シーズン01 第097話 「漢字gen」
「漢字ってさ、増やせないのかな」
「増やすの? 十分だと思うけれど」
「でも、新しい単語は今でも生まれてるじゃん? 新しい漢字が増えても悪くはないと思うんだけど」
「例えば?」
「レーザーとか」
「光子線じゃなかったかしら」
「インテリジェンス」
「知性ね」
「ワールドワイドウェブ」
「それを言うならインターネットが先でしょう」
「いや、ワールドワイドウェブなら新しい漢字のデザインもすぐできると思って」
「というと?」
「wが三つ。森とか蟲みたいな配置で」
「当然のようにアルファベットを使うんじゃないわよ」
「簡単な漢字が三つ組み合わさってできてる漢字って結構あるよね」
「森とか品とか晶とか?」
「おお」
「おおって何よ」
「月火水木金の三倍バージョンがそれぞれあるのは知ってたけど確かに品も晶もだね」
「むしろ私としては曜日の三倍バージョンの存在の方が驚きなんだけれど」
「これがあるおかげでなんと! 一文字で三週間分表せるのです!」
「表せないでしょ」
「ばれたか」
「っていうか日の三倍バージョンって晶じゃないのよ」
「確かに」
「二倍とか三倍にするのって意味を強めるためにやるのかしら」
「晶と日は関係なくない?」
「あれはなんというか偶然っぽいわね。でも木と林と森とか、火と炎と火の三倍のやつとか、あと土と圭とか、なんとなく強まってる感じがしない」
「そこで私は提案したい! 旧態依然としたこの漢字文化に、三倍表現を頭文字として使うという新たな選択肢を」
「旧態依然も何も文字がコロコロ変わったら困るでしょうが」
「増やすだけなら困らなくない?」
「まあ……振り仮名さえ振ってあれば」
「それは無理」
「何でよ」
「wの三倍漢字一文字に『ワールドワイドウェブ』なんていう十文字ぐらいある振り仮名を振れるわけないでしょ」
「まず英語をそのまま感じで表そうとするのを何とかしなさいよ」
「いや、英語は日本語だから」
「そんなわけないでしょ」
「母国語として通じれば母国語ですね?」
「そうなんじゃない? 論理式でいうとa=aだし」
「日本人なら誰でも英語はわかりますね?」
「概ねね」
「よって英語は日本語」
「母国語要件を満たしてないでしょ」
「カタカナで表記すれば満たす」
「満たしません」
「appleは英語だけどアップルは日本語でしょ?」
「それは単語レベルの話じゃないの」
「『It's a show time!』は英語だけど『イッツァショータイム!』は日本語でしょ?」
「それば文レベル……いや、文なら……って、全然日本語じゃないわよ!」
「通らなかったか」
「通りません」
「アルファベット漢字、どうしても嫌?」
「嫌よ。そもそもアルファベットは二十六文字しかないんだから、三倍法則で作れる漢字も二十六文字に制限されるし」
「あ、本当だ。英語は駄目。おしまい。これだから表音文字は。さようなら」
「ものすごい掌の返しようね」
「増えない漢字に意味はない」
「何で増える前提になってるのよ」
「増やすから」
「で、アルファベットの三倍漢字が駄目なら、他にはどんな漢字を用意したいの?」
「……特にないな」
「でしょう」
「ぴえーん」
A / AA / AAA / S / S+
とか言ってないで甲乙つけろ