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第百話

 『聞く物語』第3弾は好評を博している。第2弾から発売まで期間が空いたので娯楽に飢えた客たちは争う様に購入して行く。来週には第4弾が発売される事も既に告知済みだ。月に2本は少ないのかもしれない。4弾まで毎週出してから月2本にすると言う方法でも良かったかも。


 一方で『冷えた飲み物』もだいぶ浸透して来ている。やはりビールの売り上げが一番高い。一度キンキンに冷えたラガーを味わうとぬるいエールには戻れなくなるのだろう。また、ソフトドリンクしか販売していない雑貨屋イルミでもそこそこの売り上げを見せている。一番人気はコーラだ。小説や聞く物語のお供にとコーラとポテチの組み合わせを店員が勧めている。


 バート商会のメンバーは相変わらず毎日雑談しながら新製品を考えたり、『聞く物語』の売り上げに歓声を上げたりと忙しい。


 そんな中ユーリは14歳の誕生日を迎えた。


 『聞く物語』第4弾も発売間近だ。世間の反応が楽しみだ。


 今、ユーリはベッドに横になっている。寝る時間では無いがこうすると考えが色々とまとまるので時間があるとこうしている。


 今度のアイデアは流通の魔道具だ。これはゲートの魔法を人間が通れない大きさで作り。マジックバッグだけを行き来させようと言う考えだ。マジックバッグの大きさにもよるが、実現すれば流通に革命を起こせる。例えば王都と遠く離れた町に魔道具を設置すれば、砂糖などをマジックバッグに入れて1瞬で遠くの街に送れる。こうする事で王都と地方の値段の格差を変えようと言うのがユーリの目的だ。また、新製品の発売を王国一斉発売にする事も可能だ。


 イメージは筒だ。人が通れないと言う事を考えると高さは15センチ。幅はマジックバッグを入れるだけなので1メートルにして置く。奥行きは20センチもあれば良いだろう。これを1対作ってゲートの魔法で繋ぐ。この魔道具と通信の魔道具があれば、好きな時にマジックバッグの交換が出来る。まさに流通の革命だろう。


 ユーリはポストをイメージして流通の魔道具の形を作って行く。材質はステンレスを選択した。


 そしてゲートの魔法を付与した時。それは起きた。


 魔法の暴走?初めはそう思った。しかし、ユーリの魔法制御は完璧だ暴走などありえない。ではこの現象は?何故か体のあちこちが発光している気もする。


 不思議に思って居るとなんだか気が遠くなるような感覚がユーリを襲う。頑張って意識を保とうとするがあらがえない。


 次の瞬間ユーリは白い部屋で目を覚ます。


「ここは。神様の?」


「そうです。あなたは創造魔法を使い過ぎました。」


「そ、それって、神になってしまうと言う?」


「状態はもっと悪いです。あなたは亜神になってしまいました。」


「亜神ですか?」


「そうです、亜神はいわば神のなりそこない。理性を失い善悪の区別を無くします。あなたがあの国を滅ぼす前にここへ引き上げました。」


「今は、なんともないようですが?」


「今のあなたは魂だけですからね。」


「僕は死んだと言う事ですか?」


「そうですね。ユーライナ・グレイソルと言う人間は死にました。」


「そんな・・・戻る方法は無いんですか?」


 神様はゆっくりと顔を横に振る。


「創造魔法は神の魔法です。使い過ぎれば神になると忠告したはずです。私でさえ数百年に1度使うか使わないかの魔法を規模は小さいとは言え、ほぼ毎日の様に使って居れば、この日が来るのは時間の問題だとあなたの知能なら理解できたはずです。何故気が付かなかったのですか?」


「それは・・・」


「私はあなたに文明を底上げして欲しいと願いました。しかし、あなたがした事は元の世界から文明を持ち込んだだけではありませんか?何処で勘違いをしたのでしょう?また、自由に生きろとも言いました。自由に生きるとは何にも縛られないと言う事です。なのにあなたはお金に縛られ、権力に縛られ、国に縛られました。あなたは自由にして来たと思って居るかもしれませんが、それは自由ではなく勝手気ままと言う奴ですね。」


「僕がやって来た事は全てが無駄だったと?」


「そうですねぇ。あなたが居なくなった王都がどうなるか考えた事がありますか?」


「僕が居なくなった王都?」


「そうです。あなたに依存して来た者、あなたに頼り切っていた物資。あなたが独占していた物、あなたが突然いなくなったらそれらがどうなるか想像力を働かせた事はありますか?」


 神様の一言一言がユーリの精神を抉り、突き刺さった。


「僕は・・・」


「あなたは何時間違ったのでしょう?何時勘違いをしたのでしょう?」


「神様は何故止めて下さらなかったのですか?」


「私は基本的には人間界に干渉できません。今回はあなたが亜神になったので手を出しましたが、私に出来るのは基本見守る事だけです。」


「僕はどうなるのでしょう?」


「通常なら魂を浄化してこの世界の輪廻の輪に戻します。」


「通常なら?」


「あなたにもう一度だけチャンスを与えようと思います。あなたが亜神になった原因は私の言葉にもあると考え、あなたに考える時間を与えます。」


「考える時間?」


「そうです。あなたは2つの大きな間違いを犯しました。それは何なのか。どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのか。これらをじっくりと考えて下さい。文字通り生まれ変わって。」


「え?」


「丁度今、消えかかっている命があります。その魂とあなたの魂を入れ替えましょう。あなたなら死にかけていても何とかなるでしょう。ただ、魔力量は大幅に削減させて頂きます。亜神になった原因でもありますしね。それ以外のステータスや創造魔法で作った魔法はあえてそのままにして置きます。そうですね、魔力量は3000あれば生きて行けるでしょう。」


「生き返れるなら何でも構いません。」


「さあ、時間がありません。命が消えるまであと数分です。急ぎましょう。」


 そう言って神様がユーリの魂に手をかざすと、ユーリの魂は光の玉となり、地上へと飛んで行く。いや、落ちて行くと表現した方が正しいだろうか。


 十数秒後地上に近づくがユーリからは何も見えない。そして、一人の人物に光の玉は吸い込まれる。


 次の瞬間ユーリは胸に激しい激痛を覚えるのであった。


「何が起こってる?これは心筋梗塞か?」


 どうやらユーリは自分が何者かの体に入り込んだ事は理解したが、あまりの激痛に気を抜くと失神しそうだ。


「こういう時はパーフェクトヒール!」


 そう言ってパーフェクトヒールとを唱えるが発動しない。魔力量が足りないのだ。


「駄目か、ハイヒール!」


 ハイヒールを掛けると少しだけ楽になる。しかし、心臓の痛みは消えない。このままでは数分持たずに死んでしまうだろう。リカバリーを掛けてみるが、これは状態異常回復なので心筋梗塞には効かない。


 どうすれば良いと頭をフル回転させるが、魔力量3000では解決法が見当たらない。このまま死ぬのか?そう考えた時、何故かチェスカさんの顔がチラついた。なんでこんな時にと思った時、アレを思い出した。


 アイテムボックスに手を入れる、どうやらアイテムボックスは使えるらしい。目的の物はすぐに見つかった。透明な瓶を取り出し青い薬を飲み干す。


 ユーリの体が若干青白くうっすらと発光する。徐々に痛みが引いて行く。痛みが消えると発光も収まる。


「これがエリクサーの効果か。」


 一息ついてから周りを見渡すと、木々が多い。どうやら何処かの街道らしいが、どちらの方向へ行けば町が近いのか判らない。


 って言うかなんでこの人こんな所で倒れてたんだ?アイテムボックスから手鏡を出し自分の姿形を確認する。


 本来のユーリはどちらかと言うと線の細い方で、身長も14歳にしては低目だ。対して今の体は浅黒く焼けていて、肉体労働者を思わせる。体格もがっしりしている。年齢は判らないが、多分成人したて位だろう。服装から行くと冒険者かもしれない。


 冒険者ならギルドカードを持ってるはずだ。ユーリは自分の体をあちこち触って持ち物を確認して行く。武器らしいものは持っていない。魔法使いって感じでもないし、何をしてた人だろう?腰に剥ぎ取り用のナイフがあった。かなり使い込まれている。他には何も持っていない様だ。ふと首を触るとチェーンの感触。引っ張り出すとギルドカードが出て来た。


 カードには名前とランクしか書かれていない。『リュート』と言うのがこの人の名前らしい。冒険者ランクはEだ。魔力を流してみたが、何も反応しない。得られた情報はこれだけだ。


 ユーリはこれからリュートとして生きて行かなければならない。ユーリと言う名前は封印だ。それから、暫くは創造魔法も封印しよう。物質実体化も危険だな。まあ、魔力量3000では使える魔法は限定するだろうから、それほど意識しなくても問題は無いだろう。多分神様もその辺を考慮して魔力量を3000にしたのだろう。


 とりあえずの問題は、ここが何処かと言う事だ。

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