シーズン01 第066話 「トーラスに対する認識の差異」
「ドーナツ? ドーナッツ?」
「ドーナツ」
「本当に?」
「ドーナツ化現象じゃん」
「それはそうなんだけど、日常でドーナツって言ってるの聞いたことない気がするのよね」
「ドーナツ化現象」
「いや、普通の人は日常でドーナツ化現象について論じたりしないから」
「なんと」
「そもそも日常の中でなんでドーナツ化現象を気にすることになるのよ」
「都市で家を買おうとしたら城壁があったので困った、とか」
「それドーナツ化現象じゃないでしょ」
「ドーナツ化現象ではないですね」
「ほら」
「ドーナツ化現象ではないけど、ドーナツ化現象っぽいじゃん」
「ぽいって何よ」
「『都市がドーナッツになっていく現象がドーナツ化現象です』って聞かされたら最初に思い浮かべる社会問題」
「イメージの話ね」
「イメージの話ですね」
「実際にそういう社会問題は」
「ないね」
「ないわね」
「今の都市は城壁を作らないのがブームだから」
「ブームとかではないでしょう」
「ないね」
「……ってちょっと待った」
「都市開発を?」
「都市開発は待たなくていいけど」
「本当に?」
「私は待たなくても……じゃなくて。さっきドーナツ化現象を説明するとき、なんていった?」
「適当にしゃべったのでもう覚えません」
「おい」
「えへへー」
「まあ内容はどうでもいいんだけど、ドーナッツって言ってなかった?」
「……あ」
「ほら、やっぱりあなたも無意識化ではドーナッツ派じゃないのよ」
「全く気付かなかった。でも正式呼称はドーナツのはずだよ」
「ていうか元をたどればカタカナだからきっと英語よね。あっちの発音はどうなのよ」
「何とも言えなそう」
「何とか言ってほしいところだけれど」
「いやほら、英語は発音体系が違うから促音とか長音とかそういう感じじゃないんだよね。デメテルだったりデーメーテールだったりするじゃん」
「デメテルってどこよ」
「ギリシャ神話の神様の名前です」
「へー、ってギリシャ語じゃない」
「本当だ」
「英語の発音の揺れの例を出しなさいよ」
「えーと、センターピボット」
「の別バージョンは?」
「……センターピボット」
「変わってないわよね」
「変えられませんでした」
「残念」
「でもほら伸ばし棒なら、フォルダとフォルダーとか、コンピュータとコンピューターとか」
「それはあるわね」
「ん? ということは、ドナツとドナッツ?」
「それはどっちもおかしいわね」
「ドナツ屋」
「暑そう」
「ドナッツ屋」
「さっきとは別の理由で暑そう」
「ドナツはド夏だからとして、ドナッツが暑そうなのはなんで?」
「なんかココナッツみたいじゃない」
「ココナッツのドーナッツがあるからじゃない?」
「そんなのあったかしら」
「ほら、チョコレートの」
「ココナッツじゃなくてココアじゃない?」
「うーん、熱帯地方は複雑怪奇なり」
「熱帯?」
「そういえばココナッツもココナツっていうよね」
「ナッツをナツって略すのも言われてみれば妙よね」
「あれ? ドーナッツってアルファベットだとDONUTだった気がするけど、てことはドーナッツのナッツってナッツじゃない?」
「気づかなかったけど、綴りを見たらそのとおりね」
「ということはドーナッツの自然なカタカナ表記は」
「ドーナッツ、ね」
「そして正しい略称はドー!」
「いいえ」
「トーラスの語源はドーナツ」「噓でしょ?」「はい」
「本当の語源は?」「トーマス」「嘘」「はい」