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世界の始まりの終わり  作者: ロッドユール
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新しい世界

「僕は実は今のこの状況。そんなに悪いことじゃないんじゃないかって思い始めているんだ」

「えっ!」

「どっちみちあのまま人類が文明を発展し続けていたら遅かれ早かれ滅びていたと思うんだ」

「原発、核戦争、環境破壊、数え上げればきりがないくらいにその可能性はあった」

「・・・」

 僕も圧倒的な自然の美しさや心地良さに触れ、そう思う瞬間があった。でも、それを認められない自分もいて、それを無意識に否定してしまっていた。

「これは素晴らしいことだよ。僕は気付いたんだ。これは本当に素晴らしい事なんじゃないかって。だって、もう生き物を殺さなくていい。何も殺さなくていいんだ。何かを殺して食べる必要がないんだよ。それで生きていける。これは本当に素晴らしい事なんじゃないか?」

「そ、そうですが・・、なんだか、まだよく受け入れられません」

「もう何も争う必要がないんだよ。もう物を奪ったり、戦争したり、殺し合ったり、傷つけあう必要がないんだ。根本的な生物の仕組みが変わったってことなんだから。これは本当に素晴らしいことだよ。ただ生きているだけで幸福に満たされ、生きていることを、人生を本当に愛することが出来る。それそのものを」

 斎藤さんは興奮していた。

「人類は、本当に完全なる偶然だが、完全な存在になったんだよ。僕たちは、何もせずに生きている。そして心は絶えず満たされている」

「進化の最終形態と言ったら言い過ぎになるかもしれないが、これが最終的な着地点じゃないだろうか。僕はそんな風に考えるんだ」

「今まで何千年、何万年人類は争い、殺し合ってきた。様々な生き物を残酷なやり方で搾取してきた」

「でもそれも、この結果に対する過程だったのかもしれない」

「・・・」

「僕は死ぬ間際考えていたんだ。ずっと。なぜ生きるのかって。人生とは何なのか。色んな事を考えていた。なんで人は生まれ、死んでいくのか。どうして生き物はみな互いに殺し合わねばならないのか。殺し、それを食い合ってしか生きていけないのか。それってとても残酷なことなんじゃないか。なぜそうまでして生きなければならないのか。そして、それはとてつもなく虚しいことなんじゃないかって。殺して殺して生き残った自分が結局死んでしまうんだ。とても虚しかった。死ぬ前だったから余計そう感じた」

「・・・」

「植物みたいな進化だってありえたはずなんだ。争わず、ただそこに生きる。そんな存在としての在り方もあり得たはずなんだ」

「・・・」

「ごめん、興奮してしまって、ついべらべらと」

 斎藤さんは、自嘲気味に笑って僕を見た。

「いえ、僕も何か今までの何かを超えた何かを感じていたんです。ただ、それをうまく言葉にできないというか・・、受け入れられないというか・・」

 確かに、人類は戦争、虐殺、略奪、環境破壊、公害・・、無茶苦茶にお互いを傷つけ合い、あらゆる生命を搾取してきた。

「それが終わる・・」

 僕は改めて、植物に覆われた街を見つめた。

「新しい世界・・」

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