シーズン01 第059話 「オリジナル短化」
「略語の作り方がわからない」
「アルファベットの頭文字を取ってくるのよ」
「なほど。日本語だと?」
「日本語は……確かにこれといった法則性はないわね」
「でしょ?」
「でも『なほど』はおかしいわよ」
「知ってる」
「知ってるなら直しなさいよ」
「直さなければいけないことはわかっていてもどう直すべきなのかが不明なのだ」
「いや、普通なるほどは略さないわよ」
「そこをなんとか」
「なんともなりません」
「不可能には挑戦してこそ」
「要らんところでチャレンジ精神を発揮するんじゃない」
「あ、なるほどは漢字で程に成るって書くから、文脈的に動詞は読めるから略称は『程』!」
「完全に意味不明」
「やっぱり?」
「そもそも略語ってデザインして作るような物かしら」
「全ての建物にはデザイナーがいるんだよ」
「建物じゃないでしょ」
「建物じゃないけど」
「自然発生的に生まれるものだと思うわよ、略語は」
「その自然発生クリエイターになりたいの」
「それは……なるほど」
「なに今の含意」
「いや、そういうインフルエンサーになるには言語センスというよりコミュニケーション能力の方が重要なんじゃないかなって」
「適材適所人間じゃん」
「そういう明るいところは魅力的なのだけどいかんせん何言ってるのかわからないのがちょっとね」
「そこはみんな頑張って欲しい」
「あなたが努力するのよ」
「それはちょっと」
「おい」
「あ、でもそれなら私がインフルエンサーにならなくても既にインフルエンサーの人に使ってもらえるようになればいいのでは?」
「それはそうなのだけど、その場合は得てしてその言葉を拡散したインフルエンサーがその言葉の発明者的な扱いを受けることになるわね」
「剽窃を許すな! 私の発言は私のものだ!」
「使ってもらいたいの使ってもらいたくないのどっちなのよ」
「どっちでもいい気がしてきた」
「まあ、使っていいといわれても『なほど』は使わないわね、やっぱり」
「いや、正しい略称は『程』だから」
「そっちもダメです」
「がっかり」
「あとこの際だから言うけど『それ』の略称として一文字で『そ』とか『れ』とかいうのも普通は伝わらないわよ」
「普通じゃない相手なら伝わる」
「異常者フィルターね」
「れ」
「はいはい」
「伝わったので異常者」
「私は知ってるから対象外よ」
「つまり知ってしまった時点で異常者認定されるシステム!?」
「だから例外処理」
「というかこれシステム設計者が問答無用で異常者扱いされるやつじゃん。ダメ。おしまい」
「いや、そんなの思いつく人は普通に普通じゃないから普通フィルターを通過できないのはいいのよ」
「あれ? フィルターって通る方で名前つけるの? それとも通らない方?」
「場合による」
「なほど。『れ』が理解できない人間は異常者って意味だったのね」
「さっきの異常者フィルターは通過側でネーミングしてたやつっていうかあなた自分でも『なるほど』の略称で『程』の方使ってないじゃないのよ」
「もう結構普及したし『なほど』でいいんじゃない?」
「してないわよ」
「広げよう『なほど』の輪」
「広げるんじゃない」
「それならやっぱりちゃんと考えないとだめなんじゃない、略語の作り方」
「うーん、とりあえず最初から四文字以下の単語を縮めようとするのはダメってことは確かね」
「『なるほどなるほど』を略して『なほど』」
「それは『なるなる』でしょ」
「おお!」
「というように五文字を超えればちゃんと納得できる略称があると思うのよ」
「よーし、いろいろ作ってみよう。まずは……『家電量販店』!」
「なぜ家電量販店を選んだ」
「思いついたので」
「略す必要あるかしら、家電量販店」
「全ての単語は略される運命にあることが言語学的に証明されている」
「帰納されてるだけではなくて?」
「帰納は証明」
「違います」
「本当だ、文字数増えてる」
「略語でもないわよ!」
「ていうか『略す』自体が『省略する』の……あー!」
「何よ」
「『省略』を略すと『略』! 四文字!」
「残念ながら小さい『よ』が入ってるから五文字よ」
「惜しい!」
「そもそもいままでどうやって略語作ってたの?」
「適宜文字を引っこ抜いて」
「基準は?」
「ランダム」
「そこを既存の略語から分析してみればいいんじゃないかしら」
「既存の略語……自販機?」
「自動販売機ね」
「リスケ」
「リスケジューリングね」
「文科省」
「文部科学省」
「プロ倫」
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
「ノシ」
「それは略語じゃない」
「ここから導かれる傾向は……」
「傾向は?」
「――まったくわからん!」
「まあ、やっぱり自然発生的に生まれてるのね」
「なほど」
「……うん、なんかもう『なほど』もありな気がしてきたわ」
「勝利!」
外来語使用抑制委員会
「略語は国語扱いとする」