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世界の始まりの終わり  作者: ロッドユール
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 何とか落ちた溝から這い出し、再び歩き始めた僕は海に出た。

「これが海・・・、なのか・・」

 ヘドロとゴミの浮いた濁った海しか見たことがなかった。それが当たり前だと思っていた。海岸沿いには、化学工場や、企業の大型倉庫が乱立し、岸部はコンクリートで完全に塗り固められ要塞化した、そんな海しか僕は知らなかった。

 しかし、今、目の前に広がっている海は、輝いていた。ただ輝いているのではない。それは生きていた。広大な海がその圧倒的存在全体で鼓動し、息づいていた。輝きが透明なブルーのどこまでもどこまでも深いところから、生命力を解き放っていた。

「・・・」

 僕はただ言葉もなくその美しい海を見つめた。

 海沿いに乱立していた化学工場も巨大倉庫群も、やはり植物に勢いよくに覆われ、大半が朽ちるか、崩れ落ち、その姿を消していた。埋め立てられていたコンクリートの岸壁も波と植物によって浸食され、自然な状態に戻っていた。

「なんだこれ」

 涙だった。僕は泣いていた。自然とはこんなにも美しいものだったのか。自然とはこんなにも感動的な存在だったのか。僕は今までに感じたことのない何か大きな感覚に包まれていた。

「・・・」

 僕は時間を忘れ、広大な海の無限の躍動に見入った。


 気付くと、真っ赤な夕日が水平線の向こうに浮かんでいた。それは地上にある全てを包み込む大きさだった。

「あああ・・」

 声にならない声が漏れた。

 太陽はもう何千、何万年、いやそんなちんけな時間よりもっと前からこの地上を照らしてくれていたのだ。そのことに初めて僕は気がついた。今まで何千、何万回と同じ夕日を見ていたのにも拘わらず、僕は今初めてそれに気が付いた。

 言い知れぬ感動が腹の底から沸き上がり胸を覆った。なぜ今までこのことに気付かなかったのだろうか。それが不思議なほどそれは当たり前にあったはずだった。

「うううっ」

 自然はこんなにも美しかった。そして大きかった。全ての生命を温かく包み込む圧倒的大きさを持っていた。

「それなのに、それなのに・・」

 涙がどうしようもなく溢れていた。何か自分を超えた大きな存在を感じた。それはどこまでもどこまでも無限に美しく、そして広大にやさしかった。僕はそれに生かされ、守られていたのだ。

 僕は泣いた。溢れ出る感動と言葉にはできない温かな感情に、僕の全てが満たされ魂の奥底から僕は泣いた―――。


「あっ」

 ふと右の方を向いた時だった。遠く海の中で白い、何か動くものが見えた。僕は目を凝らしてそれを見た。やはり、何か動いている。何か生き物のようだ。

「もしかして」

 僕はとっさに走り出していた。

「もしかして」

 それは何か人間のように見えた。僕の鼓動は激しくなり、全身を流れる血が上へ上へと上っていくのを感じた。

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