シーズン01 第080話 「完全鶏肉除外領域」
「しゃぶしゃぶ、煮肉じゃない?」
「肉の煮たやつ?」
「そう」
「いや、しゃぶしゃぶは煮ないわよ」
「いやいや、煮るでしょ。肉だよ?」
「火は通すけど煮はしないわよ」
「どういうこと? 電子レンジ?」
「あれは火じゃないでしょ。というかしゃぶしゃぶ食べたことないの?」
「あるけど」
「あるなら、その時煮てなかったでしょ」
「煮てたけど」
「本当に? どうやって食べたのよ」
「いや、鍋に昆布と白菜とあとお餅とか入れて、そのあと豚肉とか牛肉とか入れて、色が変わったら食べごろ。手元のポン酢的なものにつけて食べる」
「それは、鍋よ!」
「ええーっ!」
「まあ、すき焼きとかしゃぶしゃぶって食べたことない人は食べたことないから仕方ないわよ」
「いやいや! だってしゃぶしゃぶの店でそうやって食べたけど!」
「具材と肉が運ばれてくる店でしょ?」
「そうそう」
「それは送られてきた具材に対して食べ方を間違ったのよ」
「なんと」
「べつにそれで食べられないわけじゃないから止められることもないんだけど」
「止めてよ!」
「でもおいしくなかったわけじゃないでしょ?」
「おいしかったよ」
「じゃあいいじゃない」
「じゃあいいか」
「相変わらずの切り替えの早さね」
「じゃあしゃぶしゃぶって本当は何なの?」
「食材は同じよ。と言っても昆布や野菜は必須ではなくて、必要なのは鍋に入った熱湯とスライスした豚または牛肉よ」
「沸騰したお湯ってやつだね」
「スライスした肉を箸などで一枚つまんで、沸騰したお湯にくぐらせるのよ」
「ほうほう。それで?」
「以上。おしまいよ」
「なんだよ!」
「なんだよって言われてもそういう料理なのよ。熱湯が介在する分かろうじて焼肉よりは複雑よ」
「でも味ないじゃん。焼肉は焼肉のたれがあるぞ!」
「ああ、勘違いしゃぶしゃぶで使ってたポン酢はそのまま使ってもいいのよ」
「なら許す」
「というように、しゃぶしゃぶと勘違いしゃぶしゃぶの違いは肉が熱湯内にある時間の差だけだから、肉を煮るのが好みの人はそうすればいいのよ。だからしゃぶしゃぶ店で勘違いしゃぶしゃぶをつくっても止められないのよ」
「なるほど、完全に了を解した」
「次にしゃぶしゃぶを食べる機会があったら勘違いしゃぶしゃぶじゃないほうにも挑戦してみるといいわよ」
「うむ。で、煮肉は?」
「え?」
「だから、しゃぶしゃぶは煮肉じゃないんでしょ」
「そうね」
「じゃあ本当の煮肉はいったいどこにあるの」
「……残念なお知らせだけど、これを伝えないわけにはいかないわね」
「ぬ?」
「煮肉という料理は、ない!」
「ええーっ!!」
「焼肉は?」「存在」「煮肉は?」「非存在」
「じゃあ裂き肉は?」「それはジャーキー」