シーズン01 第073話 「スカーレット・ジンジャー」
「果たして生姜を紅に染める必要があったのだろうか」
「紅生姜?」
「紅生姜」
「あれは色というよりはタレの味をつけるために赤いのを使ってるんじゃないかしら」
「でもわざわざ食紅入れてない?」
「あー、確かに成分表示に食紅って書いてあったような気はするわね」
「でしょ」
「しかし食紅の味を求めて使っているのかもしれない」
「あれ味あるの?」
「あるんじゃないかしら、物質なんだし」
「ざっくり」
「ざっくりよ」
「でも色付けたいだけなのに味があったら邪魔なのでは」
「きっと打ち消せるのよ。普通は打ち消すんだけど本来の味を使いたいから紅生姜ではあえて打ち消さずに出してるんじゃないかしら」
「食紅、どんな味なのだろうか」
「それはもちろん、紅生姜の味引く生姜の味よ」
「生姜になくて紅生姜にある味……いや生姜単体で食べたことないし」
「寿司の」
「ガリか。それなら差は酸味かな?」
「なるほど。つまり食紅は何らかの酸だったということね」
「でも冷静に考えてみると味ってそうそう簡単に打ち消せないよね」
「薄々気づいてはいたけど、まあそうね」
「やっぱり食紅は色だけだし色に意味があるんじゃないかな」
「もしかしたらこんにゃくパターンかもしれないわね」
「こんにゃく?」
「ほら、こんにゃくが灰色なの、昔は文字通り灰を使ってたから灰色だったんだけど、今では製法が変わったから灰色にはならなくて、でもなじみ深いからわざと着色してるみたいな話聞いたことない?」
「なるほど。つまり食紅じゃなくて」
「オリジナルの紅生姜があった、ということよ」
「生姜と紅しょうがの違いが酸味だから、何かの酸が赤かったってことかな」
「あとたぶん甘みも追加したものだと思うわ。寿司のガリも甘いから見落としがちだけれど」
「でも食べられる赤い着色要因なんて食紅ぐらいしか聞いたことないけどな」
「あそこまで赤いのは食紅しかないかもしれないけれど、最初の紅生姜ってもっとほんのりと赤い感じだったんじゃないかしら」
「そして赤さを追求していった結果今の見た目に落ちついたと」
「製法を変えたときにね。その前から赤かった原因としては……もしかしたら、育てる段階で生姜自体が赤かったのかも」
「土の問題?」
「でしょうね。特に根は水を吸う部分だから」
「つまり熱帯で生産されていた生姜が紅生姜」
「なんで熱帯なのよ」
「ラトソル」
「とは」
「赤土。栄養分が少ないことが特徴」
「育たなそうね」
「私もそう思う」
「駄目じゃないのよ」
「生姜、なんか漬物っぽいしぬか床の問題かも」
「少なくとも糠漬けではないと思うわよ」
「漬物って糠がなくても作れるの!?」
「別に漬物石があれば糠は不要よ。糠を使うのはぬか漬けってタイプの漬物だけよ」
「浅漬けは?」
「うん、漬物石すら不要ね」
「万能」
「これだけ発展してるんだもの、当然よ。……じゃなくて、何でつけたら生姜が紅生姜になるかってことよね」
「味的に砂糖入りの酢とかだと思うんだけど」
「ありそうね。あとは赤いお酢だけれど」
「酢ってさ、アルコールから作るんだよね」
「そうね。構造式を見てみるとわかると思うのだけれど、ほとんどおんなじ形なのよ」
「で、使ったアルコールっていうかお酒の特徴はそのまま引き継がれるよね」
「そうね。色とかはそうだと思うわ」
「なるほど。つまり紅生姜のもとになった酢は赤いお酒……すなわち!」
「すなわち?」
「何だろう」
「おい」
「なんかない?」
「赤ワインでしょう」
「おお、それで!」
「じゃあ改めて、赤ワイン!」
「赤ワイン!」
梅干しの生産過程で作られる
液に数日漬け込んだもの