シーズン01 第076話 「しゃり」
「風鈴って鈴?」
「鈴なんじゃない?」
「ベルじゃない?」
「ベルと鈴ってどう違うのよ」
「ベルは金属」
「鈴も金属でしょ」
「ってことは金属じゃない風鈴は鈴じゃない!」
「その理屈だとベルでもなくなるわよ」
「ああっ!」
「ベルか鈴かはどちらかというと形状的な問題じゃないかしら」
「形状?」
「丸いのが鈴で、台形のがベル」
「となると、お土産屋さんで売ってるのが鈴で、鈴が葡萄みたいになってるやつも鈴」
「葡萄みたいになってるのって楽器の?」
「楽器の。あと神事とかで使う」
「そうね」
「そして、楽器のベルも、結婚式場の上についてるやつも台形だからベル」
「そうそう。どう、よさそうでしょ?」
「となるとお寺の鐘もどちらかというと台形だからベル?」
「あれは鐘」
「またややこしいものを……!」
「鐘は外から叩いて鳴らすもので、ベルは内側に金属が入っていてそれが音を出すものよ」
「じゃあ鐘を内側から付けばそれはベルということになるの?」
「そうね。結婚式場の上についてるベルがまさにそれよ」
「おお!」
「教派を跨ってベルという神聖性が証明されているわ」
「となると、内側から鳴らしてかつ台形の風鈴は、ベル!」
「そうよ! ……ってあれ?」
「ベルじゃん」
「風鈴なんだから鈴よ。ほら、どちらかというとあれは円形に近いじゃないの」
「下面の空き具合がまさにベルだと思うけど」
「でもどちらかというと円形じゃない」
「ベルは誤差に強いから」
「何理論よ」
「じゃあ例えば、インターホンで鳴るのってベルだよね。電子音のやつじゃなくて昔ながらの機械的なの」
「機械的インターホンの実物は見たことがないけれど、まあいずれにせよインターホンならベルとはいえるわね」
「でも、あれって中から鳴らしてるという構造ではあるけど台形じゃないじゃん」
「それは……そうね」
「あと機械的目覚まし時計の音を鳴らす部分もベルっていうけどあれも台形じゃないしむしろ物によっては丸い感じじゃない?」
「ぐぐぐ、煩わしい機械めが……」
「なんか敵のボスみたい」
「わかったわ。ベルと鈴を分けようとしたところが間違ってたのよ。すなわち、鈴はベル!」
「鈴虫はベル虫ではありません」
「あれは固有名詞よ。林さんと森さんが別人なのと同じよ」
「固有名詞ではなくない?」
「……固有名詞ではないわね」
「まあ言いたいことはわかるけど。風鈴もベルリンじゃないし」
「それは全然違うでしょ」
「本当だ」
「とにかく、風鈴はベルだけど同時に鈴でもあるってことでどうかしら」
「鈴の根拠がいまいち……あ!」
「見つかった?」
「音が高いほうが鈴で低いほうがベル!」
「……うん、冷静に考えたら一番最初に思いつくべき分け方だったわよね、これ」
「そだね」
「駄目ねー」
「暑いからねー」
「完全に暑さのせいねー。冷房入れましょうか」
「うむ。あと風鈴も吊るそう」
「風鈴の音で部屋が冷え……ないわね」
「ないねー」
「さっさと冷やしましょう」
「ふぃー」
「涼しい……。いつの間にか気温がかなり上がってたのね」
「夏だねー。……あ」
「なに?」
「涼しくなったから気づいたんだけど、別に音色の高いベルもあるよね」
「あー」
「風鈴とてるてる坊主の差を述べよ」
「前者は無機で後者は有機」