シーズン01 第063話 「自然セクターのデザイン」
「花鳥風月に一貫性がないので新しいソリューションをコミットしよう」
「一貫性?」
「花は花で鳥は鳥だし風は風で月は月じゃん」
「あなたの説明に一貫性がないわよ」
「ね?」
「ね? ではなく」
「ご理解いただけたかと思いますが」
「全く」
「えー」
「要するにどういうことよ」
「花も鳥も風も月も全然関係ないじゃん、って話」
「そもそも、花鳥風月って美しい自然、みたいな意味でしょ。その例示としては四つの概念はうまく適合してると思うけど」
「そうはいってもさ、似てるんだけ似てないんだかも良くわからない四つを集めてくるのもどうかと思わない?」
「目についたものから四つ取ってきたんじゃない?」
「そうなんだろうけど、そうじゃなくて、もっとこう四字熟語として高みを目指してほしいという思いが、ね?」
「うーん」
「じゃあまず問題を正しく認識するために花鳥風月を分解して理解してみよう」
「花と鳥と風と月ね」
「まず、前三つは一般名詞だけど月だけ固有名詞だね」
「月って固有名詞?」
「固有名詞じゃない? 複数はないし」
「でもよくファンタジーとかで『この世界には月が四つある』みたいなのがあるじゃない。あれって要するにその惑星に衛星が四つあるって話でしょ? ってことは月は住んでる惑星から見た衛星のことを示す一般名詞なんじゃないかしら」
「ファンタジーに天動説を持ち込むのはルール違反」
「何でよ」
「というか、仮に木星に住んだとして、木星の衛星のことを月と呼ぶようにはならないくない?」
「木星はガス惑星だから住めないわよ」
「ファンタジーにガス惑星を持ち込むのはルール違反」
「いや、木星はファンタジーじゃないでしょう」
「ロマンがないねえ」
「ロマンとかじゃなくて」
「まあ、仮に月が一般名詞だったとしても、カテゴリの粒度としては全然違うじゃん」
「それは確かにそうね」
「で、次。花と鳥は生物だけど風と月は生物じゃないよね」
「それはむしろバランスがちょうどよく取れてるんじゃないかしら?」
「花と鳥に風と月って釣りあう? 岩と水とかじゃない?」
「でも、月は岩じゃない」
「岩は月じゃないでしょ!」
「それはそうよ」
「っていうか昔の文化だと花っていうか植物は生物として認められてないし!」
「認められてないわけではないんじゃない? 生物と無生物のどっちのカテゴリーにも入れるだけで」
「虫が良すぎる!」
「昔は生物学があったわけじゃないし仕方ないところはあるんじゃない」
「というか虫はどうした! 鳥がいるのに何で虫がいない!」
「被ってるからでしょ。あと美しい自然区分だと虫は……ちょっとね」
「『飛翔体』でいいだろ!」
「三文字」
「飛!」
「わからないわよ」
「ぐぬぬぬぬ」
「まあ、大体言いたいことは分かったわよ」
「わかってくれたか」
「同意はしないけれどね」
「えー」
「四字熟語はなんだかんだで言いやすさの問題もあると思うわ」
「その辺はどうとでもなるでしょ」
「為せば成る! 紀貫之を何だと思ってるんだ!」
「女装家」
「正解!」
「正解じゃないでしょ」
「当時は文章が本人だから」
「あと何で紀貫之が急に出てきたのよ」
「紀貫之クラスなら四字熟語も作れるかなって」
「花鳥風月の出展って紀貫之なの?」
「全然」
「じゃあ関係ないでしょ」
「関係ないかもしれない」
「っていうか、元の目的は花鳥風月に変わる新しい四字熟語の提案よね。何か思いついた?」
「それはもちろん」
「おお。で、その四字熟語は」
「ふふふ……それは、『陸海動植』です!」
「はい解散」
「待って-!」
「鳥よりも花が好きです。なぜならば、
花なら勝てる」と言う弱い人