シーズン01 第082話 「情報伝達確認処理プロトコル」
「ほうれんそう、概念に直交性がないわよね」
「地面から垂直に生えてないって事?」
「それは生えてるわよ。と言うか斜めに生える植物なんてないわよ」
「蔦とか」
「あれも出は垂直なんじゃないの?」
「どうせ横に進むのに?」
「壁があったら登ってくじゃない」
「平行と垂直、どちらがツタの本来の姿なのか」
「どっちもじゃないかしら。ほら、ヒルガオが壁一面に咲いてるパターンと野原一面に咲いてるパターンのどっちもあるじゃないの」
「つまり蔓性植物は任意の角度を取ることができる!」
「そういうことね」
「でもほうれん草は任意の角度を取れないよね」
「だから垂直だってば」
「おお!」
「食べ物の方のほうれん草じゃなくて、食べられないほうのほうれんそうよ」
「煮過ぎた」
「いいえ」
「逆に煮てない」
「それは食べられるわよ」
「そうなの?!」
「植物なんだからだいたい生で食べられるでしょう」
「そうは言っても桜の枝とかは生で食べるのはちょっと難しいんじゃないかと」
「桜の枝は煮ても食べられないでしょ」
「それもそうか」
「ほらね」
「……ん?」
「とにかく、私が言いたかったのは略語の方のほうれんそう!」
「ああ、法学連結決算の!」
「報告・連絡・相談よ」
「違った」
「というか『そう』はどこに行ったのよ」
「決算期なのでどこかに行ってしまったのでは」
「無責任ね」
「決算なので」
「決算を何だと思ってるのよ」
「借金を返せなくなった場合に謝るやつ」
「……なるほど! それは、人生ゲームの決算ね!」
「正解!」
「いや正解じゃなくて」
「要するに、報告と連絡の何が違うんだ見たいな話でしょ?」
「そういうことよ。ここに至るまでずいぶん長かったわね」
「植物だからね」
「また脇道が見えてきたからこの件は押し流すけど」
「残念」
「報告と連絡、同じことじゃないのよ」
「同じだよ」
「いらなくない?」
「ふふふ、昔のことわざにこういうものがあってね」
「なに?」
「『大事なことなので二度言いました』!」
「それことわざじゃないでしょ」
「こういう時は本来あったものが差し替えられて不自然な形になっていると考えた方がよいのだ。四大奇書の紅楼夢が金瓶梅に差し替えられたり、フランス国旗の白がブルボン家から平等の意味に差し替わったり……」
「つまり、報告と連絡のどっちかがもともとは別の単語だったって事ね」
「そ」
「ほうれんそうは組織構成員の心がけを示した標語よね。となると報告連絡にあたる情報伝達、相談にあたる情報確認のほかに大切な事っていうと」
「放置・連絡・相談!」
「仕事を放置されたら困るでしょ!」
「だから差し替えられてしまったのだ」
「いや、差し替えないと困るような標語は最初から作らないでしょ」
「発注ミス」
「発注ミスなら仕方ないわね」
報告と連絡の差は権力差
なので奴隷に連絡はない