。では出発しましょう。」
領都サームは西にある街道をひたすら西に進めば辿り着くそうだ。なので西門を潜る。
門を出て暫くは穀倉地帯だ。この辺には魔物は滅多に出ない。2時間程歩くと風景が変わる。ここからは森を切り開いた街道で魔物も少しずつ多くなるそうだ。
「一旦、ここで休憩を取ろう。急ぐ旅でも無いしな。」
「そうですね。ちなみにこの街道沿いに村はあるんですか?」
「そうだな、街道を少し入った場所に2つほど村はあるが、宿屋などは無いぞ。」
「そうですか。ちなみに野営ってどんな場所でするんですか?」
「全く君は本当に冒険者なのか疑う様な質問ばかりするな。いっその事領都の冒険者学校へ通うか?野営は誰か別の冒険者が野営をした跡を利用する。これは距離と安全性の2面で利点がある。別の冒険者が野営をしたと言う事は、距離的にその冒険者の速度で1日分歩いたと言う証拠だ。また、野営の跡が残っていると言う事は魔物に襲われなかったことを意味する。」
なるほど、結構合理的に考えてあるんだな。冒険者によって歩く速度は違う訳だが、何人もが野営をした跡ならそれが適切な速度と距離になると言う事か。
「エリシアが居なかったら僕は死んでいたかもね。」
「ふむ、所でワインは冷やすと美味いのか?」
「赤は冷やさない方が美味いですね。白は冷やした方が美味いです。」
「ん~、なんでそんな知識ばかり詳しいのか。」
エリシアに呆れられた。
15分程休憩を取り、再度歩き出す。ここからはサーチを使う。まだ小動物の気配が多いので魔物は出ない様だ。
少し歩くと対面から馬車が来たので道を譲る。護衛の冒険者が手を上げたのでこちらも手を上げて挨拶をする。
更に2時間程歩いたが魔物は出なかった。気配は幾つかあったが、こちらに向かって来るものは無いと言う意味だ。
「さて、ここらで昼の休憩にしよう。何か軽い物を食べて置くか?」
エリシアはどうやら時間ではなく、前の冒険者の痕跡を見て、休憩時間を判断している様だ。この場所は他の街道より若干道幅が広くなっており、周囲が良く見渡せる。地面にシートの様な物を1枚敷き、そこに座る。
「軽食は用意してなかったので肉串で良いですか?」
「うむ、構わんぞ。あと冷たい水を一杯くれ。」
熱々の肉串と冷たい水を渡すとエリシアは警戒を緩めずに胃に収める。リュートも真似をする。
「水の心配をしなくて良いのは冒険者にとっては大きいぞ。それだけで何処のパーティーからも優遇される。」
「あれ?生活魔法って無いんですか?」
「生活魔法はクリーンと種火、そして灯りの魔法の3つだ。水を出すのは属性魔法の水魔法だな。」
ん?確か元の王国ではクリーンと着火と少量の水だった気がする。灯りの魔法はライトで光属性だったはず。
「やはり、冒険者学校で基礎を学んだ方が良いぞ。」
「考えて置きます。」
30分ほど休んでから出発する。相変わらず魔物の気配はあるが、襲っては来ない。エリシアさんの醸し出す空気が魔物除けになっているのかな?
少し歩くとエリシアが右手を指さす。どうやら野営の跡地らしい。
「なるほど、これが野営の跡ですか?」
「そうだ、これは方向が逆だがな。」
方向が逆?ああ、領都から町へ向かう冒険者と言う意味か。
「野営の跡があるって事はこの辺はあまり魔物が出ないって事ですか?」
「一概にそうとは言えない。魔物はテリトリーがあるが、そのテリトリーが異様に広い物も居る。そう言った魔物のせいで魔物の分布が変わる事はよくある事だ。」
魔物の分布か?そう言った事は考えた事が無かったな。
「とは言え、この辺の魔物は一定期間ごとに討伐されている。人間を恐れる魔物も多い。本格的に危険なのは2日目だと考えて良いだろう。」
エリシアの言う通りその日は魔物と遭遇しなかった。夕刻が近づいて来た頃、適当な野営跡を見つけ、そこで今日は野営する事になった。
「テントと毛布は1組で良いぞ。」
「え?」
「野営中は必ずどちらかが起きて見張りをしなければならない。だから、寝るのは常に1人だからな。」
「そっか。じゃあ、なんでテントを2つ買ったんですか?」
「1つは予備だよ。君のマジックバッグが大きかったからな。それから、私を襲うのは暗い内は我慢してくれ。明るくなってからなら構わん。」
「だから、襲いませんって!」
「そうなのか?つまらんな。」
どこまで本気なんだろうこの人。
「じゃあ、まず夕食にしよう。そのあと先に私が寝る。4時間経ったら起こしてくれ。それでよいか?」
「4時間ですか?」
「そうだ、交互に寝るから睡眠時間が短くなる。なので4時間ずつキッチリ眠る。そうしないと明日がきつくなる。」
「解りました。」
出来立ての食事をマジックバッグから出すと。冷えたエールを要求された。この世界の人ってエールは水みたいな物って考えなのかな?
見張り中に魔物が出たらすぐに起こすようにと注意を受けながら食事タイム。食後に温かい紅茶を飲んでから。エリシアはテントへ僕は焚火の横に腰を下ろす。
サーチを掛けているが、今の所何も反応は無い。時間つぶしに冒険者ギルドで借りてコピーした本を読む。今日は魔法書だ。基本的な所は変わらないが、向こうの王国の本とは若干違う部分もある。大陸によって魔法の進化も多少違うのかもしれない。これは領都に着いたら図書館に行かないと。
4時間後エリシアと見張りを交代する。緊張していたのか、すぐに眠りに就いた。
10時にエリシアが寝て4時間で2時、交代してリュートが4時間寝て6時。
こんな時でも6時に目が覚めるリュート、エリシアが起こすより早く目が覚めてしまった。
「ん?もう起きたのか?まだ寝ていても良かったのだが。」
「そう言う訳には行きませんよ。キッチリ4時間って約束ですからね。」
「律義だな。ところで明るくなったから襲っても良いぞ。」
「いや、往来で朝から女性を襲う勇気はありません。」
「この時間に人は通らんぞ。」
そう言う問題では無いと思う。




