シーズン01 第074話 「フルーツバスケットの選択」
「病院に持ってく果物ってどこまでが許容範囲なのかな」
「あら、お見舞い? ご家族の方かしら」
「いや、お盆が近いから」
「ああ、フルーツバスケット」
「起立?」
「ゲームじゃなくて物としてのフルーツバスケットよ。日本語に直すと果物籠」
「そうそう籠籠。今日売ってるのを見かけたんだよね」
「もうそんな季節、あ、そうか。新しいお盆と古いお盆があるのよね」
「新しい方はそろそろだよね。ってことで思ったんだけど、果物セットってお盆でお寺にもっていくシチュエーションとお見舞いで病院にもっていくシチュエーションの二つがあるじゃん。両方とも物は同じなのかなって」
「物が違うならお盆用をお見舞いにもっていくとやらかし事案になるから重大な問題ね」
「ってことで、お盆にもって来てもらう果物は何がうれしいですか」
「なんでお見舞いじゃなくてお盆の方を聞くのよ」
「だって入院したことないでしょ」
「お墓に入ったこともないわよ」
「あれ、ああいうのって物質的にはお寺で食べてるんじゃないの?」
「どうかしら。時期が重なるからお寺の人だけじゃ処理しきれないんじゃないかしら。というか、私あの果物籠使ったことないからお盆でどうするのかよくわからないのよね。家の仏壇に飾るんじゃないの?」
「自分の家で使うやつではないイメージがある。自分の家に飾るのはあんこ玉」
「あんこ玉?」
「あんこでお米が包んであるやつ」
「おはぎね」
「牡丹餅かもしれない」
「時期によって違……っていうかそれ春分と秋分でしょ!」
「そうだった」
「でも果物籠も籠だから一般論としては持っていく物のような気がするわね。分家から本家へ、とかそういうやつかしら」
「都会に分家も本家もなくない?」
「田舎に帰るときはあるでしょう」
「今は新しいお盆だから都会でやる季節じゃない?」
「じゃあ逆に本家が都会の分家に対して持参するのね」
「都会に出てきた以上本家も分家もない。ただ対等に財産能力だけで殴り合ってもらう」
「世間に対してどういうイメージを持ってるのよ」
「資本主義」
「そうだけど」
「田舎民は都会に豪華な果物籠を持参する。都会民は田舎民に豪華な鯛の頭が飾られてるタイプの刺身を御馳走する。この儀をもって田舎民と都会民の双方がぶつかり合い、力関係が決定されるのである」
「世の中は絶対そうは回ってないと断言できるわね」
「でも面白そうじゃない? おいしい果物とお刺身が食べられるし」
「じゃあ殴り合いとかじゃなくて普通に御馳走すればいいんじゃない?」
「えー」
「えーって何よ」
「やっぱりお盆と言ったら海鮮と果物だよね」
「いつの間にかグルメの話になってるわね」
「だからバランスをとるために病院食でも果物とともに海鮮を出すべき」
「強引に話題を回帰させた」
「けど持参する果物って病院食じゃないよね」
「持参したものだからね」
「食べていいの? よくウサギとか食べてる話があるけど」
「なんで肉の話になるのよ」
「りんごだけど」
「ああ。担当医の許可をもらえれば問題ないんじゃないかしら」
「じゃあ病院に刺身をもっていっても」
「いやそれは許可されないと思うわよ」
「残念」
「見方を変えれば、許可される果物が病院に持参していい果物ともいえるわね」
「なるほど。じゃあ多少ミスっても受付で判断してくれるから安心というわけだね」
「ちなみに病院だとどんな果物が食べたい?」
「そうね。お盆籠みたいに盛り合わせを考えるっていうよりも季節のものを持ってきてくれたほうが私はうれしいかな」
「今の時期だとスイカとかサクランボとか」
「うんうん」
「秋だと栗とかサツマイモとか」
「まあ、そういうのもあるわね」
「冬だとみかん10kgとか」
「うんやっぱり籠でお願いするわ」
病院に併設されるコンビニで
果物籠が売られてほしい