シーズン01 第089話 「気候性冷熱源調整装置」
「梅雨明けかー」
「梅雨明けね」
「でも雨降ってるじゃん」
「仕方ないわよ。梅雨判定は梅雨前線に大きく依存するもの」
「梅雨前線ってさ、丸と三角だよね」
「ん?」
「温暖前線が丸で、寒冷前線が三角。合わせて梅雨前線」
「そうね。ちなみに同じ向きだと閉塞前線よ」
「寒冷前線、三角より四角の方が良くない?」
「あら、寒冷前線は今でも四角よ」
「いや、三角でしょどう見ても」
「その判断基準なら温暖前線は丸じゃなくて半円よ」
「……あーーーーー!!!」
「物事の本質は目に見えるところだけにはないのよ」
「全く気が付かなかった」
「前線は英語で言うとフロントライン、すなわち境界線。強い存在だけが外から観測できるのよ」
「いや、起床用語の前線の英訳はそのままフロントだけど」
「……いいのよ! 気分だから!」
「天気だから?」
「気候だからね」
「気運だ」
「機運は天気の運びという意味じゃないわよ」
「でも天気の運びも機運のうちじゃない?」
「そう?」
「低気圧が来ると気運が低まる」
「低まってるのは気運じゃなくて気圧よ」
「あと雨が降るとお出かけの機運が低まる」
「それはあるわね」
「あと暑いとやっていく機運が低まる」
「それもあるけど、さっきから低まりすぎよ。逆に高まる機運はないの?」
「寒いと寝る機運が高まる」
「要するに天気とは無関係にやる気が出てないだけでは?」
「いやー」
「いやー、じゃなくて」
「世の中には中庸というものがありましてね」
「中国と西洋のこと?」
「そこまとめる必要性なくない?」
「なんかこう、歴史的にはあったのよ。西体中用とか」
「……中体西用?」
「あら?」
「残念ー」
「ともかく!」
「まあ中庸は中道のことで、要するにちょうどいいのがいいよねっていうやつ」
「ちょうどいい気温じゃないと気運が高まらないってわけね」
「れ」
「でも気温はともかくとして、晴れでも雨でも機運が高まらないならちょうどいい天気は何を指すの?」
「曇りとか?」
「本当に?」
「諸説ある」
「自分の話でしょうが」
「ということで」
「ということでも何もあったかしら」
「冷房を入れたい」
「入れればいいじゃないのよ」
「入れると寒い」
「はあ」
「入れないと暑い」
「温度調節って知ってる?」
「知ってる」
「じゃあそれをやりなさいよ」
「リモコンが、ない」
「ないわよ」
「ほらーーー!!!」
「操作パネルがあるじゃない」
「操作パネルにはオンオフしかないでしょ!」
「……はい」
「え!? これ開くの!?」
「開くでしょどう見ても、たいていのこういうのは開くわよ」
「いや開いてるの見たことなかったし」
「とにかく、今後はこれで調節できるわね」
「いやーよかったよかった」
「暑いの苦手だから、あんまり上げすぎないでね」
「はいはーい。でもさ、なんで壁の操作パネルじゃなくて冷房本体の操作パネルに温度調節機能がついてるんだろう」
「本体だからよ」
「本体だからかー」
冷房の房は脇室という意味
なので冷房とは部屋のこと