シーズン01 第057話 「虎槍」
「トランス状態って何なのかしら」
「透明なんじゃない?」
「それはトランスペアレントよ」
「じゃあ変身中?」
「それはトランスフォーム」
「トランスミット!」
「それは送る!」
「よくできました!」
「さすがに私でもその程度の英単語は理解してるわよ」
「おおー」
「でもトランス状態に対して一番それっぽい意味の単語は全然出てこないわね。そもそも、語根のトランスを略称に使うからこういう滅茶苦茶なことになるのよ」
「でもトランスフォームのフォームの方も語根だけど、こっちは普通に意味が一つに定まってるよね」
「そうかしら」
「だと思うけど」
「じゃあ、変身するときのそれぞれのスタイルは?」
「フォーム」
「返信するときの箱は?」
「フォーム」
「はい論破」
「る、類義語殺し……」
「別に完全に意味が重複する類義語の一方が単語として消滅しなくても良いとは思うけれど、一人につき使う表現は一つに絞って欲しいとかはたまに思うわ」
「例えば?」
「そうね……例えば、耳当てとイヤーマフとか」
「イヤーマフ? 雪原に現れる巨大モンスター?」
「違うわよ。マフはマフラーのマフよ」
「耳から煙出すってこと?」
「確かに発熱したら便利だけど今言ってるマフラーは自動車の方じゃなくて衣類の方」
「衣類のマフラーにも発熱してほしい」
「よさそうなアイデアね。といっても今はもう季節としてはほぼ夏だからそのへんの実感はちょっとわきにくいけれど」
「夏は冷たいマフラーかな」
「農作業するときに保冷剤入りのタオルを首に巻いて体を冷やす的な?」
「そうそう。発汗性だけじゃ限界があるからね」
「でも部屋の中だと冷房が効いてたりするからむしろ冷たすぎるんじゃないかしら」
「タオルの長さで調節する」
「温度じゃなくて長さなのね」
「技術的に簡単だからね」
「賢明な判断ね」
「で、結局イヤーマフって何」
「耳当て」
「それもわからん」
「温かいヘッドホンよ」
「なるほど」
「ていうか今気づいたけどこれ類義語じゃなくて多義語よね」
「多義語でもなくない?」
「あー」
「仕切り直し!」
「本題はトランス問題よね」
「トランスヴァール共和国問題?」
「どこよ」
「どこでもない」
「架空?」
「悲しみ」
「全くわからないけどわからなくても大丈夫ということだけはわかったわ」
「トランス状態、トランスの語根としての意味なんじゃない?」
「透明、変形、移送……。共通点がよくわからないわね」
「あ、貫通じゃない? 光が透き通って向こうまで届くのがトランスペアレントとトランスルセント、道を通って物が送られるのがトランスミット。ある言語が他の言語に変わるのがトランスレート……」
「どちらかと言うと通信路っぽいわね。それなら変形のトランスフォームの説明もつくし」
「なして?」
「通信において情報を保持したままデータを加工したりするじゃない。電気信号から光ファイバーの光に、とか」
「じゃあ、トランスヴァールは?!」
「オンラインゲーム上の架空の国名なので当てはまる」
「悲しい」
「違うならちゃんと説明しなさいよ」
「いやー、よく覚えてないんだよね、これが」
「あーあ」
「トランス状態の国とかなんじゃない?」
「今の話をまとめるとトランス状態は……通信状態?」
「そう、つまりトランスヴァール共和国は通信の秘密を守るために地図上から姿を消してしまった幻の国」
「なの?」
「たぶん違う」
「ね」
現在の南アフリカ共和国
北部にあったオランダ地域