シーズン01 第061話 「一膳の萌芽」
「割り箸って誰が考えたんだろう」
「そういう日常オブジェクトは発明者を辿れないぐらいずっと昔からあると思うわよ」
「でもさ、割り箸って割と謎じゃない?」
「なにが?」
「わざわざ割る必要なくない?」
「割らないと箸にならないわよ」
「刺せるし」
「箸を何だと思ってるのよ」
「じゃなくて」
「はいはい」
「わざわざ割らないと使えないようにする必要なくない? ってこと」
「最初から二本入ってる箸もあるわね、そういえば」
「そうそう」
「うーん、割る理由か……」
「宗教上の理由とか?」
「割ると何かいいことがあるの?」
「破局とか」
「全然よくないでしょ」
「よくなかったね」
「宗教上っていうか、縁起の問題だと大体割るのはよくないことの方が多いから、実用上の理由なんじゃないかしら」
「実用上っていっても割る手間が増えるだけでしょ」
「利用者側からはそうかもしれないけれど、生産者側の理由があるかもしれないわ」
「おとなしく棒を作る方が楽じゃない?」
「箸ぐらい細くすると折れやすくなる、とか」
「でも割り箸とセットで爪楊枝入ってるじゃん」
「爪楊枝?」
「細いでしょ?」
「確かに……いやあれは失敗した割り箸の端材かもしれないわ」
「それだと割り箸一袋に爪楊枝が10本は入ってないとつじつまが合わない」
「何でそんなにエラー率が高いのよ」
「いや、エラーじゃなくて木から割り箸を切り出すときの余り部分」
「箸一本をまともに切り出せない技術力で端材の再加工ができるとは思えないけど」
「なるほど」
「うーん、やっぱり実用上の問題じゃないのかしら」
「箸を割ることによって使用に対する区切りとなって神聖性が云々とか?」
「それなら袋から箸を取り出すだけで十分じゃない?」
「じゃあ割るのが楽しいとか」
「楽しい?」
「全然」
「ほら」
「そうはいっても世間の人々は何を考えてるかわからないので」
「流行ならそうかもしれないけど文化にまで発展するにはそれ相応の合理性があるはずよ」
「うーん……」
「じゃあ割り箸の箸に対する利点から考えてみましょうか」
「えーと、んーと……」
「何かない?」
「……割るのが楽しい?」
「楽しくないんでしょ」
「楽しくないです」
「そうね、利点といえば、例えばセットになってるから片方だけなくすってことはないわね」
「そうか。弁当を納品するときに箸が一本しかなったら店に火を放たれるからね」
「放たれないわよ客を何だと思ってるのよ」
「低所得者層」
「失言に失言を重ねるんじゃない」
「連鎖なので」
「何誇らしげに言ってるのよ」
「オリジナルの言葉を紡いで君だけの失言連鎖を生み出そう!」
「完全に地獄ね」
「連鎖をつなげが攻撃力が上がるので店に火を放ちに来るスラム人間たちを磔にできるぞ!」
「どういう世界観なのよ」
「デトロイト」
「怒られるわよ」
「あと炭鉱都市」
「怒られるわよ」
「と思ったけどよくよく考えたらスラムの人間は箸が」
「ストーーップ!!」
「結局利点は箸の片方がなくなることが防げるだけか」
「そうね。ほかにそれらしい理由は思い浮かばないわ」
「割り箸……爪楊枝……あ!」
「何かあった?」
「爪楊枝って後ろの凸凹のところを折ると置き場が作れるじゃん?」
「そうなの?」
「そうだよ。で、それと同じで割り箸も後ろに凹凸があってそこが箸置きになったら便利じゃない?」
「ある程度は便利そうだけど……それで」
「以上です」
「はい」
「箸置きはあるのにフォーク置きがない」
書置き残し妻が失踪