シーズン01 第094話 「クマゼミというセミは存在します」
「セミって周波数ずれないのかな」
「鳴き声の?」
「いや、土から出てくるときの話」
「それヘルツで表したらすごい値になるわよね」
「七年周期だから……んん?」
「少なくともマイクロヘルツじゃ済まなそうね」
「マイクロ波だね」
「いいえ」
「で、どうなの。セミの周期誤差」
「一応ちょうど七年ってわけじゃなくてひと夏の間のどこかのタイミングで出てくるわけだから、それは誤差といえば誤差よね。というか七年だったかしら」
「何らかのセミは七年だったはず」
「日本でよく聞くのはミンミンゼミとシジミゼミ……じゃなくて、なんだったかしらあれ」
「つくつく?」
「ツクツクボウシもいるけど、そっちじゃなくてもっとこうシジミっぽい」
「シジミっぽいセミって何」
「いるじゃないの、シジミみたいな」
「味噌汁に入れるとおいしいとか?」
「いや、食べたことないけど」
「食べたことないのにシジミを語るのは信義則違反」
「いやシジミは食べたことあるわよ」
「ならばよし」
「よしじゃなくてセミはどうなったのよ」
「ああ、セミは私も食べたことないからわかりません」
「でしょうね」
「でしょ?」
「シジミみたいな鳴き声のセミのことよ」
「シジミは鳴きません」
「シジミは鳴かないんだけど、ほらいるじゃない。ミンミンゼミでもツクツクボウシでもないやつが」
「ああ、あのハードディスクみたいな鳴き声の!」
「そうそう! 周波数が低そうな!」
「わかった! ……けどあれ、シジミ?」
「シジミっぽくない?」
「じゃあハードディスクの音もシジミなの」
「まあ、そうとも言えなくはないんじゃないかしら」
「言えません」
「えー」
「ジジジゼミだとおかしいからシジミゼミって言ってごまかしたんでしょ」
「違うわよ。なんとなく思いついただけよ」
「無意識下でやったと」
「とにかく! シジミの正式名称」
「アブラゼミ」
「……そうよ! それよ!」
「いや、違うでしょ」
「違うの?!」
「違わないけど、違うじゃん」
「まあ、そこは大目に見てほしいところね」
「ということでシジミゼミの正式名称もわかったことだし周波数の疑問にぜひ答えてください」
「だからシジミゼミじゃなくて……なんだっけ」
「アブラゼミ」
「そうそう」
「大丈夫?」
「暑いと物事を覚えにくいから人間がセミの名前を憶えていないのは仕方ないことなのよ」
「私は覚えてるけど」
「えらい!」
「えへへー」
「周期だけど、たぶん日本のやつはずれてると思うわ。ずれないセミもいるんだけど、そういうのって周期ごとに大量発生するのよね」
「いいなー」
「いや、よくないでしょ」
「もしずれないなら七年のうち一二年はセミを全滅させてもあんまり影響はないかなと思ったんだけど」
「物騒ね」
「でもたまにはセミがいない年があったほうが年としての特色が出て良かったりしない?」
「それも無理ね。さっき上げたクマゼミもシジミゼミもミンミンゼミもツクツクボウシも、それぞれ周期が違うもの。だからある一年だけすべてのセミを除去したからといって例えばちょうど七年後にセミがまったくいない年が生まれるわけではないわ」
「ほうほう」
「わかってくれたかしら?」
「一つだけ良い?」
「何?」
「シジミゼミはこの際いいとしても、クマゼミというセミはいません」
「……全部夏のせいよ!!」
セミよりもカニが食べたいセミよりも
カニが食べたいセミよりもカニ